それは、ある夏の日の事だった…
雨上がり Breake Cloud隙間から 青空が手招きしてる
Alright そろそろ行こうか
無限書庫司書ガーニィ・レイザはその日、3か月ぶりの休暇でクラナガン市内をぶらついていた。
…本来はもっと殺人級のスケジュールが続く予定だったのだが、日に日に凶暴性を増し、後輩司書達に罵声を浴びせまくる彼を見かねて、上司であるユーノ・スクライア司書長から休暇を取るよう厳命が下ったのだ。
「あの人は…自分は平気で無茶するくせに、他人の無茶には厳しいんだからなー…」
愚痴りながらも、ユーノのそんなところも敬愛しているガーニィは、渋々従う形で休暇を過ごしていた。
…ちなみに、ユーノがガーニィに休暇を取るよう命じたのは、彼の身を案じての事であるのは勿論の事だが、凶暴化して暴言が五割増しになっている彼が、資料の請求や受け取りに来た他部署の人間と揉め事を起こさないようにする為の措置でもある…
誰かが言う Logic信じない 直観は信じていたい
High Time 始まりを探して
同じ頃、武装隊員ゴトー・クサカは、チンピラの集団に取り囲まれていた。
所属する隊内でタチの悪い同僚達相手に喧嘩騒ぎを起こし、謹慎処分を受けた彼は、夕飯の食材を買いに出たところで、チンピラ達に絡まれている子供達に遭遇。
咄嗟に割って入り、何とか子供達を逃がしたゴトーだが、今度は彼がチンピラ達の標的にされてしまったのだ。
「おう、兄ちゃんよ、俺らに因縁吹っかけてきて、五体満足で帰れるなんて思ってねえだろうなァ?」
「俺達『デス・ラヴァーズ』は、この街じゃちょいと知られた集団なんだぜェ?」
いかにもガラの悪そうな服装、頭の悪そうな台詞の面々を前に、ゴトーは、
(…うわあ。参ったね、こりゃ)
…と、呆れと憂鬱の入り混じった溜息を心の中でついていた。
見たところ、人数とこけおどしの見た目に物を言わせ、弱い者苛めを繰り返して、自分が偉く強くなったつもりになっている、救いようの無いゴロツキの集まりといったところか。
そんな最低の連中相手に、武装隊の自分が本気を出すのも憚られる…
などと考えを巡らせ躊躇していたのが、彼の命取りとなった。
ボカァッ!!!
「ぐはっ…!?」
「今だ!やっちまえー!!」
「ヒャッハー!血祭りだァ!!」
ドカバキボコガスドカバキボコガス…
ゴトーの背後に忍び寄っていたチンピラの一人が、手にした金属バットで彼の後頭部を殴打した。
そしてゴトーがよろけた瞬間、チンピラ全員が殺到し、そのまま彼を袋叩きにし始める。
(畜生…油断した…!)
後悔先に立たず。
真っ向勝負なら人数差などものともせず、この程度の雑魚集団は蹴散らせただろう。
しかし先手を取られた上に、そこからすかさず数に任せてペースを握られては、反撃の機会を見出せない。
…ゴトーは今、思わぬ形で、絶体絶命のピンチに陥っていた…
Fire Up,Ignition
ヘヴィーなプレッシャーぶっ壊して アクセル踏み込め
「………何だ?この騒ぎは…?」
コンビニで購入したアイスキャンデーを齧りながら街中を散策していたガーニィは、路地裏から何やら物騒な声や物音が聞こえてくるのに気付き、進行方向を変えてそちらに足を進めた。
そこで彼が目撃したものは…
「オラオラどうした?正義の味方気取りのお兄さんよォ!?」
「ヒャッハー!俺達に刃向おうなんざ、10億万年はえーんだよォ!!」
…明らかに頭の悪そうなチンピラ集団が、誰かを寄って集って袋叩きにしている真っ只中であった。
(相変わらず治安悪いなクラナガンは…これが管理局のお膝元とは世も末だ。いや、とっくに終わっているのか?)
袋叩きにされている人物を助けようという発想は無いのか、只々呆れ返った様子で立ち尽くすガーニィ。
そこへ。
「へっ、しぶとい野郎だ!ここらでトドメの一撃を…っ」
ドンッ
…ポトッ
チンピラの一人…ゴトーを背後から不意討ちしたチンピラである…がゴトーにトドメを刺すべく、落とした金属バットを拾おうと袋叩きの輪の中から抜け出してくる。
金属バットに意識が集中していたそのチンピラは、近くに居たガーニィに気付かず、衝突。
その拍子に、彼の手にしていたアイスキャンデーが地面に落ちてしまった。
「おう、オッサン!ボーっと突っ立ってんじゃねーぞコラァ!?」
ブチィッ…!
時期は夏の真っ只中。
猛暑で不快指数が急上昇している時期に、暑さ凌ぎのアイスを台無しにされた上での暴言。
…チンピラが言葉を発したその瞬間、彼の元々切れ易い堪忍袋の緒が、勢い良くブチ切れた…
ガシィ!!
「へっ…?」
次の瞬間、ガーニィの右手が、そのチンピラの顔面を鷲掴みにする。
グワッ…ガゴォン!!!
「げぼっ…!?」
そのままチンピラの身体を持ち上げると、ワンハンド・ブレーンバスターでアスファルトの地面に叩き付けた。
ゲシッ!ゲシッ!ゲシッ!!ゲシッ!!ゲシッ!!!ゲシッ!!!ゲシッ…
「貴様、それが人様にぶつかっておいて、しかも年長者に対する態度か?社会で生きる最低限のルールってやつを、その身を以て教えてやろうかあ!?」
間髪入れず、地面に仰向けに横たわるチンピラにストンピングを仕掛けるガーニィ。
相手が立ち上がる隙を与えず、しかも顔面・腹・股間と弱い個所を集中して踏み蹴る、的確な急所攻撃である。
「な、何だ何だ何なんだァ!?」
「何だか分からねーけど、あのオッサン、マジでヤバいぞ!」
漸く仲間の惨状に気付いたチンピラ達が、ゴトーの存在も忘れて騒ぎ出す。
…それが、ゴトーに降って湧いた、これ以上はない反撃のチャンスだった。
「っ…今だ…!」
袋叩きの状況から脱したゴトーは、即座に身を起こすと、片足立ちの構えで滑るように前方へと踏み出す。
「あ、テメッ…」
「おっ…りゃあっ!!」
前方に居たチンピラがゴトーの復活に気付き振り返るも、時既に遅く、そのまま胸倉を掴まれ…
ドカッ!
「ひでぶ!?」
バキッ!!
「あべし!?」
ガスゥ!!!
「たわば!?」
ビシィ!!!!
「うわらば!?」
ズガガガガ!!!!!
「いってれぼ!?」
次の瞬間、辺り一面が眩い光に包まれると同時に、無数の打撃音と、チンピラ達の世紀末救世主伝説的な断末魔(死んではいない)の叫びが木霊した。
「ふーっ…」
光が収まると、そこには叩きのめされ死屍累々(だから死んではいないって)のチンピラ達と、彼らに背を向けて仁王立ちしているゴトーの姿が。
…何故かその背中には、『天』の文字が浮かび上がっていた…
「いやー、今回はヤバかったな~…っと、そうそう。向こうはどうなった…うげ!?」
ふと、窮地を脱するきっかけとなった男…ガーニィの事である…の様子が気になり、振り返ったゴトーが見たものは…
「ふしゅるるるう…!」
…漸く怒りも収まったのか、ストンピングを止め、獣じみた唸り声と共に、真夏にも関わらず口から湯気を噴き上げているガーニィの姿だった。
足蹴にされているチンピラは、地面に赤やら黄色やら茶色やらの液体が垂れ流し状態ではあるが、時折ピクピクと痙攣しているので、とりあえず生きてはいる様子だ。
「…えっと…サンキュー!お陰で助かったよ…」
見るからに危険人物といった感じの相手でも、恩人には違いないと、礼を言いつつにこやかに近付いていくゴトー。
その次の瞬間だった。
ガシッ!
「………へっ?」
近付いてきたゴトーの胸倉を掴むと、殺気に満ちた表情でガーニィが振り返る。
「お前も仲間か―――――っ!!」
「ええぇぇぇ~~~~~っ!?」
チンピラの輪の中で袋叩きにされていたせいか、ゴトーはガーニィに存在を認識されていなかったのだ。
…この後、ガーニィに状況を説明するのに、ゴトーはチンピラの袋叩きに耐える倍以上の精神力を費やす羽目になった…
始まる 運命には
バックギアは無い…
「いやー、悪いな。アンタのせいじゃないのにアイス弁償してもらってよ」
「いやいや、助けてもらった事には違いないし…」
あのままだと自分まで半殺しにされかねなかったから、という言葉はぐっと飲み込むゴトー。
それを言ったら今度こそ半殺しにされかねない、目の前の男はそういう相手だと認識した。
「そういや名前を聞いていなかったな。俺はガーニィ・レイザ。職業は無限書庫の司書だ」
「え、あの無限書庫の!?…全然そう見えねー…」
「何だよ、見たまんまだろ?このインテリな雰囲気!」
どう見ても、年季の入った893の人である。
「あー、うん、悪ィ。俺はゴトー・クサカ。武装隊の隊員だ」
「ほー…あそこにゃ猿以下の下等生物しか居ないと思っていたが、少しはマトモな奴も居るのか…」
「…そこまで言う?いや、否定は出来ないけどさ…」
これは、始まり。
これから後、様々な時空でドタバタを繰り広げる、ガーニィ・レイザと、ゴトー・クサカの。
これが、始まり。