風の歌を聴け (講談社文庫)/村上 春樹
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 こちらの作品は、講談社の100冊にラインナップされていた作品です

 また、『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険(上)(下)』と併せて“青春三部作”という呼ばれ方もします

 数年前に読んでいるのですが、あの頃の自分には少し難しすぎて作品を鑑賞するにはいたりませんでした

 今、改めて作品を読んでみると、淡々とした進行の中に滲む青春の悲哀のようなものを感じます

 一人称で語られるこの作品の主人公である「僕」は、あまり感情を剥き出さないタイプ

 イラついたりしたとしても、他人事のように語られます

 それが世の中や他人に対する関心の低さからくるのか、感情を露にすることを良しとしない美学や信念からくるのかは定かではありませんが、兎に角、大学の夏休みに帰省した18日間のことがただただ静かに描写されていくのです

 その18日間に「僕」の前には二人の人間が現れます

 通称・鼠と呼ばれる男と、4本指の女

 それぞれが何かしら影を感じさせています

 セオリー通りならば、彼らの過去や憂いの理由が明らかになって、主人公が世話を焼き、共に成長する、というビルドゥングスロマンの展開でしょう

 しかし、主人公は積極的な働きかけはしません

 話したいなら話は聞く

 そうでないなら、聞かない

 その上、相手が生き方の根幹に関わるような問いかけをしたとしても、はぐらかすような戯言めいた返事しかしません

 ですから、彼らの苦悩は行き場をなくして彷徨するのみです

 勿論、彼らが答えを欲していたのかはわからない

 そして彼らがどういう納得をしたのかもわからない

 着地点のないまま終わりを告げる18日間は、カタストロフィもなければ、ハッピーエンドでもない

 でも、案外現実の人生だってそんなものですよね

 区切りがついたなんて実感することはそうそうない

 区切りがついたかどうかなんて後になってみないとわからないものかもしれません

 今日は昨日の続きで、これからも続き続ける

 そのなかで自分は日常の中で緩やかに少しずつ変化していく

 そんなことを思った作品でした