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HERMES

 

もう15年から20年前に購入した手帳です。

某セレクトショップのディレクターの人が愛用されていて

それでパリに行ったときに、サントノーレの本店に出向き、

片言のフランス語で会話しながら

ようやく手にした手帳です。

 

写真ではよくわかりませんが、手帳は小振りなサイズ。

片手で持てるくらいで、リフィルも専用のもの。

手帳の上下にフックが付いていて、リフィルを引っ掛けるように装着します。

 

昔のものが手元にないのですが、

確か1日1ページを書き込むリフィルを購入したと思います。

それしかなかったのか、それを選んだのかはよく覚えていませんが、

1年が3冊か4冊の分冊になっていて、

多くの人がそうだと思いますが、数ヶ月先までスケジュールを

考えながら仕事をする私には

リフィルをまたいての書き込みが出来ないという不便を感じ、

2年くらい使った後は、スケジュール表ではない

無地のタイプのリフィルを購入。リフィルも安価ではないので

気軽に書き込めないとだんだん使わなくなり、

書棚に仕舞ったままになっていました。

 

先日そのディレクターにこの手帳について再び話を聞きましたが

愛用の手帳は「端のステッチに今度針を入れると革が切れる」と

エルメスから言われるほど修理しながら使い、現在は3代目とか。

それに比べると私など、まだまだ使い込みが足りません。

 

昨日、たまたまこのブランドのバッグを見る機会がありました。

素材の革がとにかく極上。ちょっと触っただけで

それがすぐにわかります。

しかしデザインはいたってシンプル。

トートバッグなど、中にポケットも仕分けもありません。

日本だとすぐにそういったものを付けがちですが

実はシンプルな方が絶対に使いやすいと

エルメスのバッグを見て感じました。

 

「革を見れば、作るべきものがわかる」と

以前、話を聞いた本社のディレクターの女性が仰っていましたが、

そういう言葉がまったくもって嘘に聞こえない、

いや言うに相応しい、偉大な存在だと、改めて思った次第です。

 

M

 

 

 

 

 

 

 

『New Gentleman's Hand Book』

 

最近のユナイテッドアローズのカタログは、本当に秀逸な出来栄えです。

これは先日送られてきたUNITED ARROWS & SONSのカタログというか

片手で持てる、昔のアメリカのペーパーバックみたいなデザインの本です。

有名なペーパーバックで、ペンギンブックというのがありましたが

右下のマークを見るとペンギンがシルクハットをかぶっているように見えます(笑)。

背表紙にはプライスタグまでそれ風にデザインされており、

グラフィックを担当された方の徹底した美意識が感じられますね。

 

28と29ページに菅原敏という詩人の作品が載っています。

 

それがとてもとても素晴らしいので、そのまま書きますね。

 

現代ダンディズムのための信条および技術

詩 菅原 敏

 

シャツよりも季節に袖を通せ。

流行は夕立のように過ぎると知れ。

愚痴を言いそうになったらポケットチーフを食え。

ファッションの海を裸で泳ぎきれ。

多くを語るより、一篇の詩を書け。

その腕時計は川に投げ捨てろ。

甘ったるい匂いをさせて蜂に刺されるな。

服を買う前にスタイルを知れ。

ブレスレットはするな。

3年に一度、すべてを捨てること。

約束を破ったら、一度、腹を切れ。

思い出に浸るのは1日3分までにしろ。

金のことは、もう言うな。

恋人と雨音の数を数えろ。

煙草を吸うよりは雲を作れ。

ファッション雑誌は見る前に燃やせ。

時には自分自身をクリーニングに出せ。

くるぶしを出しすぎて風邪をひくな。

ひとりのテーブルでも皿の上を整えろ。

ワインの香りを何かにたとえるな。

時間という若さの馬鹿野郎たちに媚びるな。

お洒落だと思うなら、着た切り雀になれ。

iPhoneをハンマーで叩き、魂を身体に戻せ。

折り畳み傘を持ち歩く臆病者になるな。

内ポケットに心の優しさを忘れるな。

嘘をついてネクタイを締めるな。

スーツをオーダーし、笑うために生きろ。

書物を読み、書物を纏え。

ダンディズムはSNSではなく自らの足跡に残せ。

大衆を撃ち、孤独の中で洗練に恋をしろ。

(出典:『New Gentleman's Hnd Book』ユナイテッドアローズ)

 

詩人菅原敏さんが2011年に発表した『裸でベランダ/ウサギと女たち』は

アメリカの出版社で発行されたもので、

Superflyなど、ミュージシャンに詩を提供、幅広く活動する人ということです。

この作品はビート詩人ジェック・ケルアックの

「現代散文のための信条および技術』へのオマージュ。

 

素晴らしいのひとことしか思いつきません。

 

何でもこの本は4種類の表紙があると聞きました。

今度、お店でチェックしなければ。

 

M

 

MOONSTAR RALY

 

どうしても取材に行ったブランドや取材で知った技、機械などには

関心を持ってしまうものです。

 

これは久留米で作られるスニーカー、ムーンスターの「ラリー」というモデルです。

ムーンスターというと昔ながらの「ヴァルカナイズ製法」のスニーカーが有名です。

アッパーにゴム底を接着し、硫黄を加えて加熱と圧力をかけることで接着させる

手法で、大きな釜に出来上がった靴を入れて完成させるので、

巨大な設備がいるのです。

ムーンスターはこの製法でスニーカーを作る国内では数社のひとつです。

今年、幸いにも久留米の工場を見せてもらい機会があったのですが

この「ラリー」というモデルは、そのヴァルカナイズ製法ではなく、

「インジェクション製法」という技術で作られた最新作です。

 

インジェクション製法はアッパーに底金型をセットし、

そこに液状の樹脂を注入して接着する製法で、

底とアッパーの結合が強いのが特徴です。

欧米では靴下に底を付けたと言われるくらいの快適な履き心地の靴が出来上がります。

欧米ではフランスのブランド、スプリングコートがこの手法で

名品を作っていますが、金型の製作が大変です。

 

久留米の工場でこの金型の製作場面も見せてもらいましたが、

ソール面やインソールの造形などはすべて手作業で。

まさに職人技で金型を製作していました。

金型の製作にも資金がいるので、簡単にはこの製法の靴は作れません。

 

 

このソール周りのカーブした造形や

アウトソールに入る紋様などもその時久留米で作られていた

金型で製作されているかと思うと、ちょっとグッときてしまいます。

 

そんな話はともかくとして

この「ラリー」、シンプルそのもののデザイン。

私は昔買ったスタンスミスをイメージして黒を選びましたが、

白だともっとクリーンな印象です。

アッパーはキャンバス地ですが一見するとレザーのようにも見えます。

ロゴも何も入っていないデザインに潔さを感じるのでは。

 

これでアンダー1万円で買えるのですから驚きです。

 

先日、ヨーロッパの老舗シューズブランドが

同じインジェクション製法で靴を作っていることを知りました。

いまは3Dプリンターで金型を製作しているので

サンプルの型は、24時間で作れるのだそうです。

 

久留米では引退した職人さんが会社に戻って

若い人に金型製法の技術を指導していましたが

3Dプリンターを使えば、短時間で型も作れてしまうのですね。

久留米で見たからかもしれませんが、このソールのカーブは

人間だから成せる技だろう、と思うのは私だけでしょうか。

 

M