今日はハロウィン。
子供たちがオバケの仮装をして、「トリック・オア・トリート(お菓子をくれなきゃイタズラするぞ)」と言いながら、家々を回ってお菓子をもらう日です。
本当はもっといろいろな意味のある日なのですが、何しろここは魔法の国・ミッドチルダ。
地球から伝わった、何だかおもしろいイベント、といった感じで、深い意味を考えずにみんなで盛り上がっています。



クラナガン郊外にある大きなお屋敷。
そこに住んでいるユーノくんも、今日はお仕事をお昼までで切り上げて、友達といっしょに仮装して家々を回る準備をしています。
いつもなら真っ黒執務官のせいで夜までお仕事ですが、今日は真っ黒執務官が土偶のようなドーパントにおそわれて大ケガをしてしまったので、お昼からはお休みなのです。
今ごろ、真っ黒執務官は病院のベッドでミイラ男の仮装のように、包帯ぐるぐる巻きになっていることでしょう。

こわいですね、土偶のドーパント。
いったい、正体はだれなんでしょうか?



「こんな感じかな…?」

ユーノくんの仮装はドラキュラです。
裏地の赤い黒マントを羽織った、何ともかわいらしいドラキュラです。
ふだんは大人たちといっしょにお仕事しているといっても、ユーノくんも、まだまだ9さいの子供。
みんなといっしょにイベントに参加できて、ワクワクする気持ちが止まりません。

「でも、ドキドキするなあ…本番の前に、練習とかしとこうかな?」

ドキドキワクワクで少し緊張してきたユーノくん、そう言うと「トリック・オア・トリート」の練習をしようと部屋を出ます。
姉さんに言ってみようかな?と思っていると、キッチンの方からいいにおいがしてきます。
きっとメイドの乙羽さんが、おいしいかぼちゃパイを焼いているのでしょう。

「よし、じゃあ乙羽さんで練習してみよう!」

ついでに、焼きたてのかぼちゃパイももらっちゃおう、そんなことを思いながら、ユーノくんはひょっこりキッチンに顔を出しました。



「まぁ、ユーノさま。とってもかわいらしいドラキュラですね♪」

ドラキュラの仮装をしたユーノくんを見て、乙羽さんがうれしそうに言いました。
乙羽さんは、かわいいユーノくんが大好きなのです。
ユーノくんのお姉さんの、千歌音さんのことも大好きです。
千歌音さんとユーノくんのためにはたらくことが、乙羽さんにとっては何よりも幸せなのです。

「トリック・オア・トリート!」

仮装をほめられて少してれくさそうにしながら、ユーノくんは元気いっぱいに言いました。
すると、乙羽さんのようすが何だか変です。
ビックリしたような顔をしたあと、はずかしそうにもじもじしながら、テーブルの上に横たわり、メイド服をゆるめ出したではありませんか。

「って、乙羽さん!何してるの!?」
「私も姫宮家におつかえするメイド…いつかこの日が来る事を覚悟はしていました」
「いやいやいや、何の覚悟なのさ!?」
「何もおっしゃらなくてもけっこうです!…乙羽にはすべてわかっております…さぁ、ユーノさまの思うままに、性的なイタズラを…!」

わけがわかりません。
一人で盛り上がっている乙羽さんを前に、ユーノくんもどうしたものかと頭がクラクラしてきたところに、とつぜん、

ゴスゥッ!

という、にぶい音がキッチンにひびきわたりました。

「ぶふぅっ…お、お嬢さま…!?」
「乙羽…あなた、メイドの分際で主人の先をこすとはいい度胸ね…」

音のした方をユーノくんが見ると、いつのまにかやってきていた千歌音さんが、乙羽さんの顔に思いっきりカカト落としをくらわせていました。
…千歌音さん、そんなに足を上げてたら、スカートの中が見えちゃうよ?

「わ、わたしはお嬢さまとユーノさまの2人がかりでもかまいませんよ?いえ、むしろごほうびなぐらいですよ?」
「これ以上ねぼけたことを言ってると、『J親父』さんのところに出向させるわよ…?」
「そ、それだけはご勘弁を!」

『J親父』さんは千歌音さんとユーノくんの遠い親戚です。
色んな発明をしている愛と正義のマッドサイエンティストで、千歌音さんはこの『J親父』さんから、夜元気になれるお薬とかを買っています。
そんな人のところに行かされたら、命がいくつあっても足りません。
乙羽さんはあわててそそくさとキッチンの奥へと引っ込んでしまいました。

「…じゃあ、そろそろ待ち合わせの時間だから、行ってくるね?」

ユーノくんはため息をついてそう言うと、キッチンから出て行こうとしました。

「え、ちょっと待ってユーノ!わたしには?姉さんには「トリック・オア・トリート」って言ってくれないの!?」
「さっき乙羽さんに先をこされたって言ってたよね?同じことされても、ぼく困るだけだよ?」

千歌音さんは弟のユーノくんのことが大好きです。
ユーノくんもお姉さんの千歌音さんが大好きですが、こういうところは困ってしまいます。

「…わかったわ…ユーノが、わたしにイタズラしてくれないなら…!」
「え、イタズラ限定?お菓子をくれるって選択肢は?」
「わたしがユーノにイタズラするわ!当然、性的な意味で!」

ガバァッ!

「ちょ、姉さん、やめっ…あ、そんな…そこ、らめぇぇぇっ…」

千歌音さんが勢い良くユーノくんに覆い被さり、しばらくすると、ユーノくんの悲鳴のような、でもどこか甘えているような声が、キッチンにひびきわたりました。



「…もう待ち合わせの時間なのに、ユーノおそいね…」

ユーノくんたちのお屋敷から少しはなれた、クラナガンの町角。
ネコ娘の仮装をしたフェイトちゃんが、待ち合わせしていたはずのユーノくんがまだ来ないので、心配そうにつぶやきました。
ちなみにほかのお友達のなのはちゃんとはやてちゃんは、手作りのお菓子の準備があるので、少しおそくなるそうです。
特になのはちゃんは、今日こそ大好きなユーノくんにいいとこをアピールしたいので、すごく気合が入っていました。

「今日は、無限書庫の仕事は昼までだって言ってたのにな…」

病院でリアルミイラ男になっている真っ黒執務官のかわりに、フェイトちゃんの付き添いで来ていたソウマさんも、いっしょに悪者と戦った仲間のユーノくんを心配していました。

「イヤな予感がする…今から、むかえに行ってみようか?」

ソウマさんの恋人の姫子さんが言いました。
姫子さんは千歌音さんの親友でもあるので、千歌音さんが弟のユーノくんのことが大好きすぎて、いつも困ったことをしでかしているのを、よく知っています。



千歌音さんが、姫子さんに大きなハンマーでおしおきされたのは、それから30分後の事でした。