- 亡霊は夜歩く<名探偵夢水清志郎事件ノート> (講談社文庫)/はやみね かおる
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本日ご紹介するのは、はやみねかおるさんの「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズより、『亡霊は夜歩く』です
この作品は、『そして五人がいなくなる』
に続くシリーズ第2弾です
「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズは、シリーズ名にもその名が冠せられた夢水清志郎という元大学教授が難事件を解決していく物語です
彼は、名探偵という人種に付随するイメージとは随分異なった性質を持っています
日がな一日猫のようにゴロゴロしながら、ご飯も忘れて本を読んでいます
そして、かなり忘れっぽい性格
これまでいくつもの事件を解決に導いてきたらしいのですが、そのことを忘れてしまっています
生年月日も忘れてしまうほどの健忘ぶりで、お陰で年齢は不明です
どうやら、常識、という概念も忘れてしまっている様子です
それでも彼は紛れもなく名探偵で、とぼけた言動とは裏腹に、事件の本質をズバリと見抜きます
そんな夢水を宥めて賺して叱咤しながらサポートするのは、夢水の隣人である岩崎家の長女・亜衣です
同時に彼女は語り手を務めています
亜衣は虹北学園に通う中学生で、他に真衣と美衣という姉妹がいます
岩崎三姉妹の通う虹北学園には、不気味な伝説が存在します
「時計塔の鐘が鳴ると、人が死ぬ」
長い間壊れて鳴らなくなっていた鐘が、学園祭を前にしたある日、突然鳴り出したのです
さらに、文芸部の備品であるワープロから、亡霊を名乗る人物からの犯行声明ととれるメッセージが発見されます
その上、当たると評判の星占い同好会会長・間直が、その占いで鐘が鳴ることを予言していました
学園に伝わる四つの伝説通りの怪現象が次々と実現していく中、亜衣は夢水に相談を持ちかけます
重い腰をようやく上げたと思ったら、夢水は一度学園を調査しただけで、怪現象のトリックも、動機も解明したといいます
彼は、「あと一つ二つ不思議なことが起こるかもしれないけど、みんなは気にしないでいいからね」といい残し、福引で当てた温泉旅行に出かけてしまいます
さてはて、夢水のいうトリックと動機とは何なのでしょうか
「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズは、どこか江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズを髣髴とさせるところがあります
話の主体が少年少女であること、少年少女たちと行動を共にする名探偵、立ちふさがる謎の怪人、暗号、超常現象のような怪事件、犯行予告などなど…
事件の謎が論理パズルのように解くことができる点も、共通しているように思います
社会派と言われるミステリと比べると、非現実的な物語です
でも、皆さん、ジュブナイルだからと侮ることなかれ
非現実に誘ってくれるこの物語は、一種のファンタジーのようで、意外にもその世界観に没頭できるのです
頭の体操的な謎は、脳を活性化させてくれ、刺激的です
それ以上に、この作品には強いメッセージが籠められています
作者であるはやみねかおるさんの子どもたちに対する想いです
小学校の先生をなさっていたはやみねさんの想いは、間近で子どもたちと接してきた分、具体的で熱いのです
『亡霊は夜歩く』では、校則がテーマです
はやみねさんは作中人物に、校則を一方的に守らせるだけの指導を後悔させています
それはそのまま、そういう学校教育の体質に対する苦言と見ることが出来ると思います
一方で、具にもつかない校則を遵守した上で校則に異議を唱える生徒を登場させます
これは、子どもたちに対して黙って校則を守れといっているのではなくて、闇雲に反抗することからは何も生まれないと教え諭しているように思えます
この二人を描くことで、教師と生徒、両者の対話が大事なのだ、というメッセージを送りたいのではないか、と私は思うのです
私は子どもたちに何か説教するほど立派な人生を歩んできてはいません
しかし、こういうお話を読んで反省し、より良い自分になることはできそうな気がします
だから、このお話を読んだ皆さんも、自分の若いときのことや、今の自分、そして我が子がいたら我が子のこと、いろいろなことを考えてみてほしいな、と思いました
さて、この作品に興味を持った方に、他にもおススメしたい作品があります
米澤穂信さんの「古典部」シリーズです
第1作目の『氷菓』
は、古典部で毎年文化祭の時期に発行してきた文集「氷菓」に隠された謎を解き明かす物語です
第3作目の『クドリャフカの順番』
は、文化祭当日に起きた犯行声明つきの連続盗難事件の犯人を追うお話
それぞれ文化祭が関わっていることや、その他諸々の共通点があります(ネタばれになりかねないので具体的なことは伏せます)
それから、論理パズル的な謎という面では、高田嵩史さんの「千葉千波君」シリーズを推薦します
「千葉千波君」シリーズは、先に論理パズル在りきで物語が構成されています
現在は『試験に出るパズル』 『試験に敗けない密室』 『試験に出ないパズル』 『パズル自由自在』
が文庫で出ています
本選びの参考にしていただけたら幸いです
