夜のピクニック (新潮文庫)/恩田 陸
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 新潮文庫の100冊に選ばれている作品

 第2回本屋大賞受賞作品です

 NHK朝の連ドラでお馴染みの多部未華子ちゃん主演で映画化されていますね

 ど真ん中の青春小説です

 この作品も以前別のブログに感想を書いていたので転載したいと思います



 「夜のピクニック」という軽快で、ちょっぴりファンタジックな題名とは裏腹に、この作品の設定として使われている「歩行祭」とは相当ハードな行事である。

 学生時代、持久力の必要なマラソン大会は見学するか、棄権するかしていた私にとって、このイベントはきっと憂鬱の種にしかならない。

 さらに、この物語の主人公の二人は、異母きょうだいで同級生。学校の友人たちはその事実を誰一人として知らないが、二人は当然知っていて意識し合っている。本妻の子供としては父の浮気相手の子供が疎ましいだろうし、浮気相手の子供としては本妻の子供に対してどこかしら申し訳ない気持ちがあるだろう。ある意味、精神的にもハードな設定である。

 この肉体的にも精神的にもハードな設定から、私は最初読みはじめるのに躊躇を覚えた。青春ドラマのような青臭い話は苦手だし、昼ドラ的展開はもっと遠慮したい。



 しかし、この物語を読んでその第一印象は崩れた。

 読んでいる間強く感じていたのは、この作品には虚飾がない、ということだ。

 大人から見た高校生、あるいは、大人が思い出した高校時代ではなく、高校の時に感じる生の感情、心の動きを描いている。あぁそうだった、と思い出して懐かしく、そして新鮮な気持ちにさせられた。いや、「思い出す」というより「時間が戻る」「タイムスリップする」という感覚だ。登場する高校生と一緒になって、悩んだり、どきどきしたり、もどかしく思ったりした。生々しい感情だが、かえって瑞々しい。

 そういえばそんな風に思った時代もあった。当時の自分は己の不甲斐なさや力のなさ、不器用さに憤っていたものだが、今となってはあのときの自分がちょっとだけ愛おしく思える。なんて純粋だったのか、と。

不思議な心持である。



 読了後、崩壊したこの作品に対するイメージは再構成を遂げる。

 「歩行祭」という言葉が喚起した青臭い、きついといったイメージから、爽やかさ、希望というイメージに変化したのである。

 この作品は「歩行祭」というイベントを通して主人公二人の心の葛藤を描いているのだが、私の中で起こったイメージの変化は、この二人の関係の変容とちょうど重なっているようにも思う。

 二人が物語の最後に見出した希望。

 それが私に言い知れない爽快感をもたらしたのだった。