俺は田舎に住んでいるが、
二か月に1回くらいの頻度で上京し、
錦糸町の「ベビーロック」というフォーク酒場で、
楽しませてもらっているのだ。
俺はあまりギターが得意でないから、
主にパーカッションやキーボードで参加しているが、
もう少しギターを修練した上で、
思い切りギターを弾き語りたいもんだ…と思っている。
フォークを弾き語る際の俺の相棒である。
大学時代のバンドでギターを弾いていた友人が、
タダで俺にくれちゃったのだが、
この「マーチンOOO-28」なるギターは、
どんなに親しい相手であろうが、
断じてタダでくれちゃっていいギターではない。
よって俺としてはあくまで友人から預かって、
優しく育てている認識であるが、
数年もすれば俺のギターとして、
結構ぞんざいに扱われているかもしれん。
もちろんジャンクでもバッタもんでもなく、
完全無欠のマーチンであるからして、
ギターは完璧なのだが、問題は弾き手である。
軽のオートマしか運転できないような人間が、
いきなりポルシェをもらっちまったに等しいわけで、
マーチンの魅力を引き出すことなんぞ、
俺の技術では到底不可能である。
だが、さすがにこのギターの佇まいを眺めていると、
グラマーな女が「私を啼かせて…」と、
甘く囁いているような幻想に襲われ、
「いっちょ啼かせたろかい!」という気分になるのである。
で、案の定「下手くそ!」なんて詰られちまうわけ。
いや、マーチンを持っている人間は理解できると思うが、
このギター、本当にギターのフェロモンみたいな、
その気にさせるたまらなく甘い匂いがするんだよ。
やっぱセックスもギターも経験だよな。
言っとくが俺はギターはヘタだがセックスは巧いぞ!
このギターを俺にくれちゃった友人は、
都心のマンションに暮らす社長である。
当然のごとく金持であり、
貧民である俺との収入格差は甚だしい。
まったく同じ大学を出ながらどうしてこうも差があるのか、
人生というやつは本当に趣深いもんだが、
乞食に近いほど貧乏な俺としては、
金持の友人を実に誇らしいと思いこそすれ、
嫉妬心は全く持ち合わせておらんのである。
そもそも俺は難病患者であり、
いつ死ぬか分からん状況の中で、
社会からイチ抜けしちまった人間だから、
たとえ金持であろうが誰であろうが、
人間同士としてごく普通に付き合えるのかもしれん。
いや、友人が成功していることは、
俺の落ちぶれ振りとは無関係に本当に誇らしいと思うし、
彼にはもっともっと成功してもらって、
今後も引き続きギブソンやフェンダーの高価なギターを、
俺にタダでくれちゃってもらいたいと願う。
そう、フェンダーのプレベがいいな。
今度ねだっちゃおうっと!
