先だって『四畳半神話大系』が文庫化された

 数ある書評の類には、著者・森見登美彦氏が栄えある日本ファンタジー大賞を受賞した『太陽の塔』の続編的位置づけの作品と評されていたので、何事も秩序を重んじる小生としては、まず『太陽の塔』を読了するのが筋であろうと判じた

 舞台は京都

 古都の雅な趣と、華やかなりし時代の面影を宿した街

 小生はそのように認識していたが、古式ゆかしい街並を闊歩するのは、どことなくアキバ系の雰囲気漂う男子大学生

 このように表現すると本人は憤慨するかも知れぬ

 しかし、自分の恋人の研究を日課とすると豪語する主人公は、小生の目から見れば重度のオタク、あるいは軽いストーカーとしか思えないわけである

 なんにしろ、己の主義主張と、迸る情動とを、屁理屈めいた理論を駆使し、豊富な語彙を尽くして語る様は、常軌を逸している

 違った見方をすれば、意の儘にならぬ我が身とジョニーと世の中との狭間で深い懊悩を抱える青年の姿、と言えなくもない

 恋に悩み(水尾さんという彼女に振られ、水尾さんには別な男が付きまとっている)

 勉学に行き詰まり(京都大学に在籍しながら、研究室とそりが合わず休学中)

 人間関係を憂う(兎に角、おかしな面々がうろうろしている)一人のモラトリアム人間

 このように、序盤から中盤にかけては、この作品がどうして日本ファンタジー大賞を受賞したのか?と悩むほどの青春小説路線で話が展開していく

 物語がファンタジー的要素を見せるのは、中盤、主人公が元カノの心象風景に迷い込んでしまう場面であろう

 叡山鉄道で向かう彼女の心の中には、天才芸術家・岡本太郎氏の太陽の塔がまるで神のような顔でそそり立っている

 小生には、太陽の塔は水尾というファンタジー世界の中ではやはり神と同等の存在で、水尾はその巫女で、主人公は神の前に膝を屈し、自らの負けを覚った男、という図式が見えた

 そこから主人公とその友人たちが忌み嫌うクリスマスイヴに向け、物語は収束に向かう

 真冬ではあるが、真夏の打ち上げ花火のごとき収束

 ひゅっと上がって、パッと散る

 その様はファンタジー的でいて、やはり青春の終焉に足る


 。。。『太陽の塔』の文体を真似て書いてみました

 本当の文章はもっともっとくどいです

 しかし、それが最大の特徴で、くどいんだけど不可思議なテンポを持ち、どんどん運ばれていきます

 青春 一時 ファンタジー

 アキバ系男子の右往左往が痛快に思えてくる不思議なお話です



太陽の塔 (新潮文庫)/森見 登美彦
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