あれだけ宮様がなのはさん達の事をボロクソに罵倒すれば、幾らシスコンなユーノ君だって黙ってはいないわけで…
「姉さんなんか嫌いだ!大っ嫌いだ!!」
幼い弟が、普段見せた事の無い剣幕で放った怒りの言葉に、千歌音の心は激しく打ちのめされた…
「…それにしても、千歌音っていつも私達…特になのはの悪口を言ってるけど、ユーノは何も言わないのかな?」
無限書庫に依頼していた資料を受け取りに来たフェイトが、ふと前々から思っていた疑問を口にした。
幾ら実の姉とは言え、友人達の事を思いっきり悪し様に貶されれば、シスコンの気があると言っても、ユーノの性格上、諌めるなり反論するなりがあってもいいのでは?というのが、フェイトの長年の疑問だったのだ。
「あ~…フェイトちゃんはあの事知らないからね…」
ソウマに弁当を届けに来て、フェイトと鉢合わせした姫子が、何かを知っている様子で答える。
「あの事…?」
「うん。あれは私達がミッドに移り住んだばかりで、まだ千歌音ちゃんが私と一緒に、ミッドの文字の読み書きをソウマ君に教えてもらってた頃なんだけどね…」
きっかけは、勉強会が一段落して、話の流れでユーノやソウマの管理局での仕事に話題が及んだ事だった。
その中で、管理局における魔導師優遇、女尊男卑ぶりから、それらの恩恵を受けているなのは達への嫌悪を千歌音が歯に衣着せぬ言葉で悪口雑言をぶちまけた。
それを聞いたユーノが、流石に堪忍袋の緒が切れたとばかりに、冒頭の言葉と共に、姫宮邸を出てしまった。
「………ユーノ君、それからずっと無限書庫に泊り込んで帰ってこなくなっちゃって…当時は、千歌音ちゃんは管理局に出入り出来なかったから、連れ戻す事も出来なくて…」
「………千歌音、堪えただろうね…」
「あれはもう、堪えたとかいうレベルじゃなかったね…」
ユーノが帰ってこなくなったその日から、千歌音は自分の部屋に引き篭もり、食事も取らなくなってしまった。
「お嬢様!ここをお開けください!!もう一週間も、何も召し上がってないじゃないですか!?」
千歌音の身を案じる乙羽が半狂乱でドアを叩くも、千歌音からの反応は無い。
「これは…拙いな…」
「うん…千歌音ちゃん、このままだと病気になっちゃうよ…」
ソウマと姫子も、毎日のように様子を見に来ていたが、状況が改善される兆しは一向に無く。
「………無理矢理でも、ユーノを連れ戻すしか無いか…」
遂に、ソウマは決意した。
「それで、ソウマがユーノを?」
「うん…ソウマ君から聞いた話だと、ユーノ君も危ない状態だったみたいだよ。何日も無理して徹夜を続けて…あれは、千歌音ちゃんにキツイ事言ったのを、忙しさで忘れようとしてたのかもね…」
仕事に没頭して憔悴し切った様子のユーノを、ソウマは強引に姫宮邸へと連れ戻した。
「…姉さん…ここ、開けてくれるかな…?」
大事な友人であるなのは達を散々侮辱された事と、自分が姉に対してきつく反発した事で帰るに帰れない心境だったユーノだが、ソウマから、千歌音が一週間も自室に引き篭もって食事すら取っていないと聞かされ、気まずいながらもドアの向こうから声をかけた。
ギイィィィ…
「…ユーノ…?」
ゆっくりとドアが開き、弱々しい声と共に姿を現した千歌音は、普段の見る者全てを魅了し、圧倒するような美貌は見る影も無く、すっかりやつれ果て、血色も悪く、髪も乱れたその姿は、まるで幽鬼のようですらあった。
「姉…さん…?」
その鬼気迫る様子に、ユーノが言葉を失った、その瞬間だった。
「………っ」
足に力が入らなくなっていたのか、千歌音が体勢を崩して倒れかける。
「姉さんっ!」
咄嗟に抱き止めるユーノ。
9歳の少年に、体格差のある16歳の少女が抱き止められる格好だが、デウス・エクス・マキナを巡る戦いの中で抱き上げた時よりも、姉の身体は軽くなっているように感じた。
「…ユーノ…ごめん、なさい…貴方の、お友達を悪く言って…」
「………」
消え入りそうな声で詫びる千歌音に、ユーノは何も言う事が出来なかった。
千歌音はデウス・エクス・マキナの中で未来を知り、ユーノの身を案じているからこそ、なのは達と引き離そうとしている。
全ては、最愛の弟であるユーノを想うが故なのだ。
「………でも、お願い…私の事………嫌いにならないで…」
「…姉さん…!」
縋り付くように、幼い弟の胸に顔を埋め、嗚咽する千歌音。
そんな姉を、ユーノは強く抱き締めるのだった。
…二度と離すまいとするかのように…
「………それからかな、千歌音ちゃんがなのはちゃんやフェイトちゃん達の事をボロカスに言いまくっても、ユーノ君が何も言わなくなったのは」
「そ、そんな事があったんだ…」
「思えばあの頃からユーノ君もシスコンが悪化してきたっけ…」と当時を回想する姫子の言葉が、何処か遠くで聞こえているように感じながら、フェイトは、自分達とユーノやソウマとの間に、大きな距離が開いている事を実感していた。
自分もなのはも、ソウマやユーノと共有した時間が、姫子や千歌音に比べて圧倒的に少ないのだ。
喧嘩をした事や怒られた事が無いというのも、それだけ接する機会が短かったというだけに過ぎない。
「フェイトママー」
「あ、ヴィヴィオ。お仕事は終わったの?」
「うん。ユーノ司書長にね、「ヴィヴィオは覚えが早いね」って褒められたんだよー♪」
「そうなんだ。良かったね!」
『ママ』であるフェイトの姿を見かけて寄ってきたヴィヴィオと、そんなヴィヴィオに『ママ』として接するフェイト。
それを、姫子は微笑ましく、しかし内心は冷淡に見つめていた。
姫子は、千歌音から聞いて知っている。
自分達がミッドを離れる日が近付いている事を。
その最大の引き金となる、ユーノがなのは達への未練を断ち切るきっかけとなるのが、目の前でフェイトを『ママ』と呼ぶ少女である事を。
だから姫子は、何も言わずに、フェイトとヴィヴィオを、只静かに見つめているのだった。
おわり
そして『高町なのは再生工場』に続く(ヲイ
「姉さんなんか嫌いだ!大っ嫌いだ!!」
幼い弟が、普段見せた事の無い剣幕で放った怒りの言葉に、千歌音の心は激しく打ちのめされた…
「…それにしても、千歌音っていつも私達…特になのはの悪口を言ってるけど、ユーノは何も言わないのかな?」
無限書庫に依頼していた資料を受け取りに来たフェイトが、ふと前々から思っていた疑問を口にした。
幾ら実の姉とは言え、友人達の事を思いっきり悪し様に貶されれば、シスコンの気があると言っても、ユーノの性格上、諌めるなり反論するなりがあってもいいのでは?というのが、フェイトの長年の疑問だったのだ。
「あ~…フェイトちゃんはあの事知らないからね…」
ソウマに弁当を届けに来て、フェイトと鉢合わせした姫子が、何かを知っている様子で答える。
「あの事…?」
「うん。あれは私達がミッドに移り住んだばかりで、まだ千歌音ちゃんが私と一緒に、ミッドの文字の読み書きをソウマ君に教えてもらってた頃なんだけどね…」
きっかけは、勉強会が一段落して、話の流れでユーノやソウマの管理局での仕事に話題が及んだ事だった。
その中で、管理局における魔導師優遇、女尊男卑ぶりから、それらの恩恵を受けているなのは達への嫌悪を千歌音が歯に衣着せぬ言葉で悪口雑言をぶちまけた。
それを聞いたユーノが、流石に堪忍袋の緒が切れたとばかりに、冒頭の言葉と共に、姫宮邸を出てしまった。
「………ユーノ君、それからずっと無限書庫に泊り込んで帰ってこなくなっちゃって…当時は、千歌音ちゃんは管理局に出入り出来なかったから、連れ戻す事も出来なくて…」
「………千歌音、堪えただろうね…」
「あれはもう、堪えたとかいうレベルじゃなかったね…」
ユーノが帰ってこなくなったその日から、千歌音は自分の部屋に引き篭もり、食事も取らなくなってしまった。
「お嬢様!ここをお開けください!!もう一週間も、何も召し上がってないじゃないですか!?」
千歌音の身を案じる乙羽が半狂乱でドアを叩くも、千歌音からの反応は無い。
「これは…拙いな…」
「うん…千歌音ちゃん、このままだと病気になっちゃうよ…」
ソウマと姫子も、毎日のように様子を見に来ていたが、状況が改善される兆しは一向に無く。
「………無理矢理でも、ユーノを連れ戻すしか無いか…」
遂に、ソウマは決意した。
「それで、ソウマがユーノを?」
「うん…ソウマ君から聞いた話だと、ユーノ君も危ない状態だったみたいだよ。何日も無理して徹夜を続けて…あれは、千歌音ちゃんにキツイ事言ったのを、忙しさで忘れようとしてたのかもね…」
仕事に没頭して憔悴し切った様子のユーノを、ソウマは強引に姫宮邸へと連れ戻した。
「…姉さん…ここ、開けてくれるかな…?」
大事な友人であるなのは達を散々侮辱された事と、自分が姉に対してきつく反発した事で帰るに帰れない心境だったユーノだが、ソウマから、千歌音が一週間も自室に引き篭もって食事すら取っていないと聞かされ、気まずいながらもドアの向こうから声をかけた。
ギイィィィ…
「…ユーノ…?」
ゆっくりとドアが開き、弱々しい声と共に姿を現した千歌音は、普段の見る者全てを魅了し、圧倒するような美貌は見る影も無く、すっかりやつれ果て、血色も悪く、髪も乱れたその姿は、まるで幽鬼のようですらあった。
「姉…さん…?」
その鬼気迫る様子に、ユーノが言葉を失った、その瞬間だった。
「………っ」
足に力が入らなくなっていたのか、千歌音が体勢を崩して倒れかける。
「姉さんっ!」
咄嗟に抱き止めるユーノ。
9歳の少年に、体格差のある16歳の少女が抱き止められる格好だが、デウス・エクス・マキナを巡る戦いの中で抱き上げた時よりも、姉の身体は軽くなっているように感じた。
「…ユーノ…ごめん、なさい…貴方の、お友達を悪く言って…」
「………」
消え入りそうな声で詫びる千歌音に、ユーノは何も言う事が出来なかった。
千歌音はデウス・エクス・マキナの中で未来を知り、ユーノの身を案じているからこそ、なのは達と引き離そうとしている。
全ては、最愛の弟であるユーノを想うが故なのだ。
「………でも、お願い…私の事………嫌いにならないで…」
「…姉さん…!」
縋り付くように、幼い弟の胸に顔を埋め、嗚咽する千歌音。
そんな姉を、ユーノは強く抱き締めるのだった。
…二度と離すまいとするかのように…
「………それからかな、千歌音ちゃんがなのはちゃんやフェイトちゃん達の事をボロカスに言いまくっても、ユーノ君が何も言わなくなったのは」
「そ、そんな事があったんだ…」
「思えばあの頃からユーノ君もシスコンが悪化してきたっけ…」と当時を回想する姫子の言葉が、何処か遠くで聞こえているように感じながら、フェイトは、自分達とユーノやソウマとの間に、大きな距離が開いている事を実感していた。
自分もなのはも、ソウマやユーノと共有した時間が、姫子や千歌音に比べて圧倒的に少ないのだ。
喧嘩をした事や怒られた事が無いというのも、それだけ接する機会が短かったというだけに過ぎない。
「フェイトママー」
「あ、ヴィヴィオ。お仕事は終わったの?」
「うん。ユーノ司書長にね、「ヴィヴィオは覚えが早いね」って褒められたんだよー♪」
「そうなんだ。良かったね!」
『ママ』であるフェイトの姿を見かけて寄ってきたヴィヴィオと、そんなヴィヴィオに『ママ』として接するフェイト。
それを、姫子は微笑ましく、しかし内心は冷淡に見つめていた。
姫子は、千歌音から聞いて知っている。
自分達がミッドを離れる日が近付いている事を。
その最大の引き金となる、ユーノがなのは達への未練を断ち切るきっかけとなるのが、目の前でフェイトを『ママ』と呼ぶ少女である事を。
だから姫子は、何も言わずに、フェイトとヴィヴィオを、只静かに見つめているのだった。
おわり
そして『高町なのは再生工場』に続く(ヲイ