十代最後の春も終わる頃の話。

当時まだ車の免許を持っていなかった俺は、働いていた土建会社の社長に「ダンプ乗れる人間増えたら、現場回すの楽にならないすか?」と提案し、車の免許取得の為の合宿費用を借り、初めての長期の休みをいただいた。

合宿なんて当時の俺にとっては、未だ見ぬ地でのハプニングやラブロマンスが待ち受けていると確信し、とにかく楽しみで仕方がなかった。


北関東の都市にあるその教習所に着き、これからしばらく一緒に過ごす仲間と挨拶を交わした。

大宮から来ているチーマー、横浜から来た学生、泊まりはしないが通いで合宿プランで来ている暴走族、一人だけ女の子で来てたちょっと離れた市内に住むヤンキー娘、指のないとっぽいおじさん、後は数名。

男の相部屋は若者チームとおじさんチームに別れる事となった。

しばらく合宿生活をしていたら、通いの暴走族もちょくちょく部屋に顔を出すようになり、暴走族Kに街を案内させたりするような関係になっていった。

Kは街では顔らしく、歩いていると地元の不良少年達に挨拶されていた。

なぜだかKは非常に従順で、その地方都市では我が物顔で歩く俺に対し、不満を持っていたであろう不良少年達を制するように振る舞ってくれていた。

そのおかげで特にその地ではトラブルには発展する事もなかった。


楽しみのもう一方のラブロマンスだが、これが非常にモテにモテた。

通いで来ている地元の教習生から、地元のナンパスポットから、とにかく声を掛けて嫌がられる事が皆無だった。


楽しい合宿生活は過ぎ行き、横浜の学生以外みんな合宿も終了という前夜、共に過ごしたみんなで飲みに行く事となった。

それまであまり交流もなかったおじさんチームも交えて。

しばらくは楽しく飲んでいた。

Kとおじさん、チーマーが揉め出すまでは。

Kが普通のおじさんに対し「手前えとは初めて接するのにその口の聞き方はなんだ」という下らない言い合いに、チーマーが止めに入って泥沼になった構図。

実に下らなかったので、一人一人に一喝する。

Kには年功序列を説き伏し、おじさんには酔った上での発言を注意、チーマーには止める事もできない喧嘩の仲裁をするなと三人に怒鳴り付け、揉め事は終了した。

とっぽいおじさんがその揉め事に入ろうとしていたのに気付いていたので、早期解決の為、そこにいた誰よりも怒っている演技で冷静にさせたのだ。

揉め事に参加できなかった、とっぽいおじさんAがちっと舌打ちしたのに気付いていた。

なんだかんだありつつも最後は笑顔で帰ろうとした時、合宿所に戻ろうと停めたタクシーに対し、とっぽいおじさんAが絡み始めていた。

「お前らタクシーは地元じゃない合宿に来ている人間や、観光客乗せた時わざと遠回りしやがって…」

聞いていたらAが合宿がつまらなくキャバクラに行った時、何度も遠回りされた鬱憤があった事、つい先ほどの揉め事で熱くなったものの俺のせいで不完全燃焼に終わった何かを、運転手にぶつけ始め運転手を引きづり下ろそうとしている。

自分が矢面に立つ揉め事以外を見ているのは非常に気分の悪かった俺は、Aの胸ぐらを掴み引きづり回した。

当時土建会社に勤めながらストイックに筋肉トレーニングしていたので、指のないAの体はとても軽かった。

Aは焦り落ち着いたのか「分かった悪かった」を繰り返している。

最後の最後に気分を悪くさせられた事は納得いかなかったが、自分が冷静さを欠いたらいけないとそこで終了させる事にした。

各々戻りその夜を終えた。


合宿生活を終え、帰りの方向が一緒だった俺とチーマーを呼び止めるA。

昨日は悪かったとお詫びに、Aが住む新宿も新幹線は同じだからと、新幹線の代金を出すと提案してきた。

合宿生活中、夜遊びの繰り返しで金欠気味だった俺は快く承諾、帰りの道中は三人で楽しく話をしていた。

Aは歌舞伎町で飯の種を得ている事、歌舞伎町なら俺の庭くらいに豪語していた。

「オサムの事気に入ったからよ、いつでも歌舞伎町遊びに来いよ。キャバクラでもクラブでも連れてってやるから」

半ば強引にAと連絡先の交換をさせられた。


このAが俺の歌舞伎町での二十代の生活のきっかけになっていく事、その後壮絶な死を迎えていく事になるのだか、それはまたのお話。