SATINのカートリッジ。なんだか、ますます人気だ。
まともに鳴る良品が少ない稀少性。
ありえない、変態かつ精緻な発電構造。
神秘的、いや宗教的とも言える、うさん臭い商品説明の中毒性。
フェチには堪らない、使いこなしの難しさ。
我が道を行く、武骨なデザイン。
出力電圧が高く、MCトランスやヘッドアップがいらない。
なんといっても、出音の個性、唯一無二性。
-こんなところだろうか。人気の理由は。
我が家のサテン勢は、M-11とM-14のみ。どちらも、ノーメンテで性能を保ってる。誠に、ありがたい。
サテンといえば、ダンパーレス構造が最大のウリだが、M-11まではゴムダンパーがある。
あると言っても、メタルのアーマチュアにペラペラのゴムが貼ってあるだけだが。
サテンは、この憎っくきゴムを剥がすのに、恐るべき執念を燃やして研究を重ねたと言える。
M-14は、このゴムを追放したタイプのエントリーモデルとなる。
ただし、その音を聴く限り、サテンはこの「進歩」と引き換えに、音を犠牲にしたとしか思えないのだ。明らかにM-11の方が、鳴りっぷりがいい。
低域のおとなしさ、高域の張り詰めた緊張感は共通するが、聴いて楽しいのはM-11だ。
1つひとつの楽器の周りに、空間がある。余分な響きがその隙間を埋めてしまうカートリッジが多いなか、M-11嬢は楽器の音色を明瞭に聴かせる。もとより、抜群に低ノイズであって、歪みもまったくない。
この清浄な音がサテンだ。
気のせいか、金属製の楽器がより金属的に聴こえる。一方、ピアノは少し硬い。ベースは指使いが見えるほどの解像度はなく、バスドラも大人しい。
ギターを細かく刻むタッチ、スラップベースのアタック。ときどきハッとするのが、こういう音だ。
結局のところ、過不足のない音を聴かせる優等生のカートリッジより、脳に刺激を与える無類の個性があるカートリッジのほうが面白い。人間くさい。
構造を理解してからは、LPの片面を再生した後で、いったん休ませることにしてる。このご婦人には回復の時間が必要だ。