博士の愛した数式 (新潮文庫)/小川 洋子
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 新潮文庫の100冊にラインナップされている作品

 私はもうだいぶ前に読んでいますが、今読んでもけして色褪せないいい作品です

 観てはいませんが、寺尾聡さんと深津絵里さん主演で映画化されていますね

 きっと泣いちゃうだろうな~

 以前やっていたブログに『博士の愛した数式』の感想を書いていました

 ここに転載したいと思います




 久しぶりだ。読んでるそばから涙が零れてくる本に出会ったのは。

 表題の「博士」は、交通事故で脳に障害を受け、80分間しか記憶を持続させることが出来ない。「博士」は覚えておかなくてはいけない大事なことをメモに書いて、自分の背広にクリップで留めておく。その中には、「僕の記憶は80分しかもたない」というメモも。「博士」は朝目覚めたらまずそれを見て、毎日絶望の淵に落とされているのだ。それにも関わらず、「博士」は自暴自棄になったりしない。淡々と日々を送っている。「博士」と毎日、温かい交流を持つ家政婦の「私」と、その息子「ルート」を友達とも呼べずに…。その姿を想像して(何故か思い浮かぶのはいつも背中だ)、私は心を鷲掴みにされた気持ちになるのだ。

 そんな「博士」をよく理解し、同じ話を何度でも聞き、同じ質問に何度でも答え、自分が話したことを覚えていなくても腹を立てない、「私」と「ルート」の思い遣り。それは「博士」のことを心から尊敬し、好きだからこそだ。しかし驚かされるのは、「ルート」が10歳の子供であることだ。「ルート」は時折、母である「私」よりも深い優しさで「博士」に接する。「博士」から与えられる精一杯の愛情を、彼は精一杯返している。愛情は行き来するものなのだ。決してトップダウンではなく…。そのことを思い知らされると同時に、なんだかいじらしくなった。

 決して可哀想という涙ではない。感動というわけでもない。ただ、胸がきゅんとなる。

 「ルート」が長じて、数学の教師になったことは、「ルート」が「博士」から教わった数学に魅せられたからというより、「博士」から教わったということが「ルート」にとってとてもとても大切な思い出だったからだろうと思った。