美味しんぼの作家 「美味しんぼ福島編」について語る。 | ロスからの声

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「美味しんぼ」の「福島の真実篇」について

今、私は「美味しんぼ」の「福島の真実篇」を書いている。
ビッグ・コミック・スピリッツ誌の連載も、今週で3回目になった。

福島の取材は、2011年の11月から始め、2012年の12月に、一段落付けた。
福島県は、地図を見ると分かるが、東西に、海岸沿いを「浜通り」、中央の山間地を「中通り」、新潟県沿いを「会津」と分けてよぶ。(画像はクリックすると大きくなります)


結局1年とちょっとの間、福島に通ったのだが、非常に厳しい取材だった。

それ以前に「被災地篇」を書いたときの取材も厳しかった。(単行本第108巻「被災地篇・めげない人々」)
私は「美味しんぼ」の中で、東北各県を取材して回っていて、その際にお世話になった方達が震災の後どうして居られるか、それが心配になって、宮城、岩手、青森各県を回った。
実際に、巨大地震と津波の被害にあって、生活の基盤を破壊されてしまった方達に被災の実態を伺って歩くのは、その中には親族の方を亡くされた方も居られて、辛い取材だった。
しかし、さすがは粘り強い東北人だけ有って、皆さんめげずに復興に取り組んで居られた。(その実際の姿を、単行本第108巻で是非ご覧になって頂きたい)
しかし、その中で、殆どの方が、「復興しようと努力しているんだが、福島の原発のことを考えるとなあ、ふっ、と力が抜けてしまうんだよ」と仰言った。
たしかに、福島の原発にもう一度何か大きなことが起こったら、宮城も岩手も青森も、復興どころではなくなってしまう。
そうは言いつつも、皆さんしっかり復興への努力を続けておられる。
昔通りには仲々簡単には戻らないだろうが、それでも着実に歩み続けておられる。

さて、それでは福島はどうだろうか。
福島については、色々な方が、それぞれの立場から意見を述べておられる。
福島県の人は全員福島から避難するべきだという人。
少なくとも子供達は全員雛させるべきだという人。
福島は全く安全だ。福島が危険だという人達は悪質な扇動家達だと言う人。
同じ福島を論じるのに立場が違うとどうしてこんなに言うことが違うのだろう。
立場が違うんじゃない、私の言うことが理にかなっているのだ、と言う人もいる。

では、一年間取材した私の福島に対する考えはどうなのか。
勿論、私には自分自身の考えは出来た。
この一年、心身共にくたくたになるほど福島に打ち込んできた。
自分独自の考えを抱かぬはずはない。
しかし、私は決めた。
「美味しんぼ」の福島篇では、私がどう思うかを表明することは止めにする。
反原発であるとか、原発推進であるとか、そのようなことを漫画の中で言うのは止めた。
そのような、一つの意見で漫画全体に色を付けてしまうと、なにやら、宣伝パンフレットみたいになってしまう恐れがある。
一つの考えを読者に押しつけるのも嫌だ。
で、私は、今回の「美味しんぼ」福島篇は「福島の真実篇」とした。
私が見てきた福島の真実を、その真実の姿だけを書く。
それに対してどう考えるか、それは読者にお任せする。
私は読者が色々と物を考えるための材料を提出しようと思うのだ。

今までに、テレビ、新聞、雑誌などで、福島について大量に報道されてきた。
しかし、それを受けとる方は、何か断片的に情報を得るだけで、福島で一体何が起こっているのかその全体を一つの形にまとめることは難しいのではないかと思う。
「美味しんぼ」はその点を考えて、福島の真実をまとめてつかめるように工夫した。
「美味しんぼ」を読んで頂ければ福島の真実を大括りにして掴む事が出来るとおもう。
そこで、私は漫画の持つ記録性に賭けた。
「美味しんぼ」は連載開始以来三十年になる。
しかし、三十年前の第一話を、まだコンビニエンス・ストアで売っている本で読むことが出来る。
現在の「美味しんぼ」の読者の中には、「美味しんぼ」が連載を開始する以前に生まれた方も少なくない。
そう言う方も、読んで頂けると言うことは「美味しんぼ」は三十年以上の寿命を持っている、それだけの記録性を持っている、と言うことだと思う。
漫画の持つ優位性は、新聞・雑誌などの記事より遙かに長い間世間に流通する、長い間世の中の人々に漫画の内容を伝え続けることが出来ることだと思う。

だから、ここで安易に一方の偏った意見を漫画に書いてしまうのは間違いだと私は思ったのだ。
私のするべきことは、まず、現地をしっかり見て回ること。
そして、見て回ったことを漫画に、記録として残すこと。
漫画は、絵とセリフが一体となっているので、その場の状況を理解しやすい。
「美味しんぼ」の「福島の真実篇」を読んで頂ければ、何が福島で起こっているのか、はっきりと、しかも、きちんと全体像を理解して頂けると思う。

これが、私の今回の「美味しんぼ」「福島の真実篇」に対する態度である。

雁屋 哲





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