昨夜のことだ。僕は10ccの名盤「How dare you!」にうっとり耳を傾けていた。そのとき、悲劇が突然訪れた。

 

10cc – How Dare You!  (Mercury –SRM-1-1061, Japan 1975)

 

 おや? コーラスが揺れて聴こえる。いや、そういうアレンジだったかも? 10ccならやりかねない。いやいや、絶対おかしいレベルで揺れてるぞ!

 

 プラッターを見ると、はっきりわかるほどグラグラ上下動なう、だ。慌ててスイッチを切る。

 

 大型モバイルバッテリーをAC電源にしてるので、その出力に問題発生か? これ故障したら困るなあ。

 

 全然ちがいました。

 

 

 ゴムベルトがブチ切れ寸前だ。ついにこの日が来たか。

 

 20年前にAriston RD11s嬢を手に入れたときのベルトだ。今まで健全だったのが、むしろ不思議というべきか。

 

 幸いスペアが1本ある。これも20年前のものだが…

 

 

 念のためにラバープロテクタントをプシュっと吹いてから、交換してみた。ああ、いい感じだ。例のRPM測定アプリで測るとワウは0.20%。以前と変わらない。

 

 これで、あと20年は安心… と言いたいが、それは楽観的すぎる。スペアを調達しておかないといかん。幸い、eBayで"Ariston RD11s rubber belt"と検索すると、いくつもヒットする。日本円で2,000円ちょっとでコピー品が買えるが、アメリカやイギリスからの送料が同じぐらいかかるのが難。海外送料、こう値上がりしては海外のレコード店に気軽にオーダーなんてもう無理だな。

 

 画像でもわかると思うが、Aristonのゴムベルトは他のメーカーと違って、断面がスクエアなタイプだ。この形状に合わせて、プーリーV字にカットされている。それとも、プーリーがこの形状なので、ベルトをそれに合う形にしたのかもしれない。

おまえは国内盤なのか、輸入盤なのか?

 蛇足になるが、この10ccのアルバムは、帯欠品国内盤として相場より安く買えてホクホクした逸品だが、ある日、インサートがベロのように折り返しになっていて、帯として外に出せることに気がついた。そこに「アメリカ直輸入盤」と晴れがましく書いてある。アメリカ盤にインサートを付け足した、なんちゃって国内盤だったんである。

 

 まだ国内のプレス技術に不安のあった70年代には珍しくない売り方だが、これがこの形でリリースされたのが1975年で、早くも翌年には日本のプレス工場で製造された100%ピュア国内盤がリリースされている。そっちは通常の帯が付いてるからか、海外のコレクターにはむしろ人気のようだ。

 

 そうなると、この直輸入盤のEQカーブが気になるというもの。レコード会社は米Mercuryだが、プレスはColumbiaTerre Haute工場だ。70年代半ば、時期的に、これはRIAAではなくColumbiaカーブの可能性が高い。

 

 実際、Columbiaカーブで再生してみると、がぜん音が生々しく、いい意味で暴れ気味になる。ギズモトロンのシンフォニック感が増し、B面ラストのガチョーンが気持ちよく耳に刺さる。これを中古で買ったのはまだ20世紀。当時EQカーブの違いを気にする人など皆無であって、僕も「悪くはないけど、全体にモコモコして眠い音だなあ」と、やや気落ちしながらレコード棚にしまい込んだ覚えがある。そうか、EQカーブのせいだったのか。

 

 それはそうと、この「アメリカ直輸入盤」は帯付きのインサートをロストすると、アメリカ盤とさっぱり区別がつかなくなる。相当数が、米オリジナルと書かれて中古市場に出回ってるのではなかろうか。