20年前に手に入れた日から気になっていたのは、アームリフターの不調。オイル抜けのせいで引力の誘惑にあらがえず、ストンと落ちる。当時はネットにメンテ動画がただで見つかるお気楽な時代ではなく、下手に分解して戻せなくなったら困るし、第一、どんなオイルかもわからない(これは僕の不勉強で、当時も今も、正規代理店からSME純正のシリコンオイルが手に入る)。
だが、ときは来た。YouTubeには親切な動画があるし、手元にはシリコンオイルもある。機は熟した!
トーンアームを丸ごと外さないと作業できないと思っていたが、その筋の動画を見るとターンテーブルに付けたままで問題ないようだ。中腰になるので、腰がつらいが、これは別問題。
まず、アームを直接持ち上げる、黒い樹脂製のパーツを外そう。これはただ刺さってるだけなので、竹串でこじって抜けばよろしい。
次に、カバーを外そう。
これもかぶせてあるだけで、ネジはない。底のわずかな隙間に竹串を刺し、こじる。
この個体では簡単に取れたが、固着して取れない場合もあるようだ。
作業しにくいので、ラテラルウェイトを少し引っ張り出したのが次の写真。
カバーを抜き取ると、樹脂製の内ブタが露出する。2個のネジで留めてあり、ゆるみ止めに接着剤が盛られてる。ドライバーの先端で接着剤を削り落してから、慎重に回そう。下にバネが入ってるので、無造作に外すとネジがはじけ、宇宙開発に飛び去ってしまう。
内ブタを外すと、いよいよ内部の昇降メカニズムが姿を現す。多分、人の目に触れるのは工場出荷以来だろう。1977年以来ってことか。
バネを取り出して分かったが、オイルはゼロ。空っぽだ。逆さまで保管したのかねぇ。
ここにシリコンオイルを入れるわけだが、オイルの硬さがよくわからない。企業秘密?
とりあえず、柔らかすぎると意味がないので、一番硬い100万のシリコンオイルではじめてみよう。なお、この作業はリフターのレバーを下げた状態でやる。
爪楊枝ですくって盛ってみたが、どうも100万だと硬すぎる気がする。水あめ程度の硬さかな。この小さな穴から下に落ちるには1週間かかりそうだ。
不安になってきたので、ネットで検索したら、英語のページに純正オイルの固さは「20万」だと書いてあった。なーんだ。
多少硬いのはいいだろうと、100万に20万を継ぎ足すことにした。純正ではないが、工業用のシリコンオイルだ。ホビー用ではない。
[2024.03.16追記]
純正シリコンオイルの粘度について、英文サービスマニュアルには「100万」と書かれている、とご指摘があった。わざわざ連絡していただいたことに感謝したい。もし「20万」だと信じてオイルを充填して期待を裏切る結果になった方がいたら、まことに申し訳ない。ただし、我が家の3009 S2 imp.では「20万」のオイルでリフターの動きに問題はないので、さほどシビアなセッティングではないのかも。
肉眼だとわからないが、こうして写真を拡大すると、気泡の多さが目立つ。ゴミが入らないように養生してから、一晩放置。
翌日がこれ。素晴らしい!
忘れずにバネを戻そう。これも自然に沈むまで、小一時間ほど放置。
この上に内ブタを取り付けたいが、小さいネジをアームベースの隙間からキャビネットの中に落としそうで怖い。落としたら、ターンテーブルをひっくり返して底板を外して探さないといけない。考えただけでゾッとするので、隙間をコットンパフで埋めてから作業に入った。
ネジを締めると、余ったオイルが隙間からにゅるにゅる。綿棒で拭き取ろう。
アームを持ち上げるパーツも戻すが、このときもオイルがあふれ出る。
もう一息だ。カバーを取り付けよう。
内側を見ると、接着剤がまだ付いてる。これは削り落そう。カバーが固着して外れないことがあるのは、多分こいつのせいだな。
これで作業は完了。さっそくリフターの動きを試してみたが、まだ気泡が残ってるのか、動きがカクカクでスムーズじゃない。少しだけ降下も速いかな?
針が痛むほどではないので、そのまま使っていると、数日で動きがスムーズに。降下速度はやや速いが、新品時の動きを知らないので、こんなもんかもしれない。実用上の問題はなく、素人がやったメンテとしては上々の部類だ。
次のメンテは40年後かな?それまでシリコンオイルを大切にしまっておかねば。このアームは人類の宝だからね。
我がSME 3009 S2 imp君。カートリッジを激しく選ぶが、ハマったときの音は絶品。
Soft Cell – *Happiness Not Included (BMG – 538704541) 2022年