ロンドン塔の首なし王妃の亡霊

 

 ロンドン塔は、1078年に征服王ウイリアムによって建造されましたが、当時としてはヨーロッパ最大の城でした。それ以後も、拡張工事が続けられ、やがて、広大な敷地に、いくつもの塔や館が建てられていきました。

 この900年以上の歴史を持つ城は、主に王位継承争いで破れた王妃、貴族、反逆者などを閉じ込めたり、処刑が行われる場所として使われてきました。そしてこの場所で、残虐な拷問が繰り返し行われ、首を斧でたたき切るという残酷な処刑が長年続けられてきたのです。

 

 処刑された者の中には、理由もなく一方的に無実な罪を着せられて殺された王妃や王子も多数いたそうです。 ヘンリー8世の5人目の王妃だったキャサリン・ハワードはまだ19才でしたが、不貞の嫌疑をかけられて斬首刑に処せられることになったそうです。処刑の際、キャサリンは恐ろしいほどの馬鹿力で処刑人たちの手を振りほどき、髪を振り乱し金切り声をはり上げて処刑場の中を逃げ回ったそうです。処刑人たちはキャサリンの後をどこまでも追い駆け回し、最後に力づくで首をたたき切ったと言われています。こうした死ぬ直前まで、生に執着したこれらの人たちの怨念は、今もいたるところに取り憑いているといいます。

 

 20世紀になっても、ロンドン塔の警備員が幾度か王妃と思われる亡霊を目撃しています。その亡霊はチューダー王朝時代の古風な衣装をまとい、霧の濃い明け方にあらわれては、石段をゆっくり上っていくというものです。 ある警備兵が、不審に思って近づいたところ、白くて細い手が見えました。ところが、肩から上は、霧に溶け込んで見えません。誰何しようと警備兵がさらに近づいたのでしたが、その時になって、始めて首がないのだとわかりました。その警備兵は恐怖のあまり意識を失ったといいます。 目撃した警備兵の中には、ショックで高熱を出して死んだり、恐怖のために気がふれてしまった者もいたそうです。

 

 この首のない王妃の亡霊は、ヘンリー8世の2番目の王妃アン・ボレインではないかと言われています。 アン・ボレインは、エリザベス1世を生んだ王妃でしたが、王子を望んでいた王には不満だったのです。やがて心移りした王は、彼女に不倫の濡れぎぬを着せ、ロンドン塔に送ったのでした。彼女は半ば一方的に反逆罪の汚名を着せられて、塔の地下室で首を斬られて殺されました。 この世に恨みを残したアン・ボレインの魂が、亡霊となって今なお、霧深いロンドン塔にさまよっているのも当然かもしれません。

 

 ロンドン塔は、チューダー王朝時代の陰惨な歴史を物語る呪われた城かもしれません。決して深夜に一人では近づきたくない場所だといえるでしょう。

 

血塗られたロンドン塔~首なし王妃の亡霊や幽霊の渦巻く恐ろしい城~

 

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