とある研究所で画期的な鍋が発明された。

材料を入れなくても料理ができる鍋だ。

発明家の総 文是(ソウ ブンゼ)氏は全くの偶然からできた、自身も大変、驚いていると発言している。

「はじめの研究はタイムマシーンについてでした。しかしこれは物体の移動と時間の移動の2種類について学ぶ必要があり、私が生きてるうちに完成に至らないと考えやめました。」

「次は瞬間移動です。これはいいところまで研究が進みました。原子、元素のレベルまで物質を分解、分析し、構成し直すのです。そうすればその個体が持っている全てのものが再構築されるのです」

「生き物でも試しました。大きさに関わらず、身長・体重は1ミクロンの差もなく再現できました。もちろん人間でも。そう、今、皆さんの目の前にいる私の助手。彼は私のために生涯を捧げると誓い、私もまた彼の将来を保証するという我々の信頼関係により…それはおいといて、とにかく成功しました。」

「装置から出てきたとき思わずかけより抱きしめました。その時ちょっとした違和感がありました。彼は何もかも覚えていないのです。なぜ、ここにいて、なぜ、抱きしめられているのか。はたまた自分は何者なのか。」

「そうです。彼の体は問題なく再構築されました。しかし、記憶まではどうにもならなかったのです。機械と同じです。パーツが揃えば本体は完成はする。しかしメモリーはあとから入力しなければならない。」

「子供の脳ならまだしも、大人になってからの『再教育』というのは骨を折りました。」

「彼に知識を与えるかたわら、研究を少しずつ進めていました。しかし記憶というのはかなり特殊で、まず抜き出すところから始めなければいけません。これ以上、人間を使っての実験はできないし、かといって動物では持っている記憶の質も分からない。途方にくれていたところ、たまたま助手の残したメモを見たのです。」

「ありとあらゆる物の原子や元素が書き出され、表になっていたのです。感心しながら眺めていると、カレーという表記を見つけました。そういえば実験にのめり込みすぎてここのところまともな飯を食ってない、なんとなく料理をするような気持ちで『カレー』を再構築できる化学式を入力しました。」

「するとどうでしょう、何やら装置からいい匂いがするじゃないですか!あったんです。扉を開けると、そこにはカレーがありました。そうです。空気中に存在する目に見えない物質をかき集め、構築できたということです。」

「皆さんが複雑な化学式を入力することは必要ありません。助手が残した化学式の表をもとに、ボタン一つで料理が完成するプログラムをあらかじめ入力しておきました。メニューは、まだまだこれからアップデートできます。」




食うに困らない、この商品は飛ぶように売れた。


そしてあらゆる産業が死んだ。

危険を冒してまで漁にでたり、体に鞭打ってまで畑を耕す必要がなくなったのだ。

この鍋が一つあれば食べていける。
お金を稼ぐ必要もなくなり、みな仕事を放棄した。


そのかわり今まで溜め込んでいたいろいろが爆発した。

エンターテインメントやスポーツジム、はたまたドラッグなんかも蔓延した。

トリップしていてもボタン一つで美味いメシ。

ドラッグ用の植物を育てるために世界中に密栽培用の森が増えた。

アマゾン川沿いは大きな組織が陣取っていたり、中国の山奥は中国のマフィアが管理していたり、と大陸はだいたい押さえられていた。
そこで新しく事業を展開するのに目をつけたのは砂漠地帯の多いアフリカ大陸だ。
あの面積の砂漠を森にできれば、勝ちだ!とこぞって密栽培者たちが研究に乗り出した。
砂漠を知り、環境問題に取り組み、数年で砂漠中が森になった。

数年後、世界中が緑に包まれ、やがて新しい生態系の生き物が誕生し進化した。

研究しつくされた大地は天変地異を起こすような災害も起きず、やがてものを話す生き物は弱肉強食の大地で勝つことができずに滅んだのだった。