※注意※
このSSは、創起さんのブログ『趣味に生きる』で連載されている長編『翠眼の英雄』シリーズのパロディです
あくまでキャラと設定を拝借しているだけで、本編の流れとは一切関係ありません
タイトルも歌の題名じゃない、完全な“ごっこ”です
ご了承ください
ミッドチルダの首都クラナガン。
その近海の、南緯47度9分、西経126度43分の海底に存在する、異様の海底都市ルルイエ。
時空管理局と敵対し、『翠眼の英雄』シェイドとも戦いを繰り広げる謎の戦闘集団、星座兵団の本拠地から、物語は始まる。
「ほら、今年のホワイトデーのプレゼントは、手作りのホワイトチョコだよ」
『わぁ、ありがとう♪お兄ちゃん、食べさせてくれる?』
「勿論だよ。さあ、口を開けてごらん?」
『あーん♪』
兄妹としてはアレだが、ホワイトデーの甘ったるい光景が繰り広げられていた。
…左右非対称の仮面を被った一人の人物が、入れ代わり立ち代わりでやっているのでなければ、だが…
ヒョイッ
パクッ
モグモグ
『…んふふ、美味しい♪』
「ふふ、良かった。ほら、もう一個…」
この人物こそ、星座兵団の頭脳“を自称している”四天王の一人、ジェミニである。
「気色の悪い一人芝居してんじゃねえ!このド下等があ!!」
ボゴォッ!!!
「ごふうっ!?」
そんなジェミニの前に不意に現れた、不機嫌を顔に貼り付けたような男が、怒号と共にジェミニの鳩尾に右のボディブローを叩き込む。
「うげ、げえっ…きゃ、キャンサー…いきなり何を…!?」
「いきなり何を、じゃねえよ!独り言垂れ流しながらクネクネ気持ち悪い動きしやがって…!!」
ゲシッ!
床に転がり、息も絶え絶えになりながらも反論するジェミニの顔を、キャンサーと呼ばれた男が容赦無く踏み付ける。
このキャンサー、ジェミニと同じく星座兵団の四天王にして、実質的なリーダー格である。
「み、右はっ、右は踏まないでください!そっちは妹の顔なんですっ!!」
「あ~ん?何も聞こえんなあ~?」
グリグリグリグリグリグリ…
ジェミニの必死の懇願もお構いなく、顔の右側を集中して踏み躙るキャンサー。
…リーダーと言うより、暴君と呼ぶのが相応しいような気もしてくる…
「只今~…って、何やってんだよ2人とも…」
悪の巣窟には不釣り合いな好青年が、まるで自宅に帰ったような場違いな挨拶と共に現れると、目の前の惨状に呆然と立ち尽くす。
「キャプリコーンか…いつもの事だ、気にするな」
「いや、気にするなって言われても…」
キャプリコーンと呼ばれた青年は、ジェミニを虐待するキャンサーの言葉に余計に戸惑っている様子。
彼も勿論、星座兵団四天王の一人にして、切り込み隊長的な役割を担っている。
「アンタ達、またコントやってるの?」
キャプリコーンに続いて現れたのは、気だるげな雰囲気を纏った眼鏡の女性。
服を着ている上からでも分かるほどにスタイルは良く、特に胸は巨乳を通り越して爆乳なのだが、どうにも全体的にもっさりとした残念な空気を漂わせている。
「ヴァーゴ、お願いします、助けてください…」
「え、好きでやってるんじゃないの、そのSMプレイ?」
「SMプレイじゃありません!そして、私にそんな趣味はありませんっ!!」
ヴァーゴと呼ばれた女性に冷たくあしらわれ、キャンサーに顔を踏み躙られながら悲鳴に似た声で叫ぶジェミニ。
このヴァーゴも四天王の一人で、言わば紅一点である。
「ふん…」
「アイタタタ…それで、上手くいったんですか?」
「ええ、勿論。特務六課の本部に、盗撮用の隠しカメラを仕掛けてやったわ」
キャンサーによる顔面踏み付けから漸く解放され、ヨレヨレになりながらも立ち上がったジェミニに、ヴァーゴが抜かりは無いとばかりに答える。
「流石に向こうも警備はそれなりだったから、結局2つしか仕掛けられなかったけどな」
「上出来ですよ!これで特務六課の皆さんの動きを、ある程度は探る事が出来るのですから!!」
付け加えるキャプリコーンに対し、上機嫌で胸を張るジェミニ。
どうやら、この隠しカメラ作戦の発案者は彼のようだ。
「六課の雑魚共の動きなんぞ、わざわざ探るまでもないだろう。湧いて出たら潰せばいいだけのものを…手間と時間の無駄以外の何物でもないな」
そんなジェミニとは対照的に、心底呆れ返ったと言わんばかりに吐き捨てるキャンサー。
「彼らを甘く見ない方がいいと思いますがね…あまり油断していると、そのうち足元を掬われますよ?」
「ジェイル・スカリエッティやフッケバイン一家<ファミリー>のような小物を過大評価して、計算違いをやらかしまくっているお前に心配される筋合いは無い…」
挑発の言葉を投げかけ合うジェミニとキャンサーの間に、険悪極まりない空気が漂い始める。
「ま、まあまあ!とりあえず、隠しカメラが上手く作動してるか、試しに見てみようぜ!!な?」
殺伐とした空気を払拭しようと、2人の間に割って入り、提案するキャプリコーン。
彼は、個性が強過ぎていつ衝突してもおかしくない四天王の、クッション役をこなすムードメーカーでもあるのだ。
「………隠しカメラと言ったが、まさか風呂場や更衣室に仕掛けるような、くだらん真似はしとらんだろうなあ?」
「しないわよ、そんなお約束!」
ジト目で念を押すキャンサーに、ヴァーゴが顔を真っ赤にして反駁する。
「っ…その手があったか…!」
「貴方、馬鹿ですか?それとも阿呆ですか?」
その一方で愕然とするキャプリコーンに呆れながら、ジェミニが備え付けのコンソールを操作すると、真正面に備え付けられたモニターが起動する。
大画面に映し出されたのは、訓練場だった。
「エリオくーん」
「あ、キャロ」
「お疲れ様、エリオ君」
自主訓練を終えたエリオにキャロが駆け寄り、タオルと飲み物を渡したりして、やがて2人は帰り支度をして訓練場を後にしようとしていた。
「そうだ、キャロ」
「ん?」
「はい、これ。バレンタインのお返し」
その途中で、エリオが手荷物の中から、綺麗にラッピングされた箱をキャロに渡す。
「わぁ、ありがとう、エリオ君!」
「毎年の事なのに、そんなに喜ばなくても…」
「ちゃんと覚えててくれた事が嬉しいんだよ」
「そういうもんかな?」
「そういうものなの!」
「うんうん、いいですねえ青春ですねえ…身長差が洒落にならない点を除けば、ですが…」
そんな2人の様子を堂々とモニターで覗き見しながら、ジェミニは腕組みをして仮面から覗く目を細め、何度も頷いている。
…このジェミニ、かつてはスパイとして管理局に潜入し、兵器開発部に籍を置いていた。
その頃に、エリオ達の訓練に付き合っていた事があり、星座兵団四天王としての正体を明かし、管理局を去った後も、何かとエリオの事を気にかけていたりする。
「くだらん…ハラオウン妹のペット共がじゃれ合っているだけの、何が青春だ…」
そんなジェミニとは対照的に、キャンサーは忌々しげな顔で毒を吐く。
…彼の正体は、古参の無限書庫司書、ガーニィ・レイザであり、六課とミッドの高町家の関係者を、一人の例外も無く敵視している。
全ては、今も変わらぬ『ユーノ・スクライア』への、崇拝に近い心酔ゆえに…
「ペットという言い方は聞き捨てなりませんねえ…そう思いませんか、ヴァーゴ…!?」
キャンサーの言葉に再び憤然としながら、ヴァーゴに同意を求めようと振り返ったジェミニだったが、そのまま固まってしまう。
「…あんのチンチクリンの小娘ぇ…私の、私のエリオきゅんをぉぉぉ…!!!」
…そこには、ドス黒い嫉妬のオーラを陽炎のように立ち上らせる、ヴァーゴの姿があった。
彼女の正体は、管理局の地味な女子職員、ショウコ・エキドゥナである。
美少年系のイケメンが好きな彼女は、管理局に居た頃は、エリオの追っかけをしていたのだ。
「………もう一つのカメラの様子を見てみましょうか…」
硬直から立ち直ると、焦りつつも再びコンソールを操作して画面を切り替えるジェミニ。
次に映し出されたのは、ヘリポートだった。
「お久しぶりです、姐さん」
「珍しいな、ヴァイス。特務六課に顔を出すなんて…確か、一ヶ月ぶり、だったか?」
劣化のニート、もとい烈火の将シグナムと一緒に、珍しい人物がモニターに映っている。
機動六課でヘリパイロットを務め、『JS事件』での最終局面でトラウマを吹っ切り、今は狙撃魔導師として復帰している、ヴァイス・グランセニックだ。
「ええ、丁度一ヶ月ぶりです。この前は、義理とは言え、ありがたいものを頂戴しまして…」
「礼などいい。主はやては、相変わらずああいうイベントで盛り上がらずにはいられないからな…私は乗せられただけだ」
どうやらシグナム、先月のバレンタインに、ヴァイスに義理チョコを渡していた様子。
「いえいえ、義理には義理で返さないと男が廃るってもんですよ~…というわけで、どうぞ、受け取ってもらえるとありがたいです」
「ホワイトデーのお返し、か…これを渡しに、わざわざ顔を出したのか?…相変わらず、お調子者のようで意外と義理堅い…」
ヴァイスの差し出した、丁寧な包装がされた箱を、シグナムもまんざらでもなさそうな顔で受け取る。
「意外と、ってのは酷いッスねー…お調子者なのは認めますが…ところで、例の星座の怪人達の件はどんな感じッスか?」
「芳しくないな…力の差があり過ぎて、『翠眼の英雄』の世話になりっぱなしだ…」
「ああ、あの噂の…」
『翠眼の英雄』の噂は、どうやらヴァイスの耳にも入っていたようだ。
「管理局の人間として、彼らの力を当てにするわけにはいかん。厳密には、彼らも敵なんだからな」
「面倒ッスね~…別に、向こうは姐さん達と敵対するつもりは無いんでしょ?」
「そのつもりは無くても、結果的に敵対した事は何度もあるからな…」
シェイドと直接戦った時の事を思い出し、渋い顔をするシグナム。
「………もしかしたら、またお前の力が必要になるかも知れないな」
「いやいや、『翠眼の英雄』にせよ星座の怪人にせよ、スナイパー一人が「狙い撃つぜ!」したところでどうにもならないっしょ」
「やってみなければ分からん。それに…私はこれでも、少しはお前を頼りにしているんだぞ?」
「おやおや、ヴォルケンリッターの将ともあろうお人が、何とも呑気な事で…」
「狙撃魔導師の豆鉄砲如きで俺達が、ましてや『ユーノ』がどうにかなると思っているのか?…所詮は壊れたプログラム風情だな…」
今度は、ジェミニもキャンサーも全く同じ、呆れた様子でモニターを眺めている。
…キャンサーの言う『ユーノ』とは、『翠眼の英雄』ことシェイドの事である。
ちなみに今のユーノ・スクライアの事は『司書長』と呼び分けており、どちらも彼にとってはかけがえのない崇拝の対象となっている…
「ウ…ウ…ウ…」
「どうしたキャプリコーン、腹でも痛いのか?」
唸り声にも似た低い声を漏らすキャプリコーンに、怪訝そうにキャンサーが振り向くと…
「………シグナム…シグナム…シグナムウウウウウッ!!!」
…モニターの中で、ヴァイスと親しげに談笑を続けているシグナムを、血走った目で睨みつけるキャプリコーンの姿があった。
「俺の純情を踏み躙った上に、あんな…あんな軽薄ヤローとバレンタインにホワイトデーだなんて…!」
「…あー、しっと団がもう一人居たか…」
血の涙を流さんばかりの勢いで、ヴァーゴにも負けないブラックオーラを纏うキャプリコーンに、キャンサーはドン引きするしかない。
…キャプリコーンの正体、それは武装隊に所属する管理局員ゴトー・クサカ。
シグナムに想いを寄せていたが、主であるはやての影響で管理局至上主義に染まっていく彼女に幻滅。
それでも、敵となった今もなお、彼女への恋心はキャプリコーンの中で燻ぶり続けているのだった…
『お兄ちゃん、私、もっと食べさせて欲しいなぁ~』
「勿論いいよ。ほら、あーん」
『あ~ん♪』
場の空気に耐え切れなくなり、再び一人芝居に没頭して現実逃避を決め込むジェミニ。
「あぁん、エリオきゅ~ん!そんな背も無い胸も無い色気も無い子の何処がいいの!?」
エリオを想い、クネクネと妖しく悶えるヴァーゴ。
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い…でも、愛しい!俺はっ、俺はどうしたらいいんだあっ!?」
シグナムへの愛憎半ばする想いに、雄叫びを上げるキャプリコーン。
「………まったく、どうしようもねえな、このド下等どもは…」
その不気味な光景に呆れ果て、同僚達に背を向けるキャンサー。
…かつて、シェイドとユーノの遺伝子上の父親であるJ4=ジャックが『組織』に居た頃、彼もこんな気持ちだったのだろうか…
そんな事を思いながら、一人部屋を後にしようとして…
「って、待てよ…?」
…ムーンウォークのような動きで、後ろ向きのまま戻ってきた。
ムーンウォークが分からない若い人は、お父さんお母さんに聞いてみよう。
或いはググれ。
「おい、ヴァーゴ!キャプリコーン!」
「エ・リ・オ・きゅうぅぅぅんっ………て何よ、いきなり…」
「シ・グ・ナ・ムウウウウウッ!………何だよキャンサー?」
リーダー格であるキャンサーの呼びかけに、自分の世界に埋没していたヴァーゴもキャプリコーンも我に返る。
…もしスルーすればどんな目に遭わされるか、身を持って思い知らされているがゆえの条件反射とも言う…
「俺は色恋沙汰には興味は無いが、お前達の無念は何となくだが分からんでもない…そこでだ、俺にいい考えがあるんだが…」
星座兵団四天王のリーダー、キャンサーによる、ホワイトデーには全く似つかわしくない、真っ黒な策略が幕を開けようとしていた…
ちなみに、ジェミニはどうしていたかと言うと…
「うぐぐぐぐ、ぐるっ、苦しい…苦しいですよ、キャンサー…やめ、やめてください…」
…義手である右手を鋏に変形させたキャンサーに、その鋏で首を思いっきり締め上げられ、仮面から覗く目を白黒させながら、窒息寸前になっていたりする…
後編へ続く!
このSSは、創起さんのブログ『趣味に生きる』で連載されている長編『翠眼の英雄』シリーズのパロディです
あくまでキャラと設定を拝借しているだけで、本編の流れとは一切関係ありません
タイトルも歌の題名じゃない、完全な“ごっこ”です
ご了承ください
ミッドチルダの首都クラナガン。
その近海の、南緯47度9分、西経126度43分の海底に存在する、異様の海底都市ルルイエ。
時空管理局と敵対し、『翠眼の英雄』シェイドとも戦いを繰り広げる謎の戦闘集団、星座兵団の本拠地から、物語は始まる。
「ほら、今年のホワイトデーのプレゼントは、手作りのホワイトチョコだよ」
『わぁ、ありがとう♪お兄ちゃん、食べさせてくれる?』
「勿論だよ。さあ、口を開けてごらん?」
『あーん♪』
兄妹としてはアレだが、ホワイトデーの甘ったるい光景が繰り広げられていた。
…左右非対称の仮面を被った一人の人物が、入れ代わり立ち代わりでやっているのでなければ、だが…
ヒョイッ
パクッ
モグモグ
『…んふふ、美味しい♪』
「ふふ、良かった。ほら、もう一個…」
この人物こそ、星座兵団の頭脳“を自称している”四天王の一人、ジェミニである。
「気色の悪い一人芝居してんじゃねえ!このド下等があ!!」
ボゴォッ!!!
「ごふうっ!?」
そんなジェミニの前に不意に現れた、不機嫌を顔に貼り付けたような男が、怒号と共にジェミニの鳩尾に右のボディブローを叩き込む。
「うげ、げえっ…きゃ、キャンサー…いきなり何を…!?」
「いきなり何を、じゃねえよ!独り言垂れ流しながらクネクネ気持ち悪い動きしやがって…!!」
ゲシッ!
床に転がり、息も絶え絶えになりながらも反論するジェミニの顔を、キャンサーと呼ばれた男が容赦無く踏み付ける。
このキャンサー、ジェミニと同じく星座兵団の四天王にして、実質的なリーダー格である。
「み、右はっ、右は踏まないでください!そっちは妹の顔なんですっ!!」
「あ~ん?何も聞こえんなあ~?」
グリグリグリグリグリグリ…
ジェミニの必死の懇願もお構いなく、顔の右側を集中して踏み躙るキャンサー。
…リーダーと言うより、暴君と呼ぶのが相応しいような気もしてくる…
「只今~…って、何やってんだよ2人とも…」
悪の巣窟には不釣り合いな好青年が、まるで自宅に帰ったような場違いな挨拶と共に現れると、目の前の惨状に呆然と立ち尽くす。
「キャプリコーンか…いつもの事だ、気にするな」
「いや、気にするなって言われても…」
キャプリコーンと呼ばれた青年は、ジェミニを虐待するキャンサーの言葉に余計に戸惑っている様子。
彼も勿論、星座兵団四天王の一人にして、切り込み隊長的な役割を担っている。
「アンタ達、またコントやってるの?」
キャプリコーンに続いて現れたのは、気だるげな雰囲気を纏った眼鏡の女性。
服を着ている上からでも分かるほどにスタイルは良く、特に胸は巨乳を通り越して爆乳なのだが、どうにも全体的にもっさりとした残念な空気を漂わせている。
「ヴァーゴ、お願いします、助けてください…」
「え、好きでやってるんじゃないの、そのSMプレイ?」
「SMプレイじゃありません!そして、私にそんな趣味はありませんっ!!」
ヴァーゴと呼ばれた女性に冷たくあしらわれ、キャンサーに顔を踏み躙られながら悲鳴に似た声で叫ぶジェミニ。
このヴァーゴも四天王の一人で、言わば紅一点である。
「ふん…」
「アイタタタ…それで、上手くいったんですか?」
「ええ、勿論。特務六課の本部に、盗撮用の隠しカメラを仕掛けてやったわ」
キャンサーによる顔面踏み付けから漸く解放され、ヨレヨレになりながらも立ち上がったジェミニに、ヴァーゴが抜かりは無いとばかりに答える。
「流石に向こうも警備はそれなりだったから、結局2つしか仕掛けられなかったけどな」
「上出来ですよ!これで特務六課の皆さんの動きを、ある程度は探る事が出来るのですから!!」
付け加えるキャプリコーンに対し、上機嫌で胸を張るジェミニ。
どうやら、この隠しカメラ作戦の発案者は彼のようだ。
「六課の雑魚共の動きなんぞ、わざわざ探るまでもないだろう。湧いて出たら潰せばいいだけのものを…手間と時間の無駄以外の何物でもないな」
そんなジェミニとは対照的に、心底呆れ返ったと言わんばかりに吐き捨てるキャンサー。
「彼らを甘く見ない方がいいと思いますがね…あまり油断していると、そのうち足元を掬われますよ?」
「ジェイル・スカリエッティやフッケバイン一家<ファミリー>のような小物を過大評価して、計算違いをやらかしまくっているお前に心配される筋合いは無い…」
挑発の言葉を投げかけ合うジェミニとキャンサーの間に、険悪極まりない空気が漂い始める。
「ま、まあまあ!とりあえず、隠しカメラが上手く作動してるか、試しに見てみようぜ!!な?」
殺伐とした空気を払拭しようと、2人の間に割って入り、提案するキャプリコーン。
彼は、個性が強過ぎていつ衝突してもおかしくない四天王の、クッション役をこなすムードメーカーでもあるのだ。
「………隠しカメラと言ったが、まさか風呂場や更衣室に仕掛けるような、くだらん真似はしとらんだろうなあ?」
「しないわよ、そんなお約束!」
ジト目で念を押すキャンサーに、ヴァーゴが顔を真っ赤にして反駁する。
「っ…その手があったか…!」
「貴方、馬鹿ですか?それとも阿呆ですか?」
その一方で愕然とするキャプリコーンに呆れながら、ジェミニが備え付けのコンソールを操作すると、真正面に備え付けられたモニターが起動する。
大画面に映し出されたのは、訓練場だった。
「エリオくーん」
「あ、キャロ」
「お疲れ様、エリオ君」
自主訓練を終えたエリオにキャロが駆け寄り、タオルと飲み物を渡したりして、やがて2人は帰り支度をして訓練場を後にしようとしていた。
「そうだ、キャロ」
「ん?」
「はい、これ。バレンタインのお返し」
その途中で、エリオが手荷物の中から、綺麗にラッピングされた箱をキャロに渡す。
「わぁ、ありがとう、エリオ君!」
「毎年の事なのに、そんなに喜ばなくても…」
「ちゃんと覚えててくれた事が嬉しいんだよ」
「そういうもんかな?」
「そういうものなの!」
「うんうん、いいですねえ青春ですねえ…身長差が洒落にならない点を除けば、ですが…」
そんな2人の様子を堂々とモニターで覗き見しながら、ジェミニは腕組みをして仮面から覗く目を細め、何度も頷いている。
…このジェミニ、かつてはスパイとして管理局に潜入し、兵器開発部に籍を置いていた。
その頃に、エリオ達の訓練に付き合っていた事があり、星座兵団四天王としての正体を明かし、管理局を去った後も、何かとエリオの事を気にかけていたりする。
「くだらん…ハラオウン妹のペット共がじゃれ合っているだけの、何が青春だ…」
そんなジェミニとは対照的に、キャンサーは忌々しげな顔で毒を吐く。
…彼の正体は、古参の無限書庫司書、ガーニィ・レイザであり、六課とミッドの高町家の関係者を、一人の例外も無く敵視している。
全ては、今も変わらぬ『ユーノ・スクライア』への、崇拝に近い心酔ゆえに…
「ペットという言い方は聞き捨てなりませんねえ…そう思いませんか、ヴァーゴ…!?」
キャンサーの言葉に再び憤然としながら、ヴァーゴに同意を求めようと振り返ったジェミニだったが、そのまま固まってしまう。
「…あんのチンチクリンの小娘ぇ…私の、私のエリオきゅんをぉぉぉ…!!!」
…そこには、ドス黒い嫉妬のオーラを陽炎のように立ち上らせる、ヴァーゴの姿があった。
彼女の正体は、管理局の地味な女子職員、ショウコ・エキドゥナである。
美少年系のイケメンが好きな彼女は、管理局に居た頃は、エリオの追っかけをしていたのだ。
「………もう一つのカメラの様子を見てみましょうか…」
硬直から立ち直ると、焦りつつも再びコンソールを操作して画面を切り替えるジェミニ。
次に映し出されたのは、ヘリポートだった。
「お久しぶりです、姐さん」
「珍しいな、ヴァイス。特務六課に顔を出すなんて…確か、一ヶ月ぶり、だったか?」
劣化のニート、もとい烈火の将シグナムと一緒に、珍しい人物がモニターに映っている。
機動六課でヘリパイロットを務め、『JS事件』での最終局面でトラウマを吹っ切り、今は狙撃魔導師として復帰している、ヴァイス・グランセニックだ。
「ええ、丁度一ヶ月ぶりです。この前は、義理とは言え、ありがたいものを頂戴しまして…」
「礼などいい。主はやては、相変わらずああいうイベントで盛り上がらずにはいられないからな…私は乗せられただけだ」
どうやらシグナム、先月のバレンタインに、ヴァイスに義理チョコを渡していた様子。
「いえいえ、義理には義理で返さないと男が廃るってもんですよ~…というわけで、どうぞ、受け取ってもらえるとありがたいです」
「ホワイトデーのお返し、か…これを渡しに、わざわざ顔を出したのか?…相変わらず、お調子者のようで意外と義理堅い…」
ヴァイスの差し出した、丁寧な包装がされた箱を、シグナムもまんざらでもなさそうな顔で受け取る。
「意外と、ってのは酷いッスねー…お調子者なのは認めますが…ところで、例の星座の怪人達の件はどんな感じッスか?」
「芳しくないな…力の差があり過ぎて、『翠眼の英雄』の世話になりっぱなしだ…」
「ああ、あの噂の…」
『翠眼の英雄』の噂は、どうやらヴァイスの耳にも入っていたようだ。
「管理局の人間として、彼らの力を当てにするわけにはいかん。厳密には、彼らも敵なんだからな」
「面倒ッスね~…別に、向こうは姐さん達と敵対するつもりは無いんでしょ?」
「そのつもりは無くても、結果的に敵対した事は何度もあるからな…」
シェイドと直接戦った時の事を思い出し、渋い顔をするシグナム。
「………もしかしたら、またお前の力が必要になるかも知れないな」
「いやいや、『翠眼の英雄』にせよ星座の怪人にせよ、スナイパー一人が「狙い撃つぜ!」したところでどうにもならないっしょ」
「やってみなければ分からん。それに…私はこれでも、少しはお前を頼りにしているんだぞ?」
「おやおや、ヴォルケンリッターの将ともあろうお人が、何とも呑気な事で…」
「狙撃魔導師の豆鉄砲如きで俺達が、ましてや『ユーノ』がどうにかなると思っているのか?…所詮は壊れたプログラム風情だな…」
今度は、ジェミニもキャンサーも全く同じ、呆れた様子でモニターを眺めている。
…キャンサーの言う『ユーノ』とは、『翠眼の英雄』ことシェイドの事である。
ちなみに今のユーノ・スクライアの事は『司書長』と呼び分けており、どちらも彼にとってはかけがえのない崇拝の対象となっている…
「ウ…ウ…ウ…」
「どうしたキャプリコーン、腹でも痛いのか?」
唸り声にも似た低い声を漏らすキャプリコーンに、怪訝そうにキャンサーが振り向くと…
「………シグナム…シグナム…シグナムウウウウウッ!!!」
…モニターの中で、ヴァイスと親しげに談笑を続けているシグナムを、血走った目で睨みつけるキャプリコーンの姿があった。
「俺の純情を踏み躙った上に、あんな…あんな軽薄ヤローとバレンタインにホワイトデーだなんて…!」
「…あー、しっと団がもう一人居たか…」
血の涙を流さんばかりの勢いで、ヴァーゴにも負けないブラックオーラを纏うキャプリコーンに、キャンサーはドン引きするしかない。
…キャプリコーンの正体、それは武装隊に所属する管理局員ゴトー・クサカ。
シグナムに想いを寄せていたが、主であるはやての影響で管理局至上主義に染まっていく彼女に幻滅。
それでも、敵となった今もなお、彼女への恋心はキャプリコーンの中で燻ぶり続けているのだった…
『お兄ちゃん、私、もっと食べさせて欲しいなぁ~』
「勿論いいよ。ほら、あーん」
『あ~ん♪』
場の空気に耐え切れなくなり、再び一人芝居に没頭して現実逃避を決め込むジェミニ。
「あぁん、エリオきゅ~ん!そんな背も無い胸も無い色気も無い子の何処がいいの!?」
エリオを想い、クネクネと妖しく悶えるヴァーゴ。
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い…でも、愛しい!俺はっ、俺はどうしたらいいんだあっ!?」
シグナムへの愛憎半ばする想いに、雄叫びを上げるキャプリコーン。
「………まったく、どうしようもねえな、このド下等どもは…」
その不気味な光景に呆れ果て、同僚達に背を向けるキャンサー。
…かつて、シェイドとユーノの遺伝子上の父親であるJ4=ジャックが『組織』に居た頃、彼もこんな気持ちだったのだろうか…
そんな事を思いながら、一人部屋を後にしようとして…
「って、待てよ…?」
…ムーンウォークのような動きで、後ろ向きのまま戻ってきた。
ムーンウォークが分からない若い人は、お父さんお母さんに聞いてみよう。
或いはググれ。
「おい、ヴァーゴ!キャプリコーン!」
「エ・リ・オ・きゅうぅぅぅんっ………て何よ、いきなり…」
「シ・グ・ナ・ムウウウウウッ!………何だよキャンサー?」
リーダー格であるキャンサーの呼びかけに、自分の世界に埋没していたヴァーゴもキャプリコーンも我に返る。
…もしスルーすればどんな目に遭わされるか、身を持って思い知らされているがゆえの条件反射とも言う…
「俺は色恋沙汰には興味は無いが、お前達の無念は何となくだが分からんでもない…そこでだ、俺にいい考えがあるんだが…」
星座兵団四天王のリーダー、キャンサーによる、ホワイトデーには全く似つかわしくない、真っ黒な策略が幕を開けようとしていた…
ちなみに、ジェミニはどうしていたかと言うと…
「うぐぐぐぐ、ぐるっ、苦しい…苦しいですよ、キャンサー…やめ、やめてください…」
…義手である右手を鋏に変形させたキャンサーに、その鋏で首を思いっきり締め上げられ、仮面から覗く目を白黒させながら、窒息寸前になっていたりする…
後編へ続く!