QED~ventus~〈鎌倉の闇〉 (講談社文庫)/高田 崇史
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 こちらの作品も講談社の「トラベルミステリーフェア」にラインナップされていたものです

 そう言われて読み返してみると、春の鎌倉のガイドブックといえなくもないです

 主要な鎌倉の観光スポットを網羅するないようですし…

 ただし、その観光スポットは寺社仏閣限定です(苦笑)

 『QED』シリーズ独自の歴史解釈も健在で、鎌倉幕府に対するイメージが随分変わっちゃいました

 鎌倉幕府というより、源氏に対する見方ですかね~

 日本最初の武士政権の長、だったんですよね~

 真相は兎も角、高田説を読んでいると、源氏という一族に切なさを覚えます

 どんな説かをここで語るとネタばれになるので言いませんが…


 そう、源氏についての高田説はネタばれなんです

 つまり、本作品で扱われている事件と、鎌倉幕府に関する考察は密接に絡んでいるわけです

 どうしてそんな何百年も前のことと現在の事件が絡むのさ?と不思議にお思いかと思いますが、その絡みが本作品を他のミステリとは一味違う点だということがいえましょう

 普通のミステリでは、探偵役の登場人物が推理の末に犯人を名指しするのが常道です

 こんな言葉があります

 「名探偵 皆を集めて さてと言い」

 探偵役は、関係者を集めて、犯人、犯行手口、犯行動機などを語って聞かせるのです

 しかし、本作品では、探偵役の桑原崇は、事件現場には訪れず、事件も友人のフリージャーナリストの話を聞いたのみで一切捜査はしません

 安楽椅子探偵もいいとこです

 事件は桑原一行が散策する鎌倉の鋳物業の老舗で起こります

 秘書室で、社長秘書が何者かによって殺害、そして副社長秘書も重傷

 秘書室の奥にある社長室からは、執務中だったはずの社長の姿が忽然と消えていました

 しかし社長が外部へ出た形跡は見つかりません

 そのまま社長は行方不明になります

 果たして犯人は誰か

 社長はどこへ消えたのか

 これが事件の概要です

 この事件で桑原が看破するのは、事件の構造です

 事件の構造を明らかにすることによって、自ずと犯人や動機が絞れてくるという流れになっています

 その事件の構造というのが、鎌倉幕府の構造と似通っているという物語構成です

 物語の大半を占める歴史考証は、全て伏線という壮大な構想

 私が不勉強なだけかもしれませんが、こんなミステリ読んだことないです!

 不思議な浮遊感があるけれど、大変面白い作品です