戦慄!女ストーカー -2ページ目

第54話 契約は無効

公園は私の部屋から徒歩5分ほどの距離だった。



私は公園まで歩いて行き、 「契約」 の相手であるヒデという男性が現れるのを待った。 相手の人相も年齢も知らないが、さっきの手紙の内容から察するに危険な人物であるのは確かなので、いつ襲われても対処できるように、携帯の画面には常に警察署の電話番号を表示しておいた。 何かあったらボタンひとつ押すだけで警察署に電話を掛けるつもりで構えていた。



公園を行過ぎる人を私はビクビクしながら目で追っていた。 いつヒデが現れるか分からない。 もしかしたら今日は現れないかも知れない。 公園には現れず部屋の前で待ち伏せているかも知れない。


でも、こんな捨て身の覚悟で部屋を出て直接交渉を試みる私も、一握の希望を捨て切れなかった。 事情を話せば 「契約」 を解消できるかも知れない。 諦めて帰ってくれるかも知れない・・・。





20分ほど待った頃、私の座っていたベンチに向かって、一人の男性が歩いて来た。


私の身体はガタガタと震えていたので、

頼みの綱である携帯を落とさぬよう両手で包み込んだ。


男が一歩一歩と近付いてくる中、 「1時間後の私はどうしているだろう?」 という事を考えた。 無事誤解を解いて警察に報告しているのだろうか? それとも・・・。






「かすみさん・・・。」






少し離れた場所で男は立ち止まり、私の名を呼んだ。

私は恐怖のあまり目を皿のように見開いて男の顔を見上げたが、丁度男の背後に公園の外灯が重なる形になり、逆光で顔は確認できなかった。 それがまた余計に恐怖を煽り、私は必要以上に大きな声で返事をし、立ち上がった。






「契約は・・・どうなっていますか・・・?」






やはりこの男がヒデだった。

しかし、ヒデの落ち着き払った態度から、私は妙な変化を感じ取った。





「ごめんなさい・・・。

 私は確かに高橋かすみです。

 でも、契約を交わしたのは私ではありません・・・。

 私は・・・ ポストに入っていたアナタからの手紙と現金で、

 初めてこの契約の事を知ったんです。」





ヒデを逆上させないよう、私は落ち着いた口調で説明した。

いつでも逃げ出せるよう咄嗟にベンチから立ち上がったものの、両足はガクガクと震えたままで、声も上ずったような変な声になってしまっていた。





「あぁ・・・。 やっぱりそうでしたか。」





ヒデは笑ったような声でそう言った。 そして、 「何もしないから座ってください。」 と言った。 ヒデは少しだけ私の方へ近付き、私がベンチに腰を下ろしたのを確認すると、ベンチの脇にしゃがみ込んだ。






「怖い思いをさせてしまって済みません。

 俺、てっきり本人の投稿かと思って・・・。

 って・・・あの、○○待ち合わせ掲示板って所で、

 俺がアドレス晒してたらメールが来たんですよ。

 そのメールの主が、かすみさんって名乗っていて・・・。」






ヒデは50代のオッサンではなかった。

外灯の灯りに照らされたヒデの顔は、20代後半か30代の若い男の顔だった。






「じゃあ、かすみさんは、俺がメールしてた人物とは違うんですか?」






私は大人しく頷いた。






「いきなり変態チックな手紙をポストに入れたからビックリしましたよね(笑)。

 俺、かすみさんが帰宅するのを待ってたんです。 ごめんなさい。

 そういうストーカーみたいな遊び・・・プレイの契約を、

 かすみさんが希望されてるって事をメールで伺っていたので・・・。

 マニアックな性癖あるけど、俺、一応普通の人なんで大丈夫ですよ。

 契約が無効だと分かれば、俺何もしませんし。」




「はい・・・。

 あの、私の情報って、どこまでヒデさんに伝わっていたんですか・・・?

 私、こんな事をヒデさんに聞くのはオカシイと分かってるんですけど、

 自分の受けてる嫌がらせとか、犯人とか、いまいち分からないんです。

 だから、少しでも情報をもらえたら・・・。」




「かすみさんの情報は・・・高橋かすみって名前は、本名なんですよね?」




「はい・・・。

 あ、ベンチに座ってください。 気を遣わせてしまって済みません。」




「あ・・・ありがとう。

 名前、住所、外から見たアパートの写真、普段使ってる駅の写真、

 携帯の番号とアドレスも聞いてるけど、携帯には絶対連絡するなって、

 かすみさん・・・いや、偽かすみさんに言われてました。」







思い掛けぬヒデとの会話で、次々と事の真相が明かされて行く。