「お先っす!」
「おつかれさん、明日も頼むね」
手早く閉店の作業を済ませ、僕と荒井は店を出て、駐車場のいつものポジションに座り込み煙草をふかす。
夜になっても暑さは治まらず、生暖かい空気が体にまとわり付き、蛙と虫の鳴き声が酷く耳障りに感じる。
浮いた話でもあればそれも心地よく感じるだろうが、今の僕たちには女っ気がなく気持ち悪い空気と鬱陶しい音としか感じることができない。
でも僕は、女っ気がないこの状態は嫌いではなく、寧ろ男たちだけで馬鹿騒ぎするこの状況を楽しんでいし、安らげる場所と思っている。
「で、面白い話ってなによ?荒井」
「まぁ、待ってよ、みんなが来てからで」
微妙な表情を浮かべて、新井は煙草の煙を生暖かい空気の中に漂わせる。
いつもなら、喋りたくて我慢できず、みんなが集まる前に僕に喋ってしまうのだが、今日は焦らしているのではなく、何となく迷っているような感じだ。
バイクの音が近づいてくる。
「シトくんだね」
峰人雅和、至って普通の大学生。見た目も性格も基本的に真面目だが、時にむちゃなチャレンジをする。荒井と同じく博学で色々な部分で独自の拘りを見せる興味深い男だ。
「大ちゃん、荒井、おつかれっす。新しい心霊スポットでも見つけた?」
「ういっす、みんなが集まってからだって」
「なになに、勿体ぶるね。そんな面白い事?」
「さぁ?どうだか」
シト君も座り込み煙草を吸い始め、荒井を眺めながら何やら考え始めた。彼は考えることが異常に好きで色々な事を推理想定する。当たりはずれ関係なしに結果を楽しみ、その結果に至るプロセスをまた考察して楽しむ。
この男にかかれば、世の中すべてのものが考える材料となり、楽しむ素材として扱われる。
そんな彼の推理考察を聞くことも、僕らの楽しみの一つだ。
星空を眺めながら、三人黙って煙草を吸う。
駐車場に1台の車が軽やかに入って来た。
「お、タクちゃん」
丹波卓朗、シト君と同じく大学生で建築屋の息子。兎に角かっこいい男でコンパではすべての女心を釘付けにする。僕らの中で一番常識人であり、これ以上は不味いというところでストップを出せる。やや恥ずかしがりやでシャイなところもあるが、それがまた魅力の一つで女心をくすぐる。
「ういっす、遅くなってごめん。で、今日はなに?」
「全員集まってからだって」
「なにそれ、荒井君」
困った様な照れた様な顔をした荒井はノーコメントを気取っている。
「北さん、遅いね」
考え込んでいたシト君が立ち上がり、辺りを窺う様に駐車場を歩き始める。
僕らの5人目最後のメンバーである北山正樹は、ある意味、被害者である。あまり自己主張をしない彼は若干、気の弱いところもあり、他の4人の勢いに流され、いつもとんでもない状況に巻き込まれる。もし違う仲間と過ごしていたなら平穏な大学生活だったのだろうが、僕らと関わったことを運命と思い諦めているようだ。ちなみにそんな気の弱い彼の下半身(息子)は尋常でない大きさと長さである。何とかボールの主人公の尻尾のように腰に巻いているという噂すらある。
「お、来た来た」
駐車場を歩き回っていたシト君が嬉しそうに叫ぶと原付バイクが駐車場に入って来た。
「遅いよ、北さん」
「ごめん、ごめん、母さんが煩くてさ、で今日はなに?また、変な所に行くの?」
「違うみたい。集合したら話すって。まだみんな聞いてないんだ。さぁ、みんなそろったぞ。話せよ荒井」
僕の催促に同調して、期待と不安の中間的な表情を浮かべ、みんなが荒井を見つめる。
「だね、いやぁ変な話なんだけど、やっぱ止めようかな、訳分かわらんし、まぁいっか」
「おいおい、荒井、見えてこないなぁ、話せよ。何があった?」
好奇心丸出しのシト君が前のめりになって催促し、北さんが脅えるように表情を曇らせる。
「うん、わかった。実はね・・・」
少し真面目な表情に変わった荒井がぽつりぽつりと奇妙な話を語り始めた。