
■家族より優先される仕事など、この世に存在しない【その28】
JR東海事故と認知症問題。
自宅介護による認知症問題の難しさを世間に知らしめたのがJR東海の事故ではないでしょうか。
2007年12月、愛知県大府市のJR共和駅付近にて認知症のおじいさんが電車にはねられ死亡しました。
91歳のおじいさんは線路の上で一生が終わる事を理解するなく生涯を閉じたのではないでしょうか。
問題はここからで、おじいさんはおばあさんと2人暮らしだったようで、遠方に住む息子夫婦が時折面倒を看に来ていたようです。
おじいさんを介護する方も介護が必要な高齢者です。
これは特別な事ではなく、日本中どこにでもある世帯構成です。
わたしでさえ認知症初期症状の母親の面倒は大変だと感じるのに、そんなおばあさんが認知症のおじいさんを完璧に介護できるはずもありません。
JR東海は人身事故による損害賠償をその家族に請求する訴えを起こしました。
細かな裁条は分かりませんが、認知症と判明しているおじいさんをきちんと管理していない監督不行き届きで家族に責任があるとの事でしょうか。
裁判ではJR東海の主張が一時認められるも、最高裁判所では家族には責任はないという判決が下りました。
私見的にこの裁判、2つの謎があります。
【謎その1】
ひとつにはJR東海という大企業が720万円程度の損害賠償を本気で請求していたのか。
以前、関西系鉄道会社の方に自殺等による人身事故で損害金を本当に請求しているのか聞いた事あります。
そしたら一概には言えないが、鉄道は半官半民の公器なので現実には請求していないと言っていました。
しかも身内を亡くした悲しみ中の家族に対し人道的にそんな請求などできないと。
だからJR東海は政治を含めた世間に対して高齢化社会問題の意識を持つよう警告を鳴らしたのではないか。
現に裁判を起こした事でメディアも取り上げ世間も注目する事になりました。
そしてこの10年の間に高齢者による高速道路の逆走やアクセルとブレーキを間違えてコンビニに突っ込む交通事故などの記事を目にする事が多くなりました。
JR東海にそのような意図はないにしろ、結果的には高齢化社会の制度限界を公にした事になるでしょう。
この事故は鉄道ですが、認知症患者は認識無しに浮遊します。
そうなれば道路での車等との交通事故、建物など高所から落ちる落下事故、川や海などの水難事故もあり得ます。
それに巻き込まれる他人が出てくる可能性あります。
その時、誰がどう責任をとるのか問題はとても大きいです。
マンション管理という仕事柄、居住者の中には認知症患者も多数いました。
古いマンションほど高齢化率が高く、その中に認知症患者が数人住んでいる事は珍しくありません。
認知症患者と判明し介護を受けている人はいいですが、認知症患者と判明してくれる家族や知人もいない高齢者もいます。
大阪の自治体に相談に行っても第三者は取次してくれません。
建物等のマンション管理をしているだけの他人には、個人の生活まで管理する権利や権限は無いと言う事です。
当然、認知症患者はマンション内で奇行を繰り返し、そのたびに他の居住者が警察を呼んでいます。
警察を呼んでも場当たり的な処理だけをして何の解決にもなりません。
これが認知症患者が増える中の高齢化社会の現状かと思いました。
大阪の自治体での非情な対応が国の一般的な福祉制度の基準と思い込んでいましたが、母親が住むトヨタ自動車城下町の自治体に相談に行ったときは逆に担当者は積極的にあれこれ教えてくれたので住む自治体によってこれほどまでに違うのかと感じましたね。
終の棲家と決めて住む場所を選ぶときは自治体の手厚い制度も検討する条件の一つかと思います。
【謎その2】
もうひとつは名古屋地方裁判所が家族に責任があると判断した事。
家族には認知症患者を監督する義務があるとの判決ですが、これは認知症という世間による責任無能力者と分かっていて監視監督を周知徹底していなかったのは義務違反との事でしょう。
ただ、この責任無能力者は何も認知症だけでなく未成年や精神喪失なども該当するでしょう。
責任無能力者を監督できず事故や事件を起こしたら家族に責任を請求できると認められれば、いろいろな事が想定できます。
精神疾患による自殺などで損害を被った場合、被害者等はその加害者家族に損害賠償請求できるのか。
犯罪歴が多い加害者が犯罪を再発するたびに、被害者等はその加害者家族に損害賠償請求できるのか。
精神疾患や犯罪者は当然にその周りの家族も周知してるはずです。
まったく予期・予知していなかった事は考えられません。
民法用語でいう知らなかったという善意ではなく、知っていたという悪意です。
要は損害賠償請求の連帯保証みたいなものでしょう。
そのような人を家族に持てば24時間365日、四六時中一緒に居て監視しなければなりません。
政府は介護離職を防止するため様々な政策を講じていますが、これに矛盾する事になります。
認知症を含めた自宅介護はそもそも仕事をする時間とタイミング調整が難しいという事です。
管理をする大阪のマンションでもそんな家族が多数存在しています。
それでも大阪の自治体では相談に行っても本気で援助や救済はしてくれません。
『面倒を看る家族がいるなら、とりあえず家族が何とかしてください。』という助言だけはもらえますが。
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