たとえ俺にとって、この世に尊敬すべき男や女は一人もいないとしても、彼らの交渉するこの場所だけは、近附き難い威厳を備えているものの様に見える。
敢えて問題を男と女との関係だけに限るまい。友情とか、肉親の間柄とか、凡そ心と心との間に見事な橋がかかっている時、重要なのはこの橋だけではないだろうか。
この橋をはずして人間の感情とは理智とはすべて架空の胸壁ではないのか。
人がある好きな男とか女とかを実際上持っていない時、自分とはどういう人間かと考えるのは全く意味をなさないことではないのか。
――小林秀雄『Xへの手紙』
敢えて問題を男と女との関係だけに限るまい。友情とか、肉親の間柄とか、凡そ心と心との間に見事な橋がかかっている時、重要なのはこの橋だけではないだろうか。
この橋をはずして人間の感情とは理智とはすべて架空の胸壁ではないのか。
人がある好きな男とか女とかを実際上持っていない時、自分とはどういう人間かと考えるのは全く意味をなさないことではないのか。
――小林秀雄『Xへの手紙』