SSの練習に書いてみたブツを公開
姫宮千歌音は悩んでいた。
決して自分が弟を超が付くほど溺愛しているブラコンのド変態である事についてではない。
そもそも、それは彼女にとって当然であって必然であり、別に悩む事でもなければ、誰に対して恥じるものでもないのである。
尤も、この事について彼女の親友とその彼氏は、
「少しでもいいから疑問に感じて自重して欲しい」
と、常日頃思っているのだが…
閑話休題
彼女が悩んでいるのは自分の事ではなく、彼女の最愛の弟であるユーノ・スクライアの事である。
次の連休、彼の幼馴染である高町なのは達(ちなみに、全員女性である)が揃って休みを取れる事になり、友達同士で旅行に行く事になったのだが、付き合いの長いユーノにも、そのお誘いが来たのだった。
「私のユーノが女友達と旅行!?しかも、あの、高町なのはとその不快な仲間達と!?しかも、泊りがけ!?」
ユーノが自分も休みが取れれば同行すると返事をした時、千歌音は半狂乱になって取り乱した。
かつてデウス・エクス・マキナによって運命を弄ばれ、親友である来栖川姫子に同性愛的な感情を抱いていた頃、その彼氏である大神ソウマとデートすると聞かされた時、彼女は平静の仮面を取り繕う事が出来た。
しかし、今の彼女にそんな心の余裕があるはずもなく、怒り狂い、泣き喚き、無限書庫の司書達や姫宮邸のメイド達に当り散らした挙句、呼ばれて駆けつけた姫子の100tハンマーによる強烈な一撃を脳天にくらい、漸く沈静化したのだった。
常軌を逸してはいるものの、千歌音が懸念するのも無理も無い面もある。
今やユーノは15歳。就労年齢が早くモラトリアムの存在しないディストピアなミッドチルダと言えど、ヒトの身体構造そのものまでは大きく変わらず、この時期ともなれば性的に色々と意識してしまう、所謂『思春期の青い悩み』というのが問題になってくる。
…ユーノは9歳の時点で、実の姉としての記憶を取り戻した千歌音に襲われ、『初めて』を奪われてしまっているのだが…
「あの小娘、旅行先で開放的な気分になるのをいい事に、私のユーノを誑かして、既成事実を作って『責任』を盾に一生奴隷のように便利屋として飼い殺すつもりに違いないわ!ええ、違いありませんとも!!」
自分の行為は棚を通り過ぎて屋根を突き破って大気圏も突破して宇宙空間まで放り上げ、絶叫と共に復活した千歌音は、待機していた姫子から今度はハリセンによる痛打を顔面にマトモに受け、やっとこさある程度正気に戻り、そして現在に至るのである。
「落ち着きなさい、落ち着くのよ姫宮千歌音。こういう時こそクールになるのよ。そう、Be Kool」
生まれ育った『神無月の巫女』の世界に居た頃は乙橘学園一の才媛として『宮様』と呼ばれ持て囃された、優秀な頭脳をフル回転させて冷静さを取り戻さんとする千歌音。
…その頭脳も、この時点で既に誤作動を起こしまくっている事には全く気付かないまま…
「ユーノは自分も休みが取れれば一緒に行くと言っていたわ。だから、休みが取れなければ…いいえ駄目よ!幾ら私がギリギリのところで留めているとは言え、只でさえユーノは無限書庫で仕事漬けなんだから。この連休は何としても休ませないと…」
ああでもない、こうでもないとブツブツ呟きながら屋敷内をウロウロと歩き回る千歌音。
メイド達には最早見慣れた日常だが(メイド長の如月乙羽に至っては、
「嗚呼、最愛のユーノ様の事で思い悩む千歌音お嬢様も素敵です…」
と、星明子の如く物陰から涙を流して見守っていたりする)、学園時代のおっかけだったイズミ達が見たならどうなっていた事やら。
「………どうせなら、旅行当日から一日遅れた日から休みを取らせれば…律儀なユーノの事だから、一日遅れで合流、なんて事は、なのはさん達に気を遣って言い出さないでしょうし…」
デウス・エクス・マキナを巡る全ての事件が解決した後、『リリカルなのは』の世界に移住しミッドのクラナガン郊外に屋敷を構えた千歌音は、その天才的な頭脳をフルに活用し、三ヶ月でミッドの言語を習得し、半年で無限書庫司書と秘書の資格を取得した。
その後は司書長であるユーノに付き従い、魔法が全く使えない身でありながら、多忙を極める弟を献身的にサポートし続け、時には連続徹夜などの無茶をするユーノを半ば無理矢理休ませるなど、支えるべき時は支え、諌める時は諌め、自然と実質的な無限書庫のNo.2、言わば副司書長とでも言うべき立場に収まっていった。
全ては愛する弟、ユーノの為だけに。
無限書庫には消滅したはずの闇の書の意思も、死んだはずのジェイル・スカリエッティ製戦闘機人も存在しないのだ。
アルフ?ハラオウン家で家事手伝いしてますが何か?
「でも、ユーノも久しぶりの友達との旅行を楽しみにしていたみたいだし…それを潰すのも、心苦しいものがあるわね…」
ユーノ以外の存在は、例え親友の姫子であっても障害となれば平然と排除出来る、残虐超人時代のウォーズマン並みの『氷の精神』も、最愛のユーノの事となると流石に不完全な良心回路が作動するのか、千歌音は歩き回るのを止め、プロフェッサー・ギルの笛に苦しむジローの如く頭を抱えて悩み出す。
『いいじゃないの。可愛い弟をあんなバトルジャンキーの毒牙にかけて、便利な道具にされた挙句、永遠に日陰者の道を歩ませるよりは…』
「だ、誰っ!?」
自分の耳元でそっと囁くような声に、千歌音がハッと振り向くと、そこには自分を二頭身にデフォルメしたような、背中に天使のような羽を生やした巫女装束の少女がフワフワと浮いていた。
『私は絶対天使かおん2式。貴女の心の声よ』
「私の…心の、声?」
つまりこれは幻聴か、などと考える間も与えず、千歌音の心の声を名乗るかおん2式は続ける。
『貴女もデウス・エクス・マキナの中で見たのでしょう?これからユーノの身に起こる事を、高町なのはがあの子にする仕打ちの数々を…それを阻止する為なら…』
「そうね…私だって、ユーノをいつまでもこんな世界に居させるつもりは無いし…」
千歌音の脳裏には、デウス・エクス・マキナ内で見た未来の映像が蘇っていた。
敵の最終兵器の内部図の発見という殊勲ものの功績を挙げたにも関わらず、クロノ達の進言を受けて漸く若干の人員増加という見返りしか与えない管理局。
無限書庫を託児所のように養女を預けていく高町なのは。
暫くは司書の仕事に夢中になっていながら、5年と経たずに興味を格闘技へと移した、忌まわしきなのはとフェイトの『娘』…
『駄目よ。それはユーノの為なんかじゃない。単なる貴女自身の嫉妬よ』
「今度は誰っ!?」
それらが現実のものになる前に、ユーノとなのは達を疎遠にする、その為なら…と、千歌音が結論に達しようとしたその時、今度は反対の耳元で声がした。
振り向くとそこには、やはり自分を二頭身にデフォルメしたような、背中に悪魔のような羽を生やし、乙橘学園とは違う制服に身を包んだ少女が浮かんでいた。
『私は愛宮。貴女の内なる良心よ』
「かおんの次は愛宮…作者、アムネシアンはよく知らないくせに…そもそも、何で良心なのに悪魔みたいな姿してるのよ!?」
『かおんが絶対『天使』だから仕方がなかったのよ…』
メタ発言は程々にしてもらいたいものである。
『貴女の本当の願いは、愛する弟の幸せでしょう?その幸せを、自分の手で壊していいの?』
「それは…やっぱり、駄目よ…あんなに楽しみにしていたのに…」
ユーノを幸せにしたい。
その為には高町なのは達とは遠ざけたい。
しかしそれは、結果的にユーノの幸せを自分の手で潰す事ではないのか。
自分の中の悪なる天使と善なる悪魔との脳内会議は、日が暮れるまで続いた。
…傍から見たら、一人でブツブツ独り言を呟いているだけに見えて、気持ち悪い事この上ないのだが…
「こういう時は、やっぱり水垢離よ!」
とっぷりと日も暮れ、夕陽も沈んで空が真っ暗闇に染まった夜。
千歌音は自分の心の迷いを振り払うべく、『神無月の巫女』2話でも行った水垢離を敢行する事にした。
幸い、ミッドにも地下水はあったので、限りなく旧姫宮邸を再現する際に井戸も掘れたのだ。
「ユーノの旅行を邪魔しようなんて邪な心は、全て洗い清めなければ…!」
他にも洗い清めなければならない邪心は山ほどあるのだが、勿論そんな事に思い至る姫宮千歌音ではない。
並々と桶に汲んだ冷水を、一気に頭から被る。
ザバァァァ―――ッ!!!
「つめたっ!?…ミッドの地下水って、こんなに冷たいの…!?」
『神無月の巫女』の世界の地球の、10月の真夜中の井戸水よりも冷たいミッドの井戸水に、思わず全身をガクガクと震わせる千歌音。
「………いいえ、これぐらいじゃないと!これも、私のユーノへの愛をより強固なものにする為の試練よ!」
…最早寒さで元々おかしかった頭の回転がさらに誤作動しているのか、当初の目的も忘れ、半ば痩せ我慢で一晩中冷水を浴び続ける千歌音であった…
そして、旅行当日。
「う゛~~~~~」
「な、なのは…」
「機嫌直してや…そら、ユーノ君が来られへんかった事は残念やけど…」
空港に揃った高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやてのおなじみ魔法少女三人娘。
しかし、なのはの機嫌は最悪であった。
それは何故か?
「仕方ないよ…千歌音が風邪引いて熱出して、その看病で来られなくなったんだから…」
「あのブラコン女…ユーノ君を行かせたくなくて、わざと風邪を引いたに違いないの…それぐらいの事はやりかねない人なの…」
「幾ら何でもまさか…とは、言い切れへんなぁ…」
はやての脳裏には、「ユーノを自分から奪い、そのユーノを犠牲にして平和と安穏を貪った」として『リリカルなのは』の世界の完全壊滅を目論み、ミッドと海鳴にダークラクシズや大六課をも越える破壊戦力を送り込み、人々に自殺衝動を起こさせるオロチシンドロームを蔓延させた、恐怖のブラコン巨乳巫女の姿がはっきりくっきりと思い起こされた。
ちなみに巨乳を強調しているのはセクハラ狸の趣味である。
「今度会ったら、その時はきっちり白黒つけるの…!」
打倒・姫宮千歌音への闘志を胸に、怪気炎をあげるなのはだった。
…その闘志が、直後に起こった空港火災の中で発揮されたのは言うまでもない…
所変わって、姫宮邸。
「コホコホ…ごめんね、ユーノ…お休み取れたのに、せっかくの旅行、台無しにしちゃって…」
「姉さんが気に病む事じゃないよ。僕が旅行に合わせて休み取れるように、無理してくれてたみたいだし…」
フェイトの言葉通り、千歌音は高熱を出して寝込んでいた。
そのベッドの傍らには、ユーノが付きっ切りで看病をしている。
責任感の強いユーノは、姉が自分の休暇の為に無茶をして体調を崩したと信じて疑っていない。
…本当の原因は、既に述べた通りなのだが…
「それでも、お休みの間中ずっと私の看病する事無いのよ?…乙羽達も居るんだし、後は任せても…」
「………風邪引くと、さ…凄く、心細くなるでしょ?そんな時、たった一人の家族として、一緒に居てあげられないの…やだよ…」
一度は運命に引き裂かれた姉と弟。
この世でたった一人の肉親。
その深い愛情は、千歌音もユーノも変わらない。
…まあ要するに、姉ほど常軌を逸した言動を表に出さないだけで、ユーノもかなりのシスコンだったりする…
「だからさ、そんなに申し訳なさそうな顔しないで。僕に出来る事だったら、何でもしてあげるから」
「ユーノ…ありがとう。本当に、ありがとう…」
弟の純粋な愛情が、只、嬉しくて。
千歌音は、内心申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、この時がずっと続けばいいのに、と思わずにはいられなかった。
全てを台無しにするオマケ
それから、数日後。
「…私達、千歌音ちゃんのお見舞に来たのに、どうして千歌音ちゃんがピンピンしてて妙にお肌もツヤツヤで、ユーノ君が熱出して寝込んでて妙にゲッソリやつれてるのかな…?」
来栖川姫子は、呆れ顔で親友を詰問していた。
ちなみに同行していた恋人の大神ソウマは、現在ユーノの氷嚢を替えてやっている。
「だから、ね?ユーノが、「僕に出来る事だったら、何でもしてあげる」って言うから…その、風邪で寝込んでる時って凄く心細いじゃない?だから、添い寝して欲しいなってお願いしたのよ…」
「………それだけ?」
両手の人差し指を、その豊満な胸の前でツンツンと突き合わせる千歌音に対して、姫子は追及の手を緩めない。
この親友が普段から弟に対して常軌を逸した、一歩間違えば性的虐待で訴えられるほどの異常な愛情を目の当たりにしているだけに、それだけで済むとは到底思えないのだ。
正直、自分でも何故親友を続けているのか、時折疑問に思う。
ちなみにその事を一度フェイトに愚痴ったところ、
「気持ちは分かるよ。私も、なのはに対して同じ事を思った事あるから」
と、思いっきり同意されてしまった。
「………ユーノも15歳になって、体付きも大分逞しくなって…それでも、線の細さというか、華奢なラインは相変わらずで…そんなユーノに抱き付いてたら、あの子も男の子だから身体が男の子らしい反応をして…私も、女として身体の芯が疼いちゃって…我慢出来なかったのよ…」
「いや、そこは我慢しろよ!と言うか自重しろよ!」
ユーノの氷嚢を替え終えたソウマがすかさずツッコミを入れる。
同時に、姫子は盛大な溜息をつくと、
「私、やっと分かった。千歌音ちゃんは天使でも悪魔でもなかった。風邪引いて熱出してるのに、弟をベッドの中に引きずり込んで襲っちゃう、変態のブラコン女だったんだね」
「姫子、それは私にとっては褒め言葉よ!」
原典の台詞を改変したような姫子の言葉にも動じる事無くドヤ顔で返す千歌音に、姫子もソウマも頭の中で何かがプチッと音を立てて切れるのを感じた。
そして、アイコンタクトで頷き合うと、ソウマが千歌音の左腕を掴んだ。
「え、ちょっと、大神君!?」
「いいかげんに…!」
そのまま千歌音を姫子の方へと投げるソウマ!
投げられた千歌音を、ハリセンを構えて勝ち構える姫子!
「しなっさーい!」
スッパァァァ―――ン!!!
「はうぁっ!?」
いい音が姫宮邸に響き渡り、姫子にハリセンで顔面を殴打されて床に沈む千歌音。
この場にはやてが居たら、「ええツッコミや!」とサムズアップしたであろう。
「ユーノ、お前も少しは拒まないとこのままズルズルと爛れた関係続ける事になるぞ?」
姉の惨状にコメントする気力も無いほど弱っているユーノの傍らへと戻ったソウマが、心配そうに語りかける。
「ごめんなさい…でも、僕…嫌じゃないから………姉さんと、そういう事するの…」
熱で意識が朦朧としているせいか、モラルのタガが外れてしまっているのか、衝撃の発言をするユーノ。
その顔が破裂しそうなほどに赤いのは、熱があるせいだけではないだろう。
「駄目だこの姉弟。早く何とか…出来そうにないか…」
「ユーノ君も、すっかりシスコンに染まっちゃったんだね…」
諦め切ったような顔で揃って溜息をつくソウマと姫子。
姫宮邸は今日も平和だった。
出来がアレなのはご勘弁の程を
反省はしている
姫宮千歌音は悩んでいた。
決して自分が弟を超が付くほど溺愛しているブラコンのド変態である事についてではない。
そもそも、それは彼女にとって当然であって必然であり、別に悩む事でもなければ、誰に対して恥じるものでもないのである。
尤も、この事について彼女の親友とその彼氏は、
「少しでもいいから疑問に感じて自重して欲しい」
と、常日頃思っているのだが…
閑話休題
彼女が悩んでいるのは自分の事ではなく、彼女の最愛の弟であるユーノ・スクライアの事である。
次の連休、彼の幼馴染である高町なのは達(ちなみに、全員女性である)が揃って休みを取れる事になり、友達同士で旅行に行く事になったのだが、付き合いの長いユーノにも、そのお誘いが来たのだった。
「私のユーノが女友達と旅行!?しかも、あの、高町なのはとその不快な仲間達と!?しかも、泊りがけ!?」
ユーノが自分も休みが取れれば同行すると返事をした時、千歌音は半狂乱になって取り乱した。
かつてデウス・エクス・マキナによって運命を弄ばれ、親友である来栖川姫子に同性愛的な感情を抱いていた頃、その彼氏である大神ソウマとデートすると聞かされた時、彼女は平静の仮面を取り繕う事が出来た。
しかし、今の彼女にそんな心の余裕があるはずもなく、怒り狂い、泣き喚き、無限書庫の司書達や姫宮邸のメイド達に当り散らした挙句、呼ばれて駆けつけた姫子の100tハンマーによる強烈な一撃を脳天にくらい、漸く沈静化したのだった。
常軌を逸してはいるものの、千歌音が懸念するのも無理も無い面もある。
今やユーノは15歳。就労年齢が早くモラトリアムの存在しないディストピアなミッドチルダと言えど、ヒトの身体構造そのものまでは大きく変わらず、この時期ともなれば性的に色々と意識してしまう、所謂『思春期の青い悩み』というのが問題になってくる。
…ユーノは9歳の時点で、実の姉としての記憶を取り戻した千歌音に襲われ、『初めて』を奪われてしまっているのだが…
「あの小娘、旅行先で開放的な気分になるのをいい事に、私のユーノを誑かして、既成事実を作って『責任』を盾に一生奴隷のように便利屋として飼い殺すつもりに違いないわ!ええ、違いありませんとも!!」
自分の行為は棚を通り過ぎて屋根を突き破って大気圏も突破して宇宙空間まで放り上げ、絶叫と共に復活した千歌音は、待機していた姫子から今度はハリセンによる痛打を顔面にマトモに受け、やっとこさある程度正気に戻り、そして現在に至るのである。
「落ち着きなさい、落ち着くのよ姫宮千歌音。こういう時こそクールになるのよ。そう、Be Kool」
生まれ育った『神無月の巫女』の世界に居た頃は乙橘学園一の才媛として『宮様』と呼ばれ持て囃された、優秀な頭脳をフル回転させて冷静さを取り戻さんとする千歌音。
…その頭脳も、この時点で既に誤作動を起こしまくっている事には全く気付かないまま…
「ユーノは自分も休みが取れれば一緒に行くと言っていたわ。だから、休みが取れなければ…いいえ駄目よ!幾ら私がギリギリのところで留めているとは言え、只でさえユーノは無限書庫で仕事漬けなんだから。この連休は何としても休ませないと…」
ああでもない、こうでもないとブツブツ呟きながら屋敷内をウロウロと歩き回る千歌音。
メイド達には最早見慣れた日常だが(メイド長の如月乙羽に至っては、
「嗚呼、最愛のユーノ様の事で思い悩む千歌音お嬢様も素敵です…」
と、星明子の如く物陰から涙を流して見守っていたりする)、学園時代のおっかけだったイズミ達が見たならどうなっていた事やら。
「………どうせなら、旅行当日から一日遅れた日から休みを取らせれば…律儀なユーノの事だから、一日遅れで合流、なんて事は、なのはさん達に気を遣って言い出さないでしょうし…」
デウス・エクス・マキナを巡る全ての事件が解決した後、『リリカルなのは』の世界に移住しミッドのクラナガン郊外に屋敷を構えた千歌音は、その天才的な頭脳をフルに活用し、三ヶ月でミッドの言語を習得し、半年で無限書庫司書と秘書の資格を取得した。
その後は司書長であるユーノに付き従い、魔法が全く使えない身でありながら、多忙を極める弟を献身的にサポートし続け、時には連続徹夜などの無茶をするユーノを半ば無理矢理休ませるなど、支えるべき時は支え、諌める時は諌め、自然と実質的な無限書庫のNo.2、言わば副司書長とでも言うべき立場に収まっていった。
全ては愛する弟、ユーノの為だけに。
無限書庫には消滅したはずの闇の書の意思も、死んだはずのジェイル・スカリエッティ製戦闘機人も存在しないのだ。
アルフ?ハラオウン家で家事手伝いしてますが何か?
「でも、ユーノも久しぶりの友達との旅行を楽しみにしていたみたいだし…それを潰すのも、心苦しいものがあるわね…」
ユーノ以外の存在は、例え親友の姫子であっても障害となれば平然と排除出来る、残虐超人時代のウォーズマン並みの『氷の精神』も、最愛のユーノの事となると流石に不完全な良心回路が作動するのか、千歌音は歩き回るのを止め、プロフェッサー・ギルの笛に苦しむジローの如く頭を抱えて悩み出す。
『いいじゃないの。可愛い弟をあんなバトルジャンキーの毒牙にかけて、便利な道具にされた挙句、永遠に日陰者の道を歩ませるよりは…』
「だ、誰っ!?」
自分の耳元でそっと囁くような声に、千歌音がハッと振り向くと、そこには自分を二頭身にデフォルメしたような、背中に天使のような羽を生やした巫女装束の少女がフワフワと浮いていた。
『私は絶対天使かおん2式。貴女の心の声よ』
「私の…心の、声?」
つまりこれは幻聴か、などと考える間も与えず、千歌音の心の声を名乗るかおん2式は続ける。
『貴女もデウス・エクス・マキナの中で見たのでしょう?これからユーノの身に起こる事を、高町なのはがあの子にする仕打ちの数々を…それを阻止する為なら…』
「そうね…私だって、ユーノをいつまでもこんな世界に居させるつもりは無いし…」
千歌音の脳裏には、デウス・エクス・マキナ内で見た未来の映像が蘇っていた。
敵の最終兵器の内部図の発見という殊勲ものの功績を挙げたにも関わらず、クロノ達の進言を受けて漸く若干の人員増加という見返りしか与えない管理局。
無限書庫を託児所のように養女を預けていく高町なのは。
暫くは司書の仕事に夢中になっていながら、5年と経たずに興味を格闘技へと移した、忌まわしきなのはとフェイトの『娘』…
『駄目よ。それはユーノの為なんかじゃない。単なる貴女自身の嫉妬よ』
「今度は誰っ!?」
それらが現実のものになる前に、ユーノとなのは達を疎遠にする、その為なら…と、千歌音が結論に達しようとしたその時、今度は反対の耳元で声がした。
振り向くとそこには、やはり自分を二頭身にデフォルメしたような、背中に悪魔のような羽を生やし、乙橘学園とは違う制服に身を包んだ少女が浮かんでいた。
『私は愛宮。貴女の内なる良心よ』
「かおんの次は愛宮…作者、アムネシアンはよく知らないくせに…そもそも、何で良心なのに悪魔みたいな姿してるのよ!?」
『かおんが絶対『天使』だから仕方がなかったのよ…』
メタ発言は程々にしてもらいたいものである。
『貴女の本当の願いは、愛する弟の幸せでしょう?その幸せを、自分の手で壊していいの?』
「それは…やっぱり、駄目よ…あんなに楽しみにしていたのに…」
ユーノを幸せにしたい。
その為には高町なのは達とは遠ざけたい。
しかしそれは、結果的にユーノの幸せを自分の手で潰す事ではないのか。
自分の中の悪なる天使と善なる悪魔との脳内会議は、日が暮れるまで続いた。
…傍から見たら、一人でブツブツ独り言を呟いているだけに見えて、気持ち悪い事この上ないのだが…
「こういう時は、やっぱり水垢離よ!」
とっぷりと日も暮れ、夕陽も沈んで空が真っ暗闇に染まった夜。
千歌音は自分の心の迷いを振り払うべく、『神無月の巫女』2話でも行った水垢離を敢行する事にした。
幸い、ミッドにも地下水はあったので、限りなく旧姫宮邸を再現する際に井戸も掘れたのだ。
「ユーノの旅行を邪魔しようなんて邪な心は、全て洗い清めなければ…!」
他にも洗い清めなければならない邪心は山ほどあるのだが、勿論そんな事に思い至る姫宮千歌音ではない。
並々と桶に汲んだ冷水を、一気に頭から被る。
ザバァァァ―――ッ!!!
「つめたっ!?…ミッドの地下水って、こんなに冷たいの…!?」
『神無月の巫女』の世界の地球の、10月の真夜中の井戸水よりも冷たいミッドの井戸水に、思わず全身をガクガクと震わせる千歌音。
「………いいえ、これぐらいじゃないと!これも、私のユーノへの愛をより強固なものにする為の試練よ!」
…最早寒さで元々おかしかった頭の回転がさらに誤作動しているのか、当初の目的も忘れ、半ば痩せ我慢で一晩中冷水を浴び続ける千歌音であった…
そして、旅行当日。
「う゛~~~~~」
「な、なのは…」
「機嫌直してや…そら、ユーノ君が来られへんかった事は残念やけど…」
空港に揃った高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやてのおなじみ魔法少女三人娘。
しかし、なのはの機嫌は最悪であった。
それは何故か?
「仕方ないよ…千歌音が風邪引いて熱出して、その看病で来られなくなったんだから…」
「あのブラコン女…ユーノ君を行かせたくなくて、わざと風邪を引いたに違いないの…それぐらいの事はやりかねない人なの…」
「幾ら何でもまさか…とは、言い切れへんなぁ…」
はやての脳裏には、「ユーノを自分から奪い、そのユーノを犠牲にして平和と安穏を貪った」として『リリカルなのは』の世界の完全壊滅を目論み、ミッドと海鳴にダークラクシズや大六課をも越える破壊戦力を送り込み、人々に自殺衝動を起こさせるオロチシンドロームを蔓延させた、恐怖のブラコン巨乳巫女の姿がはっきりくっきりと思い起こされた。
ちなみに巨乳を強調しているのはセクハラ狸の趣味である。
「今度会ったら、その時はきっちり白黒つけるの…!」
打倒・姫宮千歌音への闘志を胸に、怪気炎をあげるなのはだった。
…その闘志が、直後に起こった空港火災の中で発揮されたのは言うまでもない…
所変わって、姫宮邸。
「コホコホ…ごめんね、ユーノ…お休み取れたのに、せっかくの旅行、台無しにしちゃって…」
「姉さんが気に病む事じゃないよ。僕が旅行に合わせて休み取れるように、無理してくれてたみたいだし…」
フェイトの言葉通り、千歌音は高熱を出して寝込んでいた。
そのベッドの傍らには、ユーノが付きっ切りで看病をしている。
責任感の強いユーノは、姉が自分の休暇の為に無茶をして体調を崩したと信じて疑っていない。
…本当の原因は、既に述べた通りなのだが…
「それでも、お休みの間中ずっと私の看病する事無いのよ?…乙羽達も居るんだし、後は任せても…」
「………風邪引くと、さ…凄く、心細くなるでしょ?そんな時、たった一人の家族として、一緒に居てあげられないの…やだよ…」
一度は運命に引き裂かれた姉と弟。
この世でたった一人の肉親。
その深い愛情は、千歌音もユーノも変わらない。
…まあ要するに、姉ほど常軌を逸した言動を表に出さないだけで、ユーノもかなりのシスコンだったりする…
「だからさ、そんなに申し訳なさそうな顔しないで。僕に出来る事だったら、何でもしてあげるから」
「ユーノ…ありがとう。本当に、ありがとう…」
弟の純粋な愛情が、只、嬉しくて。
千歌音は、内心申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、この時がずっと続けばいいのに、と思わずにはいられなかった。
全てを台無しにするオマケ
それから、数日後。
「…私達、千歌音ちゃんのお見舞に来たのに、どうして千歌音ちゃんがピンピンしてて妙にお肌もツヤツヤで、ユーノ君が熱出して寝込んでて妙にゲッソリやつれてるのかな…?」
来栖川姫子は、呆れ顔で親友を詰問していた。
ちなみに同行していた恋人の大神ソウマは、現在ユーノの氷嚢を替えてやっている。
「だから、ね?ユーノが、「僕に出来る事だったら、何でもしてあげる」って言うから…その、風邪で寝込んでる時って凄く心細いじゃない?だから、添い寝して欲しいなってお願いしたのよ…」
「………それだけ?」
両手の人差し指を、その豊満な胸の前でツンツンと突き合わせる千歌音に対して、姫子は追及の手を緩めない。
この親友が普段から弟に対して常軌を逸した、一歩間違えば性的虐待で訴えられるほどの異常な愛情を目の当たりにしているだけに、それだけで済むとは到底思えないのだ。
正直、自分でも何故親友を続けているのか、時折疑問に思う。
ちなみにその事を一度フェイトに愚痴ったところ、
「気持ちは分かるよ。私も、なのはに対して同じ事を思った事あるから」
と、思いっきり同意されてしまった。
「………ユーノも15歳になって、体付きも大分逞しくなって…それでも、線の細さというか、華奢なラインは相変わらずで…そんなユーノに抱き付いてたら、あの子も男の子だから身体が男の子らしい反応をして…私も、女として身体の芯が疼いちゃって…我慢出来なかったのよ…」
「いや、そこは我慢しろよ!と言うか自重しろよ!」
ユーノの氷嚢を替え終えたソウマがすかさずツッコミを入れる。
同時に、姫子は盛大な溜息をつくと、
「私、やっと分かった。千歌音ちゃんは天使でも悪魔でもなかった。風邪引いて熱出してるのに、弟をベッドの中に引きずり込んで襲っちゃう、変態のブラコン女だったんだね」
「姫子、それは私にとっては褒め言葉よ!」
原典の台詞を改変したような姫子の言葉にも動じる事無くドヤ顔で返す千歌音に、姫子もソウマも頭の中で何かがプチッと音を立てて切れるのを感じた。
そして、アイコンタクトで頷き合うと、ソウマが千歌音の左腕を掴んだ。
「え、ちょっと、大神君!?」
「いいかげんに…!」
そのまま千歌音を姫子の方へと投げるソウマ!
投げられた千歌音を、ハリセンを構えて勝ち構える姫子!
「しなっさーい!」
スッパァァァ―――ン!!!
「はうぁっ!?」
いい音が姫宮邸に響き渡り、姫子にハリセンで顔面を殴打されて床に沈む千歌音。
この場にはやてが居たら、「ええツッコミや!」とサムズアップしたであろう。
「ユーノ、お前も少しは拒まないとこのままズルズルと爛れた関係続ける事になるぞ?」
姉の惨状にコメントする気力も無いほど弱っているユーノの傍らへと戻ったソウマが、心配そうに語りかける。
「ごめんなさい…でも、僕…嫌じゃないから………姉さんと、そういう事するの…」
熱で意識が朦朧としているせいか、モラルのタガが外れてしまっているのか、衝撃の発言をするユーノ。
その顔が破裂しそうなほどに赤いのは、熱があるせいだけではないだろう。
「駄目だこの姉弟。早く何とか…出来そうにないか…」
「ユーノ君も、すっかりシスコンに染まっちゃったんだね…」
諦め切ったような顔で揃って溜息をつくソウマと姫子。
姫宮邸は今日も平和だった。
出来がアレなのはご勘弁の程を
反省はしている