黒いモスクワ―ST警視庁科学特捜班 (講談社文庫)/今野 敏
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 4月13日より今野敏さん原作のドラマ「ハンチョウ~神南署安積班」が放映されましたね

 次々に著作が刊行され、ドラマ化もしているなんて、今旬な作家さんの一人ですね

 先日ブログ記事を書きました講談社の「トラベルミステリーフェア」にも作品がエントリーしていました

 それが今回ご紹介する『黒いモスクワ ST 警視庁科学特捜班』です

 「ST」シリーズは、1作目、2作目を既にご紹介しています

 本作品は3作目にあたります

 作品の基本設定などは、1作目、2作目のブログ記事を参考にしていただくとして…

 今回、STの班長である百合根警部と法医学担当のメンバー・赤城は、ロシアとの協定事項である警察の情報交換の一環としてロシアへ研修に行くことになります

 時を同じくして、化学担当の黒崎は自らの所属する道場のロシア支部にインストラクターとして招聘され、薬学担当の山吹はモスクワ在住の檀家にお経をあげにいくことに

 図らずしてモスクワにST6人の内4人が集結することになります

 …なにか起こらないはずないシチュエーションですね(笑)

 さて、百合根警部と赤城が受ける研修ですが、ロシア側の担当者の意向により、現在捜査中の教会爆破事件の捜査に加わることになります

 教会の地下室で新興マフィアの首領が爆死したという事件です

 しかし現場には爆発物の痕跡がありません

 早速現場検証に赴いた2人ですが、赤城は早速現場に不思議な点があることに気づきます

 また、捜査を始めた矢先、同じ現場で日本人男性の遺体が見つかります

 事故死との見方を強めるロシア側に対し、検死をした赤城は遺体の頭部の傷から殺人事件であることを主張します

 遂に日本から残りのSTメンバーが招集され、日本警視庁の威信をかけて事件を解決するように檄が飛びます

 モスクワに集まったSTの活躍ぶりが見物です


 さて、前回、前々回と、STがチームとして成長する様が見られましたが、本作品ではSTの班長である百合根警部の成長と能力の開花が描かれています

 最初は個性の強いメンバーに引きずられていた百合根警部ですが、まとめ役・責任者としての資質が前に出てきたように思われます

 海外という孤立無援の状態で、外国の当局と渡り合う強さ

 そして、STメンバーから提出された分析結果や意見をパズルのように組み立て、総合的に判断を下す統率力

 今まであまりに超人的なメンバーの前で存在が霞みがちだった百合根警部ですが、今回の件で責任者としての自覚が生まれ、そのお蔭で眠っていた能力が開花したのではないでしょうか

 そもそもSTという個性は集団の長として存在するだけでも一種の才能だったのかもしれませんね

 才能でなければ人徳でしょうか

 素直で真面目で努力家で、相手を頭ごなしに否定せず、フォロー役までこなすというのは、実は難しいことだと思います

 そういう得がたい資質を備えていた上に、これまでの経験で得た自覚と、何より経験そのものが、百合根警部を魅力的なリーダーの器に変えたように思えました

 今後の活躍に期待!ですね