前回までのあらすじ

なのフェ親衛隊の『百合カル計画』の存在を知った千歌音は、はやてのマシンs制作委員会との協力体制による『TMV計画』を発動させるのだった!
以上!

ユーノ「…このシリーズのあらすじは端折らなきゃいけない決まりでもあるの…?」



「…とまぁ、そういうわけなんよ」

無限書庫の未整理区画の一つであり、現在ユーノが陣頭指揮を取って資料の整理が行われている『T区画』。
そのT区画を更に区分けした『aブロック』を浮遊しながら、はやては武者・騎士<ナイト>・コマンドのなのマシンsにこれまでの経緯を説明していた。

「ほー、つまり新しい千歌マシンが我らの仲間に加わるという事でござるか」

『病み将軍事件』において武者千歌音と一時心を通わせた武者なのはは、何処か嬉しそうだった。
だが、他の2人はと言うと、寧ろ浮かない表情をしている。

「…大丈夫なの?また、武者千歌音みたいに暴走でもされたら…」
「しかも今度は二体でしょ?同時に暴れ出したら私達じゃ止めようが無いわよ?」

『病み将軍』を名乗って暴走した武者千歌音に手も足も出なかった事を思い出し、不安を隠そうともしない騎士なのはとコマンドなのは。

「うーん…ま、大丈夫やろ。千歌音さんも、同じ失敗は繰り返さないて言うてたし…ん?」

浮遊しながらの会話の途中で、はやての耳に幾つもの「なの、なの」という声が聞こえてきた。
ふと声のした方向に振り向くと、そこには十数体ほどの量産型なのマシンが、輪になって何やら深刻そうに話し込んでいる。
話し込むと言っても、普通に聞いただけでは「なの、なの」と言っているだけにしか聞こえないのだが。

「何やー?みんな揃って、何かあったんか~?」

なのマシン達の方へと飛んでいくはやて。

「なのっ、なのなのっ」

代表らしい一体のなのマシンが、身振り手振りを交えて慌てた様子ではやてに訴える。

「ユータが居らへん?…って、そもそもユータって誰や?」

念話に近い感じでなのマシンの言葉を聞き取ったはやては、聞きなれない人物の名前に首を傾げる。

「aブロックに配属されている量産型ユノマシンよ。『ユー』ノ君がモデルのマシンで、『T』区画の『a』ブロックに所属してるから『ユータ』って呼ばれてるの」
「ほー、ここのユノマシンはそんな風に呼ばれとったんかぁ」

コマンドなのはの説明に、なるほどと頷くはやて。
確かに『プロジェクト・セカンド』で生まれた個性的なマシンsと違い、量産型のなのマシンやユノマシンは皆同じ姿をしているので、個別の呼び名が無いと紛らわしい事この上ない。

「で、そのユータが行方不明やて?」
「…今日が初めてじゃないみたいね。これまでも、時々居なくなる事があったみたい」

はやてがコマンドなのはから説明を受けている間に、代わってなのマシン達から事情を聞いていた騎士なのはが伝えた。

「何や、それやったら今度もまた戻ってくるやろ。そんな深刻になる問題でもあらへんやんか」
「そういう問題でござるか?」
「マシン言うても男の子なんやし、女の子ばっかしの中には居辛い時もあるて」

ひらひらと手を振りながら、極めて楽天的に武者なのはに答えるはやて。

…しかし、そんなはやてのお気楽な予想は外れ、その日ユータはaブロックに戻ってくる事はなかったのだった…



計器類やコードで埋め尽くされた、薄暗い室内。
機械の部屋とでも言うべきその場所に、話題のユータは居た。

「ゆの、ゆの」
「…そう、今日はそんな事があったの…」

今日あった事を、身振り手振り交えて話すユータ。
そんな彼の話に、優しく答える女性の声。
その声の主は、一体のマシンだった。
頭身はなのマシンやユノマシンより少し高い。
椅子に座るような格好で何本ものコードを接続され、全身の姿は判別し難い。



ユータが彼女と出会ったのは、約一ヶ月前の事だった。
その日の休憩時間、ユータはなのマシン達とかくれんぼをして遊んでいた。
通風孔に隠れたユータは、うっかり足を滑らせ、滑り台かウォータースライダーかといった軌道に乗って、この機械の部屋に迷い込んでしまった。

「ゆの~…」

見た事も無い部屋に迷い込み、心細くなりながらも、早く書庫に戻ろうと自分の落ちてきた通風孔を探すユータ。
と、その時…

「…そこに、誰か居るの?」
「ゆのっ!?」

暗がりの中から聞こえてきた声に驚き、ユータは思わず腰を抜かして倒れてしまう。

「…驚かせてしまったみたいね…大丈夫。別に貴方に何かしようってわけじゃないわ…」
「ゆ、ゆの…」

続いて聞こえてきた声が、何処か懐かしい気持ちにさせる優しいものだったので、ユータは何とか落ち着いて起き上がる事が出来た。

「………貴方、私と同じマシンなの?」
「ゆの、ゆのゆのー」
「…そう、無限書庫のユノマシン…ユータって呼ばれているのね…」
「ゆのー」
「私はT-002…騎士<ナイト>千歌音と呼ばれているわ…」

それがユータと彼女…騎士千歌音の出会い。

今ではユータは騎士千歌音にすっかり懐き、休憩時間の折を見ては通風孔からこの部屋に通い、その日あった事などを話して、2人で過ごすようになっていたのだった。



『どうやー!無限書庫の技術は宇宙一やでぇ!!』

モニターに映し出されているのは、アースラRのブリッジで歓声を上げるスタッフの先頭に立ち、ドヤ顔で高らかに雄叫びを上げるはやての姿。
先の無人世界カルナージにおける、なのフェ親衛隊のガジェット・ギロ及びガジェット・ネコによる包囲網を、強化改造されたYセイバー…『YXセイバー』の活躍によって切り抜けた時の様子を、セイバープランに参加している反六課派の司書が密かにデータに収めたものである。

「…まるで、自分が無限書庫の代表者のような台詞ね…」

アップになったはやてのドヤ顔を、千歌音は秘書室の椅子に腰掛けて忌々しげに見つめていた。
無限書庫の関係者でもない一捜査官とは思えないはやての台詞は、司書長である弟ユーノの秘書として共に無限書庫を切り盛りしてきた千歌音の神経を大いに逆撫でするものであった事は言うまでもない。

「………まぁいいわ。そうやって、調子に乗っていられるのも今の内…乙羽、研究所からの連絡はあったかしら?」
「はい。『シュッテバインEX』及び『レヴィンガスト改』の改修が完了し、現在は『D-D』の新規製造に当たっているとの事。それと、『ハイザッコ』の量産体制も整った様子です」
「順調ね…元・六課の面々が“表の”TMV計画に気を取られている間に、こちらの“裏の”TMV計画は着々と進んでいくわ…」

傍らに控えていた乙羽からの報告に、満足そうにほくそ笑む千歌音。
どうやら、セイバープランを支援するTMV計画の裏で、異なる計画を進めているようだが…

「そう言えば、明日はその表のTMV計画の第一弾のお披露目だったわね?」
「はい。今夜中にT-002の最終調整を済ませ、明日、無限書庫に正式配備となります」



「ゆのー?」
「何だか寂しそう?…ふふ、ユータには隠し事が出来ないわね…」

ふと、ユータは騎士千歌音の表情が何処か愁いを帯びている事に気付いた。
そんな自分の顔を覗き込んで尋ねてくるユータに、冗談交じりに苦笑する騎士千歌音だったが、暫くの間を置き、意を決したように話し出した。

「………実はね、今日でユータとはお別れなの…今夜、私の記憶<メモリー>は消えて無くなっちゃうから…」
「ゆの…!?」

凍り付いたように驚愕するユータに、言い聞かせるように騎士千歌音は話を続ける。
自分は明日、無限書庫に正式に配備される事。
その前夜に行われる最終調整の影響で、今までの自分の記憶が全て消去されてしまう事。
そもそも自分は正式な起動前の状態だったので、最終調整を拒む事は出来ない事…

「ゆの…ゆの…」

騎士千歌音の話が終わった時、ユータは泣いていた。
滅多に他人の前で涙を見せないユーノの人格をモデルにしたユノマシンであるにも関わらず、騎士千歌音の前で止め処なく涙を溢れさせて泣いた。

「泣かないで、ユータ…私の記憶が消えても、私そのものが居なくなるわけじゃないから…」

それが何の慰めにもなっていない事は、騎士千歌音にも分かっていた。
本当は、自分だって泣きたい、それほどまでに、これまでのユータと過ごした日々は、彼女の中で大切な思い出になっていたのだ。
だが、自分は無限書庫を守る為に作られた『T-シリーズ』の千歌マシン。
先に起動し、暴走したT-001こと武者千歌音のようになってはいけないという自制<プログラム>が、彼女に泣く事を許さなかった。

「無限書庫で、また『私』と会う事があったら…その『私』とも、仲良くしてあげてね…」
「………ゆのっ」

それでも、震える声までは抑え切れない騎士千歌音の気持ちを察し、ユータは涙を拭い、コクンと頷いた。

その日、休憩時間が過ぎても、ユータは無限書庫に戻らず、騎士千歌音と過ごした。
この一ヶ月の事を、出会いから、色々な事を思い出して話し、再び泣いた。
そしてとうとう泣き疲れたユータは、騎士千歌音の傍で眠ってしまうのだった…



後編へ続く