笠原千尋という女優

今年の始めに撮った『無言歌』の藤沢玲花といい
前作『気持ち玉』の横張芽依といい
本当に今年は素敵な女優さんと作品を作れる幸運に恵まれています。
そして今回
一人の絵描きの女の子の物語
『彩~aja~』という作品で
脚本を書く段階から
“この人に”と決めていた
笠原千尋という女優。
もともとは東日本大震災の被災地や避難所で
慰問の演劇を行う
「モクレン2011 上を向いて咲く花プロジェクト」で
出会った人なんですが
もう最初から彼女の放つ空気感に
胸を熱くしていました。
まだ21歳になったばかりで
映像作品の経験のなかった彼女を誘うのには
勇気もいりましたが
この挑戦に彼女も快く乗ってくれました。
そしてその予感は
想像をはるかに越えた確信となって
今、目の前に在り
間もなく撮影を迎えようとしています。
リハーサルの段階で
すでに完全に役に入り込む彼女を見ていると
すぐにでもカメラを回したくなり
同時に
「この空気を僕はちゃんとカメラに収める事ができるのだろうか」
という凄まじい緊張感さえ感じます。
映像作家として本当に幸せな緊張感です。

劇中で描かれる絵も
彼女本人に「描いてみないか?」と
提案しました。
「昔、描いた事はあるけれど・・・」
もちろん僕も彼女の絵など
見た事もありません。
賭け・・・だったんですけど
妙な確信がありました。
もう彼女が「彩」として放つ空気感を
出せる所全てから出してもらおうと思ったからです
また、うまい絵よりどこにもない絵が
欲しかったという理由もありました。
この提案にも
彼女は積極的に挑戦してくれて
作品はどんどん出来上がってます。
元々僕の作品作りは
リハーサルや前準備を重んじるやり方で
やらせてもらっているのですが
ここまでの経験はいままでした事がありません。
今週は共演者も合流して
更にリハーサルを重ね
来週、いよいよ本番です。
共演者にも恵まれました。
藤原夏姫、猪爪尚紀。
僕の嬉しい緊張感は高まる一方です。

笠原千尋、横張芽依、藤沢玲花。
この三人に共通して言える事は
まだあまりキャリアが無い事。
これには嬉しい反面、少し複雑な気持ちもあります。
日本の役者達をとりまく環境には
キャリアを重ねるごとに
何かを鈍らせてゆくような
落とし穴があるのでしょうか?
この三人が
そんな落とし穴にはまってしまわないよう
心から祈るばかりです。