少し遅くなりましたが、全日本の男子・女子のフリーの感想を。



改めて、メンタルの大切さを認識した試合だった。

代表を1回の試合で判断するのに疑問がない訳ではないが、
その1回を決めれないものは、大事な試合で結果が出せない可能性も高い。


メンタルの揺れは、それは些細なものであっても演技に反映される。


高橋・織田・小塚の3選手はテクニック的には突出していた。
スピード、エッヂワーク、ジャンプの質。
それぞれが素晴らしい。

しかし、織田・小塚 両選手はほんの少しの心の揺れが演技に表れていたように思う。
小塚選手はいろいろ思うところがあって、どこかに優勝したくないという気持ちがあったのかもしれない。
最高の演技とはいかなかった。

織田は最終滑走ということもあり、固くなっていたように見えた。

その心の揺れが、ほんの僅かののズレを起こし、それは1/100秒以下のものなのであろう、
失敗を呼んだのだと思う。
2人とも演技は悪くなかったが、最高ではなく、感動を呼ぶものではなかった。


羽生もそうであろう。

そして、本人もコメントしていたが、体力不足が顕著だった。
転倒してから立ち上がるまでの時間も長く、転倒によって体力が奪われ、その後の演技は良くはなかった。
ショートは素晴らしかっただけに、残念ではある。


鈴木明子もだった。

今までの彼女への扱いがある上、ショートでの不可解な採点が止めになったのであろう。
本当に良くない演技だった。
ショートでもフリーでもルッツとフリップのエッヂを非常に気にしていた。
元々固かったのに、ミスが更に体を固くした。
いつもの彼女であれば、観客の心を大きく揺り動かし、スタオベだったはずだ。

少なくとも、私が生で見た彼女は、いつもスタオベを貰っていた。

あれは彼女の演技ではなかったと思った。

哀しかった。
どうして、こんなことになったのだろう?
彼女ほど、心を動かせるスケーターは滅多にいない。
彼女の演技を再び世界に見せたかった。
代々木でスタオベを貰って欲しかった。

一番辛い本人が「これじゃ辞められない」と言っていた。
複雑だ。
彼女が引退しないのは嬉しいが・・・。

四大陸では絶対に表彰台に乗って欲しい。


その逆だったのが、村上佳菜子である。
グダグダで、スピードもなく、酷いショートであったが、
フリーでは見事な演技。
スピードもあり(漕ぎ漕ぎで汚い滑りではあるが)、
演技も大きく見えた。
誘導もあっただろうが(ショートでの手拍子は失敗していたが)、
半分くらいのスタオベを貰っていた。

彼女は基礎が全く出来ていない。
滑りは汚いし、ジャンプも汚い。
ジャンプはフリーに登場した24人の中で一番汚かった。
(それで加点が貰えることの不思議さ)
飛ぶ前の姿勢も、ランディングの姿勢も汚い。
軸も曲がっている。
スピンやスパイラルのポジションも汚く、姿勢も悪い。
技術的にはいいところが全くない。
酷いものだ。

しかし、フリーではひきつける演技をした。
自信に満ちて、会場を引き込んだ。
(バンクーバーでのキムの演技もこのような感じだったのだろう)

これはなかなかできることではない。
しかも16歳で!
心臓に毛が生えている。
そして、華もある。
これらは努力して手に入れられるものではない。
彼女も"ギフト"を貰っている選手なのだ。

メディアを利用して妙な"上げ"をしたり、
手拍子を誘導したり、ブログを攻撃したりする手法には疑問を持っていたが、
それが"合う"タイプなのだろう。
持ち上げられれば、持ち上げられるほど、実力が付いていくタイプ。
大物だ。

メディアの煽りによって持ち上げられたり、下げられたりしたら気の毒だと思い、心配していたが
杞憂だった。

また、本人も基礎についてはある程度は理解しているようである。
「真央ちゃんに追いついたと思ったけど、(ジャンプや滑りが)まだまだ」
というような内容の発言をしていた。

点数や順位に対して貪欲でありながら、
それなりに自分の実力も把握している。

これからどうなっていくのか楽しみである。
将来的に大きな成績を残せる可能性は高いと思う。



そして、揺るがない精神を持ち、
テクニックも素晴らしく、スピードもあり、
大きな演技をした3選手。

高橋、安藤、浅田である。

見るものを惹きつけ、他を圧倒した。


高橋大輔はショート同様、調子が非常に悪そうであった。
しかし、気力で演じきった。

6分間では調子が悪かったように見えたジャンプも、
本番では4回転フリップ以外はきっちり下りた。

Japan Openで見た時とはステップを大幅に変えていた。
より複雑に、たくさんの距離を移動するように。
ものすごい運動量だと思う。

最初のステップの前に、彼が気合を入れたのを感じた。
気迫のステップ。
それは"王者"の名に相応しいものである。

その後は非常に苦しそうに見えた。
気力で体を引っ張っているのが分かる。

演技が終わった後は、満場のスタオベ。
会場が一つになった。

順位は、3位に終わったが、
(それはプロトコルを見ると仕方ないことである。
やはり後半のジャンプをきっちり決めることが重要。
同じことが浅田選手にも言える。
小塚、安藤は、ジャンプが強かった。)
演技は"王者"のものであったと思う。



浅田の演技も素晴らしかった。
技術を超えた、
いや、"魅せる"ための高度な技術を持って、
それを超えた演技であった。
本当に美しかった。
非常に大きく美しい演技。
立ち姿が、
ポジションが、
動きが全て美しい。
ほんの少しのフリーレッグの動きや、僅かな手の動きすら美しい。

まさに"女王"の美しさだった。

滑りがあまりにもよくなっていて驚いた。
ジャンプも長久保コーチについて短期間で異常に進化した。
(一時期、またダメになったようで心配していたが、失礼なことであった。)
滑りも信夫コーチについてすぐに恐ろしいほどの進化をしている。
(どのコーチも教えてみたいと思うのではないだろうか?)

世界選手権まではまだ時間がある。

今でもこんなに素晴らしい「タンゴ」と「愛の夢」が完成するのがとても楽しみである。


安藤選手も素晴らしかった。
"アーティスト"としての魅力が出ているショート、
"アスリート"としての魅力が出ているフリーだと思った。

今季は一貫して安定した演技が出来ている。
軸の真っすぐな美しいジャンプ。
欲を言えば滑りが若干荒いのだが、もうそんなことはどうでもいいとすら思える演技。
前はムラがあったのだが、今季はいつも引き込んでくれる。

安定している。
彼女もまた"女王"の風格だった。



高橋、浅田、安藤の滑りは"芸術"だった。
この3人は"スポーツ"という枠を超えた演技を見せてくれた。
心を揺さぶるものであった。