真逆のキャラでも相通じるなら、真逆の作者でも相通じる…と信じたい(ヲイ
無限書庫司書長付きの秘書となった千歌音が最初に手を付けたのは、書庫の運営を完全に掌握する事。
その障害となる相手は、密告・脅迫・情報操作・証拠隠滅等、ありとあらゆる手段を持って、闇から闇に葬ってきた。
…そこまでなら、とある並行世界の『ユーノ』もやってきた事である。
だが、彼女はその『ユーノ』が絶対にしないであろう“タブー”に手を染めた。
一つは、無限書庫を派閥に取り込もうとする高官達との、裏取引。
そして、もう一つは…
「う~…」
「…ガーニィさん、も少し安静にしてた方がいいんじゃないかな?」
前々回、時空を超えたブレイドと激突してぎっくり腰になったガーニィは、医務室で治療を受け、現在はゴトーと共に本局の廊下を歩いていた。
「そうもいかんだろ…明日の件で姫宮のお嬢と打ち合わせがある。あのオンドゥル野郎も出てきた以上、細心の注意を払わんと…」
「…そんなに厄介なのか?あの物体…」
「お前は初めて見るから知らないだろうけどな…アレが現れると、状況がカオスなんてもんじゃ済まないぐらい、しっちゃかめっちゃかに引っ掻き回されるんだよ…」
「………「ハチャメチャが押し寄せてくる」ってやつか…」
「「泣いてる場合じゃない」けど泣きたくなるぜ…そしてそのうち考えるのをやめた…」
「ネタは統一しようよ…」
「始めたのはお前だ!」
などとグダグダ話していると、向かい側から歩いてきた人物が2人に気付いて立ち止まる。
「やあ、君達は無限書庫の…えーと…」
「ん?」
平時にも関わらず、青いバリアジャケットに身を包んだ、爽やかそうな青年。
その青年に声をかけられ、立ち止まったガーニィは、相手に見覚えがある様子。
ゴトーも相手の顔を何処かで見たような気がして、続いて無言で立ち止まり、記憶を探っている。
「おや、これはこれはフリーク・ロードキング執務官じゃないですか!」
「あっ…もしかして、『蒼氷の隼』!?」
一転して笑顔を浮かべ、フリークと呼ばれた青年へと歩み寄っていくガーニィの言葉に、ゴトーも武装隊時代に何度も聞いた二つ名を思い出して声を上げる。
「お久しぶりですね、『KO事変』を解決した『英雄』。その後も、お変わりないようで…」
「いやいや、あの件は無限書庫の協力があったればこそだよ…ところで、医務室から出てきたようだが…何処か、身体の具合でも悪いのかな?」
「ハハハ、腰をやられましてね、ぎっくり腰ですよ。鍛えていらっしゃる前線の皆さんと違って、もう身体にガタが来る歳になりまして…」
如何にも社交辞令といった様子で、和気藹々と言葉を交わすガーニィとフリーク。
…だが、ガーニィと長年の友人であるゴトーは知っている。
彼がこんな風にヘラヘラと薄ら笑いを浮かべながら相手と接している時は、その相手を内心で小馬鹿にしながら徹底的に見下している時なのだという事を…
(…しかも今回は自虐を交えてる…これって要するに「お前はそんな俺にすら及ばない屑だけどな」って思ってるんだよなあ…)
そんな事とは露知らず、上機嫌でニヒルな笑みを浮かべているフリークを前に、ゴトーはこの仮面劇が終わるまで、平常心を保つ労苦を強いられるのだった…
同時刻、秘書室には一人の男が通されていた。
応接用のソファーに腰かけた、眼鏡をかけた糸目の男。
「…それで、今回はどのようなご用件で?」
向かいのソファーに座って応対する千歌音が、単刀直入に本題を切り出す。
ちなみにブレイドは、千歌音に前回言われた通り、事務机の陰に隠れている。
…最初は置物の振りをしようとしたのだが、思いっきり浮いて目立ってしまい却下されたのだ…
「いえね、明日の朝一番で八神司令がこの無限書庫に来訪する、という情報が入りまして…」
『X機関』からの使者というその男…普段は『暗部』と呼ばれ、汚れ仕事を専門に請け負っているという彼は、翌日のヴィヴィオ一行…の引率で、はやてが書庫を訪れる件について確認に来たのだった。
「あぁ、その件でしたら…例の『聖王』とその友人達の引率だそうです。彼女らの血脈に関わる事で、どうしても知りたい事がある…と、司書長に直接申告が入りまして…」
「本当にそれだけなら良いのですが…」
確かに、海上司令である八神はやてが無限書庫を直接訪れるとなれば、彼らにとっては心中穏やかでは無いだろう。
『X機関』に便宜を図る形で、管理局に対して隠蔽している情報の存在が知れれば、それだけ彼らの利益が損なわれる事になる。
…千歌音が『X機関』の存在を知り、彼らと水面下で手を組む切欠となった、『KO事変』のように…
『KO事変』
それは今から遡る事8年前、未発見だったとある管理外世界において行われていた、違法な兵器開発や生体実験が検挙された事件である。
検挙が早かった為に直接的な犠牲者が出ず、逮捕された首謀者とされるマッドサイエンティスト、『ノック・アウト』がその後自殺した為、事件ではなく事変と呼ばれている。
そして、この一件で表立って活躍した中心人物こそ、当時既にエリート執務官として名を馳せていた、フリーク・ロードキングだった…
「………ケッ。あのボンボン執務官、年長者に対する口の利き方がなっちゃいないな。結局、最後まで俺の名前を思い出さなかったしよ…」
「あ~…そういや、名前思い出そうとしてたみたいだったけど、一度も名前呼ばなかったよね…」
フリークと別れてものの数分もしないうちに、ガーニィはいつもの苦虫を噛み潰したようなしかめっ面に戻ると、先程まで和やかに談笑していた相手をボロクソに罵倒し始める。
ゴトーはそんな友人の切り替えの早さに、密かに戦慄しながら相槌を打つ。
(でも、あれだけ嫌ってる割には、六課関係者にはこういう腹芸しないで、真っ向から不機嫌顔で悪態ついてるんだよな…内心、認めるとこは認めてたりするのか?)
ふと聞いてみたくなったが、そんな事をすればこの友人がブチ切れて怒り狂うのは目に見えているので、浮かんだ疑問を心の奥に収めておくゴトーだった。
「『KO事変』の裏で、提督だったアイツの親父が姫宮のお嬢と取引した…身内に有益な情報を優先して流す代わりに、書庫の後ろ盾に名を連ねるという裏取引さ」
「ああ、それで事件になる前にスピード解決出来たわけだ…」
「当時は『共犯者』も少なくてな…お嬢の指図で俺があのボンボンに資料を届けていたのさ。それも逐一な…それなのに、名前を憶えていないとは…恩知らずにも程があるぜ」
ギリギリと歯ぎしりまでしていたガーニィだったが、不意にまた、ヘラヘラと薄ら笑いを浮かべる。
「ま、これからもせいぜい操り人形として踊ってもらうとするか。『英雄』と煽ててやれば、簡単に機嫌を良くするからな…扱い易くていい」
「英雄ねえ…」
「そ、英雄になりたいんだとよ…英雄ってのはな、英雄になろうとした瞬間に失格なんだそうだ。つまりあのボンボン、いきなりアウトってわけさ」
クックックッ…と不気味に笑うガーニィに若干引きつつ、ゴトーは自分が伏魔殿に足を踏み込んでいる事を実感していた…
『KO事変』が、首謀者ノック・アウトの自殺…疑問視する意見は決して少なくなかったが、最終的には状況から自殺と判断された…によって幕を下ろした翌日。
千歌音の前に、『暗部』の男が姿を現した。
彼は『X機関』の存在と自分の役目、そしてノック・アウトの自殺が実は自分の手による暗殺である事を説明した上で、千歌音に『X機関』への参入を持ちかけた。
…『開発部』であるノック・アウトが逮捕され、『商品』である研究成果が全て接収された『KO事変』は、『X機関』にとって大きな『損失』だった。
だが、同時に大きな『収穫』もあった。
無限書庫…管理局において、かつては情報の墓場とも吹き溜まりとも呼ばれていたその部署が稼働し、強力なバックアップを可能としている。
この部署を傘下に置ければ…
既にフリークの父であるビラーゴ・ロードキング提督、叔父である情報部のバラデロ・ロードキング副部長は彼らの手の内にある。
両名から裏取引の首謀者である千歌音の存在に辿り着いた『X機関』は、彼女を介して無限書庫を取り込む為に、暗部の男を差し向けた。
…万が一、彼女が参入を拒んだ場合、事故に見せかけて始末する為に…
このリアクションに対する千歌音の返答は、『X機関』そのものへの参入は出来ないが、対等な立場での協力体制を敷く用意はある…というものだった。
自分の命が危険に晒されているのを知りながら、敢えて対等な立場を維持する譲歩を求める千歌音に対し、『X機関』はその要求を呑んだ。
そして、無限書庫・反六課派と『X機関』による水面下での協力体制が確立される事となった…
「小物狙いだったのが、大物が釣れた…ってとこだな」
「こ、小物って…ロードキングと言えば、ハラオウンと並んで管理局に名立たる派閥だぞ?」
「ハラオウン、ねえ…そういやあのボンボン、ハラオウン…執務官の方な、アレに惚れているらしいぜ?」
「マジで?…ロードキング閥って確か、ハラオウン閥と対立してるんじゃ…」
「『ロミオとジュリエット』でも気取っているのかねえ…完全な片思いなのによ」
「痛いなあ…」
「ハラオウンの方も十分痛いがな…あの歳で、オツムの方は未だにオムツだ…」
「まあ、美人だからな…見た目だけは」
「見た目だけならなあ…脳筋で戦闘馬鹿で常識ゼロでも、顔が整っていて乳がでかくてスタイルも良けりゃ男が釣れる。あのボンボンとか…お前とか、な」
「シグナムの事か…」
…それまで、ボソボソと喋っていた2人だったが…
「シグナムのことか―――――っ!!!!!」
………激昂したゴトーの声が、本局の廊下に響き渡るのだった…
暗部の男は、『X機関』がはやての動向に警戒している事と、反六課派と同様に水面下で支援している『なのフェ親衛隊』が、また近々大がかりな動きを見せるらしい事だけを告げると、立ち去った。
『…良かったんディスか?何か、不審に思われているみたいディスけど…?』
「大丈夫よ。本当に手を切るつもりなら、通された時点で私を殺しているはず…それをせずに警告だけして帰ったのは、まだまだこちらとの協力関係を続けている方が得だと思っている証拠よ」
事務机の陰から漸く出て来られたブレイドが心配そうに第一声をかけるも、千歌音は変わらず涼しい顔で返す。
『ウェーイ…なのフェ親衛隊はどうするディス?』
「どうするも何も、これまで通りよ…危害を加えてくるなら反撃して、ある程度痛い目に遭わせた上で利用させてもらうだけ…」
『り、利用していたんディスか?』
「『ファン』のお行儀が悪ければ、必然的になのはさんとフェイトさんの評判も落ちるでしょう?…なのフェ親衛隊の存在は、ユーノの安全という面では邪魔だけど…私にとって有益な部分もあるのよ」
『…ヴィヴィオちゃんのメール事件の時のように、ディスね…』
「あぁ、あれね…」
一旦会話を中断した千歌音が、クスクスと含み笑いをする。
「………ユーノにヴィヴィオさんからの『お世話になっている人』へのメールが届いていない事を、なのフェ親衛隊にリークしたのは私よ」
『ウエェェェイッ!?』
千歌音の爆弾発言に、流石のブレイドも爆裂的な雄叫びをあげた。
『そ、そりは最早、自作自演というレベルなのディは…?』
「私とユーノの幸せの為に、利用出来るものは何でも利用しているだけよ。それの何が悪いと言うのかしら?」
『………そもそもユーノさんは、千歌音さんのしている事を知っているのディしょうか…?』
「私から、高官との裏取引や、『X機関』の事を話した事は無いけれど…」
何か言おうとするブレイドの言葉を遮り、千歌音が続けて口を開く。
「恐らく知っているわ。知っている上で、私の好きなようにさせてくれているのよ」
『ナズェそう言い切れるんディス!?ユーノさんがそんな事、させるはずが…』
無い、と言いかけて、ブレイドはふと疑問に思う。
果たして本当にそうだろうか。
自分は色んな世界の『ユーノ』と出会い、行動を共にしている。
しかし、それでも、ユーノの性格を熟知しているとは言い難い。
彼は謎が多い。
そして、並行世界毎に生い立ちも立ち位置も違う。
そんな彼らを総括して、『ユーノとはこういう人物だ!』と言い切れるほど、自分はユーノの人柄を知らないのでは…?
「…ユーノの事は、私が一番理解しているわ。ユーノは私の、たった一人の弟ですもの」
対する千歌音の言葉には、微塵の揺らぎも無かった。
「そう…不特定多数の為の、都合のいい『守護神』や『英雄』になる必要なんてない。ユーノは私の『弟』として、私の傍に居ればいい!私だけを見ていればいい!!」
『ウェ…』
「…ユーノを幸せに出来るのは、只一人…姉である私だけなんだから…」
そして、朝が来て。
はやてとノーヴェに引率され、ヴィヴィオがアインハルト達、インターミドル関係の友人を引き連れて、無限書庫を訪れる。
…それがやがて、この『リリカルなのは』の世界の行く末を左右する鍵となる事を、この幼い聖王はまだ知らない…
つづく
ぶっちゃけ、ここまでは前置きみたいな感じです(;^_^A
無限書庫司書長付きの秘書となった千歌音が最初に手を付けたのは、書庫の運営を完全に掌握する事。
その障害となる相手は、密告・脅迫・情報操作・証拠隠滅等、ありとあらゆる手段を持って、闇から闇に葬ってきた。
…そこまでなら、とある並行世界の『ユーノ』もやってきた事である。
だが、彼女はその『ユーノ』が絶対にしないであろう“タブー”に手を染めた。
一つは、無限書庫を派閥に取り込もうとする高官達との、裏取引。
そして、もう一つは…
「う~…」
「…ガーニィさん、も少し安静にしてた方がいいんじゃないかな?」
前々回、時空を超えたブレイドと激突してぎっくり腰になったガーニィは、医務室で治療を受け、現在はゴトーと共に本局の廊下を歩いていた。
「そうもいかんだろ…明日の件で姫宮のお嬢と打ち合わせがある。あのオンドゥル野郎も出てきた以上、細心の注意を払わんと…」
「…そんなに厄介なのか?あの物体…」
「お前は初めて見るから知らないだろうけどな…アレが現れると、状況がカオスなんてもんじゃ済まないぐらい、しっちゃかめっちゃかに引っ掻き回されるんだよ…」
「………「ハチャメチャが押し寄せてくる」ってやつか…」
「「泣いてる場合じゃない」けど泣きたくなるぜ…そしてそのうち考えるのをやめた…」
「ネタは統一しようよ…」
「始めたのはお前だ!」
などとグダグダ話していると、向かい側から歩いてきた人物が2人に気付いて立ち止まる。
「やあ、君達は無限書庫の…えーと…」
「ん?」
平時にも関わらず、青いバリアジャケットに身を包んだ、爽やかそうな青年。
その青年に声をかけられ、立ち止まったガーニィは、相手に見覚えがある様子。
ゴトーも相手の顔を何処かで見たような気がして、続いて無言で立ち止まり、記憶を探っている。
「おや、これはこれはフリーク・ロードキング執務官じゃないですか!」
「あっ…もしかして、『蒼氷の隼』!?」
一転して笑顔を浮かべ、フリークと呼ばれた青年へと歩み寄っていくガーニィの言葉に、ゴトーも武装隊時代に何度も聞いた二つ名を思い出して声を上げる。
「お久しぶりですね、『KO事変』を解決した『英雄』。その後も、お変わりないようで…」
「いやいや、あの件は無限書庫の協力があったればこそだよ…ところで、医務室から出てきたようだが…何処か、身体の具合でも悪いのかな?」
「ハハハ、腰をやられましてね、ぎっくり腰ですよ。鍛えていらっしゃる前線の皆さんと違って、もう身体にガタが来る歳になりまして…」
如何にも社交辞令といった様子で、和気藹々と言葉を交わすガーニィとフリーク。
…だが、ガーニィと長年の友人であるゴトーは知っている。
彼がこんな風にヘラヘラと薄ら笑いを浮かべながら相手と接している時は、その相手を内心で小馬鹿にしながら徹底的に見下している時なのだという事を…
(…しかも今回は自虐を交えてる…これって要するに「お前はそんな俺にすら及ばない屑だけどな」って思ってるんだよなあ…)
そんな事とは露知らず、上機嫌でニヒルな笑みを浮かべているフリークを前に、ゴトーはこの仮面劇が終わるまで、平常心を保つ労苦を強いられるのだった…
同時刻、秘書室には一人の男が通されていた。
応接用のソファーに腰かけた、眼鏡をかけた糸目の男。
「…それで、今回はどのようなご用件で?」
向かいのソファーに座って応対する千歌音が、単刀直入に本題を切り出す。
ちなみにブレイドは、千歌音に前回言われた通り、事務机の陰に隠れている。
…最初は置物の振りをしようとしたのだが、思いっきり浮いて目立ってしまい却下されたのだ…
「いえね、明日の朝一番で八神司令がこの無限書庫に来訪する、という情報が入りまして…」
『X機関』からの使者というその男…普段は『暗部』と呼ばれ、汚れ仕事を専門に請け負っているという彼は、翌日のヴィヴィオ一行…の引率で、はやてが書庫を訪れる件について確認に来たのだった。
「あぁ、その件でしたら…例の『聖王』とその友人達の引率だそうです。彼女らの血脈に関わる事で、どうしても知りたい事がある…と、司書長に直接申告が入りまして…」
「本当にそれだけなら良いのですが…」
確かに、海上司令である八神はやてが無限書庫を直接訪れるとなれば、彼らにとっては心中穏やかでは無いだろう。
『X機関』に便宜を図る形で、管理局に対して隠蔽している情報の存在が知れれば、それだけ彼らの利益が損なわれる事になる。
…千歌音が『X機関』の存在を知り、彼らと水面下で手を組む切欠となった、『KO事変』のように…
『KO事変』
それは今から遡る事8年前、未発見だったとある管理外世界において行われていた、違法な兵器開発や生体実験が検挙された事件である。
検挙が早かった為に直接的な犠牲者が出ず、逮捕された首謀者とされるマッドサイエンティスト、『ノック・アウト』がその後自殺した為、事件ではなく事変と呼ばれている。
そして、この一件で表立って活躍した中心人物こそ、当時既にエリート執務官として名を馳せていた、フリーク・ロードキングだった…
「………ケッ。あのボンボン執務官、年長者に対する口の利き方がなっちゃいないな。結局、最後まで俺の名前を思い出さなかったしよ…」
「あ~…そういや、名前思い出そうとしてたみたいだったけど、一度も名前呼ばなかったよね…」
フリークと別れてものの数分もしないうちに、ガーニィはいつもの苦虫を噛み潰したようなしかめっ面に戻ると、先程まで和やかに談笑していた相手をボロクソに罵倒し始める。
ゴトーはそんな友人の切り替えの早さに、密かに戦慄しながら相槌を打つ。
(でも、あれだけ嫌ってる割には、六課関係者にはこういう腹芸しないで、真っ向から不機嫌顔で悪態ついてるんだよな…内心、認めるとこは認めてたりするのか?)
ふと聞いてみたくなったが、そんな事をすればこの友人がブチ切れて怒り狂うのは目に見えているので、浮かんだ疑問を心の奥に収めておくゴトーだった。
「『KO事変』の裏で、提督だったアイツの親父が姫宮のお嬢と取引した…身内に有益な情報を優先して流す代わりに、書庫の後ろ盾に名を連ねるという裏取引さ」
「ああ、それで事件になる前にスピード解決出来たわけだ…」
「当時は『共犯者』も少なくてな…お嬢の指図で俺があのボンボンに資料を届けていたのさ。それも逐一な…それなのに、名前を憶えていないとは…恩知らずにも程があるぜ」
ギリギリと歯ぎしりまでしていたガーニィだったが、不意にまた、ヘラヘラと薄ら笑いを浮かべる。
「ま、これからもせいぜい操り人形として踊ってもらうとするか。『英雄』と煽ててやれば、簡単に機嫌を良くするからな…扱い易くていい」
「英雄ねえ…」
「そ、英雄になりたいんだとよ…英雄ってのはな、英雄になろうとした瞬間に失格なんだそうだ。つまりあのボンボン、いきなりアウトってわけさ」
クックックッ…と不気味に笑うガーニィに若干引きつつ、ゴトーは自分が伏魔殿に足を踏み込んでいる事を実感していた…
『KO事変』が、首謀者ノック・アウトの自殺…疑問視する意見は決して少なくなかったが、最終的には状況から自殺と判断された…によって幕を下ろした翌日。
千歌音の前に、『暗部』の男が姿を現した。
彼は『X機関』の存在と自分の役目、そしてノック・アウトの自殺が実は自分の手による暗殺である事を説明した上で、千歌音に『X機関』への参入を持ちかけた。
…『開発部』であるノック・アウトが逮捕され、『商品』である研究成果が全て接収された『KO事変』は、『X機関』にとって大きな『損失』だった。
だが、同時に大きな『収穫』もあった。
無限書庫…管理局において、かつては情報の墓場とも吹き溜まりとも呼ばれていたその部署が稼働し、強力なバックアップを可能としている。
この部署を傘下に置ければ…
既にフリークの父であるビラーゴ・ロードキング提督、叔父である情報部のバラデロ・ロードキング副部長は彼らの手の内にある。
両名から裏取引の首謀者である千歌音の存在に辿り着いた『X機関』は、彼女を介して無限書庫を取り込む為に、暗部の男を差し向けた。
…万が一、彼女が参入を拒んだ場合、事故に見せかけて始末する為に…
このリアクションに対する千歌音の返答は、『X機関』そのものへの参入は出来ないが、対等な立場での協力体制を敷く用意はある…というものだった。
自分の命が危険に晒されているのを知りながら、敢えて対等な立場を維持する譲歩を求める千歌音に対し、『X機関』はその要求を呑んだ。
そして、無限書庫・反六課派と『X機関』による水面下での協力体制が確立される事となった…
「小物狙いだったのが、大物が釣れた…ってとこだな」
「こ、小物って…ロードキングと言えば、ハラオウンと並んで管理局に名立たる派閥だぞ?」
「ハラオウン、ねえ…そういやあのボンボン、ハラオウン…執務官の方な、アレに惚れているらしいぜ?」
「マジで?…ロードキング閥って確か、ハラオウン閥と対立してるんじゃ…」
「『ロミオとジュリエット』でも気取っているのかねえ…完全な片思いなのによ」
「痛いなあ…」
「ハラオウンの方も十分痛いがな…あの歳で、オツムの方は未だにオムツだ…」
「まあ、美人だからな…見た目だけは」
「見た目だけならなあ…脳筋で戦闘馬鹿で常識ゼロでも、顔が整っていて乳がでかくてスタイルも良けりゃ男が釣れる。あのボンボンとか…お前とか、な」
「シグナムの事か…」
…それまで、ボソボソと喋っていた2人だったが…
「シグナムのことか―――――っ!!!!!」
………激昂したゴトーの声が、本局の廊下に響き渡るのだった…
暗部の男は、『X機関』がはやての動向に警戒している事と、反六課派と同様に水面下で支援している『なのフェ親衛隊』が、また近々大がかりな動きを見せるらしい事だけを告げると、立ち去った。
『…良かったんディスか?何か、不審に思われているみたいディスけど…?』
「大丈夫よ。本当に手を切るつもりなら、通された時点で私を殺しているはず…それをせずに警告だけして帰ったのは、まだまだこちらとの協力関係を続けている方が得だと思っている証拠よ」
事務机の陰から漸く出て来られたブレイドが心配そうに第一声をかけるも、千歌音は変わらず涼しい顔で返す。
『ウェーイ…なのフェ親衛隊はどうするディス?』
「どうするも何も、これまで通りよ…危害を加えてくるなら反撃して、ある程度痛い目に遭わせた上で利用させてもらうだけ…」
『り、利用していたんディスか?』
「『ファン』のお行儀が悪ければ、必然的になのはさんとフェイトさんの評判も落ちるでしょう?…なのフェ親衛隊の存在は、ユーノの安全という面では邪魔だけど…私にとって有益な部分もあるのよ」
『…ヴィヴィオちゃんのメール事件の時のように、ディスね…』
「あぁ、あれね…」
一旦会話を中断した千歌音が、クスクスと含み笑いをする。
「………ユーノにヴィヴィオさんからの『お世話になっている人』へのメールが届いていない事を、なのフェ親衛隊にリークしたのは私よ」
『ウエェェェイッ!?』
千歌音の爆弾発言に、流石のブレイドも爆裂的な雄叫びをあげた。
『そ、そりは最早、自作自演というレベルなのディは…?』
「私とユーノの幸せの為に、利用出来るものは何でも利用しているだけよ。それの何が悪いと言うのかしら?」
『………そもそもユーノさんは、千歌音さんのしている事を知っているのディしょうか…?』
「私から、高官との裏取引や、『X機関』の事を話した事は無いけれど…」
何か言おうとするブレイドの言葉を遮り、千歌音が続けて口を開く。
「恐らく知っているわ。知っている上で、私の好きなようにさせてくれているのよ」
『ナズェそう言い切れるんディス!?ユーノさんがそんな事、させるはずが…』
無い、と言いかけて、ブレイドはふと疑問に思う。
果たして本当にそうだろうか。
自分は色んな世界の『ユーノ』と出会い、行動を共にしている。
しかし、それでも、ユーノの性格を熟知しているとは言い難い。
彼は謎が多い。
そして、並行世界毎に生い立ちも立ち位置も違う。
そんな彼らを総括して、『ユーノとはこういう人物だ!』と言い切れるほど、自分はユーノの人柄を知らないのでは…?
「…ユーノの事は、私が一番理解しているわ。ユーノは私の、たった一人の弟ですもの」
対する千歌音の言葉には、微塵の揺らぎも無かった。
「そう…不特定多数の為の、都合のいい『守護神』や『英雄』になる必要なんてない。ユーノは私の『弟』として、私の傍に居ればいい!私だけを見ていればいい!!」
『ウェ…』
「…ユーノを幸せに出来るのは、只一人…姉である私だけなんだから…」
そして、朝が来て。
はやてとノーヴェに引率され、ヴィヴィオがアインハルト達、インターミドル関係の友人を引き連れて、無限書庫を訪れる。
…それがやがて、この『リリカルなのは』の世界の行く末を左右する鍵となる事を、この幼い聖王はまだ知らない…
つづく
ぶっちゃけ、ここまでは前置きみたいな感じです(;^_^A