ええ、そうですね。
秘密の花のはなしをしたいと思います。

かれこれ・・・。ええと、どのくらい前になるのでしょう。
とある山のふもと、とある時にムラサキの花に会いました。
ムラサキ科ムラサキ。
現在は国内の多くのところで絶滅に瀕している草です。
山の草とか花とか虫とか-ムラサキとちいさなハチ

万葉集には、
「あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る」
ほか多数、この草が登場しています。
紫野、標野は、この草を植えてあった野原のことで、高貴なかたの土地で、ほかの人の出入りを禁じられた土地のことだそうです。紫野、標野、点野、〆野、禁野、ほかにも表記があるかもしれません。

かつては、この草の根を染料として用いて、紫紺染めという染色をしたのだそうです。
紫紺染めは宮沢賢治の著作にも出てきて東北の地でも、岩手あたりで盛んだったそうです。
万葉集に登場していることからわかるように、当時から栽培されていたそうなのですが、そのころでも貴重だったムラサキは、栽培の難しさ、合成染料の普及により、栽培下でも希少なものとなっているのです。

で、これはなぜか野生の株のようなのです。
この草は、水はけのよい草原のようなところを好む草で、草原という環境は、身近なようでたいへん貴重なものとなっています。動物をあまり飼わなくなったこと、茅葺などで草を使わなくなったこと、焼き畑の減ったこと。そんなわけで、草原は減ってきたのですね。

とある草むら、一緒に歩いていたかたが、ひそひそと声をひそめて、こっそりこちらにおいで、と足跡がつかないように草むらをかき分けていきます。
「ほら、あるでしょう。これがムラサキですよ」
と教えてもらったら、首のあたりがぞぞっと、あちこちの毛がぞわぞわする想いがしました。
それに輪をかけて、このころにはまだカメラの扱いに不慣れでほかの写真は手ブレで見られたものでありません。今だったらもうちょっと綺麗に撮れるなと思ったり。
山の草とか花とか虫とか-ムラサキ

というわけで、ムラサキのありかは、どなたにも言われません。

変わって、こちらはずっと身近な草です。
こちらはアカネです。
「あかねさす」の茜、アカネ、赤根です。
こちらは、根っこを赤い色にする染色に使います。
山の草とか花とか虫とか-アカネ

うちの庭先にも、道端の草むらにも、田んぼにもあちこちに初夏のころから茎を伸ばし、晩夏のころから花を咲かせています。
山の草とか花とか虫とか-アカネの花

花はちいさく目立たないのですが、ほんのりクリーム色。おしべの黄色がワンポイントで可愛らしいです。
山の草とか花とか虫とか-アカネの花拡大

茎はとげとげがたくさんあって、ヤエムグラなどこういうつるの草はあちこちに見かけますね。
このとげとげで、草むらのなかを光のあたるところに這い上がっていくのですね。
山の草とか花とか虫とか-アカネの茎

今は実の時期になっております。
実も染色に使えるとのことです。黒く見えますが、食べてみると濃い紫色。
あ、そう、ぼくは毒ではなかろうと食べてみたのですが、果肉は薄くさりさりとした歯ざわりで、ほんのり甘かったです。でも、タネが大きく、果肉はほんの少し。
毒があるのかわかりませんから、お勧めしません。
山の草とか花とか虫とか-アカネの実

首筋がぞわぞわするほど珍しい草、いつも身近にある草、どちらも素晴らしいです。