ドンムアン空港からはフアランポーン(バンコク)駅への移動です。タクシーなら楽だったのかも知れませんが何故か電車移動と決めていました。当然、お金の問題もありましたが
寝不足気味の中、ふらふら歩いて迷いつつもどうにか列車駅のホームにたどり着いて電車を待っていました。
ただ、この時の時間はすでに20時過ぎで結構外は暗いです。初海外で1人ということもあり、なかなかの心細さです。というか、
“何か恐い”
色々な思いがありましたが、この右も左もわからない不便さを体験してみたくて旅に出たのです。初めて海外に出る人はみんなそうだと思う。それが少しずつ経験していくことで、“旅のコツ”がわかってくるのだと思います。
僕の場合も、まずは移動することから。乗り物に乗って移動するためにはどこかでチケットを買う。チケットを買うには会話が必要。自分の生まれた国では意識せずにしていることが、否が応でも意識せずにはいられなくなるのです。そんな体験を無性にしてみたくてタイに来たのでした。
ホームでは電車をいくつか見送りました。別に鉄道マニアだったからではありません。どの電車がフアランポーン駅往きなのかがわからなかったのです。どれでも乗ればいつか着くよ!と言われたらそれまでなのですが、当時の僕は結構、慎重派でした。
ホームを見回して話しかけても“拉致”されないようなおじさんに声を掛けて、チケットを見せ入線してきた列車を指さしながら、“これでOK?”と聞いていました。
立派なタイ語の始まりです
さて、車内に乗り込むと横に長椅子があるタイプの内装でした。僕はそこのど真ん中に座り周りを警戒していました。
日本にいるときは端の席が空いていれば端に座るのですが、僕の乗った号車にはほとんど人が乗っていなかったので、安心していました。
列車が動き出すと、フアランポーン駅に着いてからの移動、初日の宿だけはチャイナタウンに予約していたのですが、それが気になっていました。どうやって行こうか、やっぱりタクシーなのかな?等と考えながら一冊の本を取り出して眺めていました
「旅の指さし会話帳(タイ編)」!!
この本は便利ですね。情報センター出版局のベストセラーです。多分
タイ語にフリガナと日本語とイラスト。これを現地の人に見せれば何とかなるという初海外のハードルを一気に下げてくれる代物です。これさえあれば言葉に対する不安は少なくなり旅の一助になるはずです。
「なになに? アオ・アライ・カァ」
ん? 「いらっしゃいませ」
これは、身ぐるみ剥されて全財産を失い途方に暮れて食いぶちを得る為に働くことになったときに使う言葉でしょう。
多分、この旅の最中に使うことはないな。などと心細さを紛らわせているといつの間にか向かいの席に、50代とおぼしきおばちゃんが私の顔を見ながらにっこりと微笑んでいました
そのおばちゃんは、僕の顔と僕の持つ本を見ながら普通にタイ語らしき言葉で話しかけてきました。
タイ語の勉強を始めて数分の僕にはもちろん、彼女が何を言っているのかわかりません
そのおばちゃん、仮に吉野さんとします。
僕が怪訝そうにしていると、吉野さん、何と隣に座ってきて本を貸せ、貸せという勢いで引っ張ってきます。僕はといえば、ここでこの本を奪われでもしたら生死に関わります。なので、しばらく2人の間で押し問答が続きました。もちろん、言葉は通じていません。
で、結局のところ、僕と吉野さんで本を支える形で貸してみると、しばらくあちこちのページを見た後に、吉野さんがあれこれ指さしながら話し始めました。
彼女が何を言いたかったのか要約すると、どうやら随分前に日本食レストランのような所で働いていたらしく、急に当時が懐かしくなって、日本人らしき僕に話しかけてみたかったようなのです。昔のことを肯定的に懐かしむことの出来る吉野さんは素敵だなと思いました
素敵だったのですが・・・
この吉野さん、やたらと距離が近いのです。
僕の座る横に腰掛け一緒に1冊の本を読む体で体を密着してくるのです
僕の用心深さがそうさせてしまったのでしょうが、見開いた本の右側を彼女が持ち、左側を僕が支えるという構図になってしまっていたのです。
「好きな女の子ともこんなに肩を寄せ合って本を読んだことなんかないのにっ!!」
僕の記憶の中のガンダム、アムロ君が騒ぎ始めたひと時でした。(ご存じの人はアムロ・レイになったつもりで音読してみてください。きっとその懐かしさにニヤけてしまうことでしょう)
この攻防は30分程続いたのですが、その間、即席のタイ語教室と日本語教室のようでもありました。
また、何人かの人たちが僕らの前の座席を移動していったのですが、こちらを一瞥していくそれぞれの人の顔が「この2人はどういう関係なのだろうか」と訝っているようでした。
それはそうです。僕も違和感たっぷりでしたから
この日僕は、正しく、ボディランゲージで会話は何とかなるということと、人の心をその人の顔から読み取る術を少しだけ会得したのでした。
~まだまだ、不定期に続く予定です~