とある高校。
新学期を迎え、桜吹雪の舞う中。
校内でもお似合いで、且つ、焦れったかった2人が、漸く恋人同士になった…

「長い事やきもきさせられたが…まさか、あんな状況でカップル成立とはなあ…」

朝の校門、登校する生徒達が行き交う中、その決定的瞬間に立ち会った、2人の担任でもある高校教師・蟹井 光司<かにい こうじ>は、教員室へと続く廊下を歩きながら、感慨深げに独りごちる。

「………これが若さってやつ、か…」

自然と表情を綻ばせながら、微妙に年寄り臭い発言が漏れる。
基本的に口が悪く、何処かの組の893の人のような雰囲気を持つ蟹井だが、その心根は常に生徒達を見守り行く末を案じる教師であった。

「蟹井先生、おはよーございまっす!」
「おう、日下部か」

そんな蟹井に若々しく声をかけたのは、同僚にして後輩の教師、日下部 剛斗<くさかべ ごうと>だった。

「右腕、やっとギプスが取れたんですね~!」
「ああ、利き腕が使えない生活ってのは辛いモンだったぜ…」

日下部の言葉に、骨折が治り、漸く包帯とギプスの取れた右腕を動かして見せる蟹井。
…と、その瞬間…

「………なあ、日下部。俺は旧校舎の老朽化した階段が崩れたのに巻き込まれて、腕の骨を折っちまったんだよな?」
「そうっすよ。あれだけの事故に遭ってよく右腕骨折だけで済んだなあって、教員室でも持ち切りでしたけど…それが何か?」
「いや…何か、違和感があってなあ…実は事故じゃなくて人災で、骨折した怒りや恨みをぶつける相手が居たような…そんな違和感が…」

………悪い魔闘少女デヴィオが起こした最初の事件。
その巻き添えで負傷した彼の記憶は、高町未央…ヴィヴィオがこの世界に居た他の記憶や痕跡と共に改竄されていた。
にも関わらず、彼の中にやり場の無い憎悪の感情が残っているのは、幾多の並行世界において今も敵対している因縁からか…

「気のせいっしょ、気のせい!」
「俺もそうだとは思うんだが…何かスッキリしねーんだよなあ…」
「蟹井先生、日下部先生、おはようございます♪」

問答している蟹井と日下部の後ろから、若く弾んだ女性の声がかけられた。

「おう、天道」
「て、天道先生、おはようございますっ!」

振り返り、日下部に対するのと変わらない態度で挨拶を返す蟹井。
一方の日下部は、挙動不審なぐらいに相手を意識している様子でガチガチの挨拶をする。
そこに居るのは、健康的な小麦色に日焼けした抜群のスタイルを、婦人用のスーツに包んだ一人の女性。
彼女の名は天道 歩<てんどう あゆむ>、蟹井や日下部の同僚であり、その美貌と明るい性格から男子女子問わず生徒から人気のある女性教師である。

「蟹井先生、右腕が治って良かったですね♪」
「ああ、これでやっと箸を持って飯が食えるし、ペンを持って字が書ける」
「あ、日下部先生。後でお時間ありますか?」
「今日は男子空手部の部活も休みで、放課後は特に何も無いですけど…」
「良かった♪実は今度の女子空手部の合宿の件で、色々とご相談したい事があって…」
「そそそ、相談っすか?もちもちろんろん喜んで!何でも聞いちゃってくださいよ!!」

天道の申し出にすっかり舞い上がっている日下部を、半ば呆れた様子で眺めていた蟹井は…

「…歴史研究会の顧問にゃ関係無い話だなあ…」

軽く肩を竦めると、若い2人を残して教員室へと歩を進める。
ふと窓の外に目をやると、満開の桜並木が視界に入った。

「あっちも春、こっちも春…ってか?」

そんな空気に当てられながらも、自分も恋をしようとか生涯の伴侶を持とうとかいった考えには至らないのが、彼の彼たる所以なのかも知れない…



『夢で会えたら』 異次元旅気分

   ~君の隣で~それから



『…良かったね、お兄ちゃん…』

『ノーブルベルカは救われた…僕が出来るのは、ここまでだ…』

『ボク達のした事は…ムダじゃなかったよね?』
『…勿論だよ』

『本当は、君だけでも帰らせてあげたかった…』
『ありがとうシェイド君。けどボクはコレで満足だよ?…本当はシェイド君も助けたかったけど…』
『本当に…君は優しいな…』

『大丈夫です…此処の貴方とは違う世界の貴方と必ずまた会えますから。貴方が知らなくても、ボクが覚えてなくても、きっとボク達は絶対に巡り会えますから!』

『僕とは違う僕…か。願わくば…その僕とじぜるが幸福であります様に―』



2つの優しい魂が、奇跡を残して消えていった。
自分達は、その奇跡の恩恵に与る事のないままに。



―本当に、そうだったのだろうか?―



「………夢…?」
『どうしました、マスター?』

目を覚まし、体を起こす銀髪の少年に、傍らに居た一匹の子犬が声をかける。

少年の名はカゲルダー。
ジャックが当時まだ見ぬ息子をモデルに作った『超人機』であり、今はジャックの下を離れて静かに暮らしていた。

喋る子犬の名はジゼリンガー。
カゲルダーのメンテナンスやサポートを行う相棒として、ジゼルのデータを元に作られたコピーである。

「夢を見ていたんだ…ロボットの僕が夢を見るなんて、おかしな話だけど…」
『夢、ですか』
「ああ…その夢の中でも、僕はやっぱり人間じゃない…いや、人間として生まれたけど、人じゃない存在に作り変えられた…って言った方が正しいのかな…」

滅びへと向かう魔法の世界。
その世界を救う為に、異世界にばら撒かれた魔石を回収する為に生み出された、『魔導人形』と呼ばれる少女達。
謀殺された後、そんな彼女らをサポートする『魔導生命体』へと改造された『彼』は、人間として暮らしていた一人の魔導人形の少女と出会う。
そして、運命の歯車は廻り出した…

「………本当に、突拍子もない夢さ…」

そんな夢の粗筋を語り終えると、カゲルダーは苦笑した。
…だが。

『そんな事ありません…素敵な夢ですよ!』
「ジゼリンガー…?」

相棒の予想外の反応に、思わずキョトンとなるカゲルダー。

(…だってボクも、同じ夢を見る事があるんですから…)

ジゼルのコピーである『彼女』が、『じぜる』の記憶を受け継いで夢に見る事は、不思議な事でも何でもない。
だが、幾らこの世界の『影』であるとは言え、彼女の『マスター』と『シェイド』は完全な別人である。
別人のはずである。
…にも関わらず、彼がシェイドの記憶を夢に見たのは…

『…本当に、素敵な夢だと思います』
「………ありがとう、ジゼリンガー」

………はっきりとした答えは分からなくていい。
今の自分達には、不確かでも不思議な絆がある。
彼女は…『じぜる』は、それだけで満足だった…



所変わって、いつもの超弩級戦艦内。

ズシッ…

「マスター!マスター!起きてください、マスターってば!!」
「むぅ…」

聞き覚えのあるような幼い声と共に、腹の上にずっしりとした重みを感じ、ベッドで眠りに就いていたシェイドは目を覚ます。
思えばすっかりここで寝起きするのが普通になったが、本来は一刻も早く自分の世界に帰らなければならない身の上。
だが、彼を元居た世界に帰すまいとするガーニィとニャル滝のせいで、シェイドはJアーク内で寝泊まりしてブレイカーズのドタバタに付き合わされる事を…強いられているんだ!

「………誰?」

天の声によるお約束のネタをスルーしつつ、ゆっくりと目を開けるシェイド。
そこには、布団を被った自分の腹の上に跨っている、黒いショートカットに緑色の瞳をした、6歳ぐらいの子供の姿。

「見てください、マスター!ボク、人間になれたんですよ!!」
「…もしかして、ジゼル…?」
「はい、そうです!」

満面の笑みを浮かべて自分を見つめている『ジゼル』に、シェイドは強烈なデジャヴを感じた。
そして得られた結論は。

「また夢かぁ…父さん達との生活も、別の意味で疲れるからなぁ…」

かつて見た、生々しく記憶に残っている夢。
自分はまた同じ夢を見ているのかと納得し、展開の分かっている夢なら同じ行動を繰り返す必要も無いだろうと、再び布団に潜り込もうとするシェイド。
だが、『現実』はそんなに甘くなかった。

「夢じゃありません!精神リンクもしてませんし!今度は本当に人間になったんですってば!!」
「むむむ…」

ゆさゆさと揺さぶられ、より深い眠りに逃げ込む事を遮られたシェイドは、観念して布団から顔を出す。

「本当にジゼル?」
「はい!」
「夢じゃないよね?」
「そうです!」
「…と、いう事は…」

眠気が覚めてくると同時に、シェイドの頭の中で、今の自分の置かれている状況が整理されていく。
『翠眼の英雄』の世界ではありえない事も、この出鱈目な世界では普通に起こり得る。
そして、そのほとんどの元凶は…



「父さん!今度は何をした―――――っ!?」

ジゼルを部屋に残し、ジャックとユーディの寝室に怒鳴り込むシェイド。
…そこで、彼が見たものは…

「何かねユーノ。息子とは言え、夫婦の寝室に入る時はノックぐらいしたまえ」

上半身でマトモな事を言いながら、下半身は無数の触手が蠢いて18禁ゲームにでも出てきそうな化け物と化している父と。

「ゆ、ユーノぉ…やらぁ…見ちゃらめぇ…」

ヌルヌルグチョグチョの触手に絡まれる痴態を息子に見られ、所謂アヘ顔で恥らう母の姿だった…



この直後、騒ぎを聞き付けて他の面子も駆けつけましたが、ゴトー&コトーはユーディのあられもない姿に思わず興奮してしまった為、ハゲマッチョと冥土GUYに追い回された挙句に阿鼻叫喚。
ガーニィはジャックに「司書長に何てもの見せとんじゃゴルァァァッ!!!」とブレイドをサンダー・バキューム・ボールの要領でぶつけましたが、そのダメージは何処かのデュミ何とかというインテリ気取りのチンピラ魔導師が肩代わりさせられたので無害です。



『翡翠の翼の守護神×翠眼の英雄×リリカルなのは絶滅計画 スーパー並行世界大戦Z』に続く!