聖女の塔 (講談社ノベルス)/篠田 真由美
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 建築史を専攻する博覧強記の在野研究家・桜井京介の活躍するミステリです

 主人公が建築史を専門としているだけあって、採られている題材も古建築に関するものです

 今回は日本に於ける禁教時代のキリスト教建築、隠れ切支丹の残した建築物が題材ですが、いつもの建築探偵シリーズよりは扱いが軽いようです

 どうやら今回の主題はそちらではないようです


 このシリーズには、主人公である桜井京介と、蒼と呼ばれる少年が登場します

 桜井京介は、断片的にしか明らかになっていませんが、何か心の闇を抱えています

 蒼にも凄絶なトラウマが存在します

 京介は蒼が精神を病んでいた子ども時代からずっとそばで見守ってきた保護者のような存在で、お互いがお互いをかけがえなく思っているという関係です


 本作では、桜井京介に対し恨みを抱いている犯人が京介を陥れようと画策します

 そのための餌として狙われたのが蒼です

 大切なものを失う辛さ、助けられなかった悔しさを京介に与えることが目的なのです

 犯人のエゴイスティックな目的のためにたくさんの人が犠牲になり、それだけでも憤りを感じますが、京介と蒼の絆を利用して目的を達しようとする犯人の狡猾さに本当に腹が立つ

 だからこそ、二人の絆が再確認されたときには快哉を叫びたくなりました

 また、蒼を心配する周囲の反応に心が温かくなります


 物語は、京介の物語と蒼の物語が平行して起こります

 まず蒼の物語ですが、蒼が友人である川島実樹から相談を持ちかけられるところから始まります

 友人がCWAというキリスト教系の新興宗教団体に監禁されているらしいので助け出したいというのです

 そこで二人はCWAに話を聞きに行くのですが、友人は修行中なので会わせられないと突っぱねられ、話をするどころか会うことすら儘なりません

 埒が明かないと判断した川島は、CWAに入信した振りをして潜入し、友人に会って連れ戻すという作戦に出ます

 しかし、一向に戻ってこない川島の身を案じた蒼は、川島を救出しようと試みます

 一方京介は、ルームメイト・深春の紹介で、私立探偵の武智と会い、長崎県の孤島・波手島で起きた集団焼死事件の調査の協力要請を受けます

 死亡者の中にかつて京介を恨み、殺人未遂を犯した相原麻美の名がありました

 死亡者が残した遺族への手紙には、宗教的理由による自殺を仄めかす文言があったのですが、事件性を疑う武智の頼みで京介は現地へ赴くことになります

 しかしてそこには悪意の罠が…

 窮地を切り抜けるため、京介の名推理が炸裂します