- 陰陽師(おんみょうじ) (文春文庫)/夢枕 獏
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この作品は何度読んでも趣があります
切なくて哀れ
そんな言葉が似合う話です
主人公である安部晴明が退治するのは“鬼”
異形の者で、人や家畜を生きながら食らう恐怖の存在です
鬼=悪、そんな図式が皆様の心にも刻まれていることと思います
しかし、『陰陽師』というお話の中で語られる“鬼”は凶悪なだけでなく哀れです
“鬼”は生まれながらに“鬼”なのではなく、“鬼”に成らざるを得なかった背景があります
心を持つが故に、悲しみ、憎み、怒り、苦しみ、それが高じて“鬼”へと変じるのです
“鬼”と成り果てるほどの辛さを思うと、やはり切なくてなりません
しかし、そんな想いを抱くのも、背景を思い遣ればこそ
“鬼”たちの心痛を知らなければ、単なる恐怖でしかありません
その恐怖の“鬼”たちの成立過程をきちんと把握した上で呪縛から解放する、それが晴明の仕事振りです
晴明が個々の“鬼”の存在理由を理解してやるからこそ、“鬼”を哀れにも悲しくも思えるのです
“鬼”を外見や所業だけで判断しない晴明は、優しい男です
晴明のお話を読んでいると、フィリップ・マーロウの名言を思い出します
「タフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない」
この作品も、文春文庫の「いい男の35冊」に選ばれている作品ですが、安部晴明は文句なしのいい男だと思います
また、『陰陽師』にはいま一人、いい男が登場します
源博雅という、安部晴明の親友であり相棒です
この人のいい男振りは、また別な機会に書くとします
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