「ねぇゆめ。あんたそれ絶対好きになってるよ。

 ってかさ、ドキっとした時点で好きかも、って思わないわけ?

 いくら男に執着しないゆめでもそれくらいわかるでしょ。

  しかも相手だって二人でお花見、とか言ってるんでしょ、絶対脈アリじゃん。」



しれっとそういう沙耶香に私はただただ「はい、はい」と返事をするしかなかった。

家に帰ってみると着信が一件。『野崎はる』私は一揆に身体の熱が上がっているような、そんな気がした。が明後日だしかけなおしてみた。二回コールでもしもし、と彼が出る。


「あ、はるさん?電話、着信あったから、かけなおしました。なにかあった?」


少しつっかえながらも、彼の声が聴けたことが嬉しかった。


「―――用件ないっていうか、えっと、笑わないで聞いてくれる?」


少し黙ったと思えばなんだかいつもよりも小さな声でそういった、笑わないと告げると彼は


「話、したかっただけですけど。」


最後投げやりな感じだったが確実にそういった。

私と話がしたいって、声になってない声がでた。携帯越しに大丈夫かと聴かれ正気に戻る。どうやら本当に一種の暇つぶしのように特に用件はないらしく世間話のようないつでも話せるような話題を大体一時間くらい話す


。私にはその一時間が十分くらいに感じられた。お互いに明後日、楽しみだねと電話をきる。こんなにもお花見が楽しみだったのは今まで生きてきた中でないだろうと思った。そして私は電話で声を聞いた時に確信した。


「私、はるさんにちょっと惹かれてるんだ」


そう確かに声に出していってみる、きっと今の私の顔は頬が赤くなっているんだろう

余計に恥ずかしくなりまだ九時という二十歳が眠るのには早いと思われる時間だったが毛布を被った。次の日も普通どおりの一日を過ごし当日がやってきた。

(何着よう、化粧しなきゃ、靴どれはくの?鞄忘れものないよね?)

朝から準備すらまともに手が進まず自分が緊張していることに嫌でも気がつく


なんとか準備を終え待ち合わせ場所である新宿御苑入り口に来た。桜を見に来る人が多い。だが何より満開になった桜が綺麗で周りの景色がもう目に入らない。


桜だけを見ていると時間が止まった気がして、何も聞こえない。

周りの人の声も屋台からする呼び寄せ声も。桜だけが綺麗に咲いて散っていく。


「ゆめさん」


その一言で前を向く、彼がそこには立っていた。


「桜、綺麗だね。今日にして良かった、晴れてるし暖かいしちょっと人は多いけど。」


桜を背景に彼を見るとやっぱり彼は桜が似合うな、と思ってしまう。

「じゃあいこうか」

と軽く私の手を彼が引いた。初めて彼の手に触れた、今まで以上に鼓動は高鳴る。


御苑内は広く、中を一周するだけでも時間がかかる。綺麗な桃色の花びらがひらひらと次へ次へと落ちてくる。


「綺麗…。」


そう呟くと彼が綺麗な笑顔を作ってそうだね、と相槌を打つ。

ゆっくりとゆっくりと時間が流れていた、二人の時間がこのまま止まってしまえば良いと私は思った。


お腹も空いてきたしなにか食べようということになり屋台でお団子をかった。

意外にもお団子が食べたい、といったのは彼だった。

近くのベンチに腰をかけ二人で話しをしながら食べる。

歩きながら見る桜も風情があって美しかったが止まって見る桜もとても美しかった。私の肩に彼の頭が寄りかかる。突然の出来事に声も出なかった。


「ごめん、どうしてかは分からないんだけど。寄りかからせて欲しいんだ、もう少しだけ。」


私は無言で頷くしかなかった。彼が隣で私に寄りかかって目を閉じていた。

桜がひらひら散っていくのが綺麗だったね、あの時私はこのまま時が止まってしまえばいいと思った。桜の中二人で一緒にいられればそれで十分だって思った。こんな日が続けばいいってただそれだけを望んでた。

御苑内を散策し外へでる。そのまま私たちは夕食をとりに行った。

夕食もとり終わり二人で駅に向った。


駅についたはいいものの私は帰る、という気にはなれなかった。



「―――ねぇ、ゆめさん。桜は、どんな思いで散っていくんだろうね。

   折角寒い時期を乗り越えてつぼみを開いて綺麗な花を咲かせて。

     満開になってと思うと散っていく。どんな、思いかな。」



違う、私に問いかけているのではない。


自分自身に自問じているような気がする。

そして自分のことのように話しているような気もして私は何もいえなかった。

言ってはいけないような、気がした。そのあとくすっと笑って彼は違う話題にした。



四月何時あいてるとか、何時から見ようとか。

これじゃあただのデートじゃない、そう思うと鼓動が早くなってしまった。一通り話し終わって彼はこれからどうするか聴いてきた。時刻はまだ四時半。私は思い切って自分の欲を彼に伝える。



「あ、もしね。大丈夫なら、もう少しはるさんのこと知りたいなーって…駄目、かな?」



上手く言葉が出ず詰まりながら彼にお願いした。


「うん、俺もゆめさんのこと、知りたいなって思っていたから丁度いいね。じゃあ交互に自分のこと話すっていうのはどうかな?じゃあ最初は家族構成とか。」


彼は自分の家族について話し始める。彼には歳の少し離れたお姉さんがいるらしい。あとはお父さんとお母さん。だから四人家族、といっていた。私は一人っ子だから三人家族。彼は「一人っ子に見えないね、しっかりしてそう。」と言ってくれた。

一人っ子の上に従姉妹もいなく小さな頃から大人の中で育てられてきたから妙に大人っ気があるらしい。そうお母さんにも言われた。


その後も小さい頃の話とかお互いの大学の話とか色んな話をした。


最後に話始めたのは不思議な話題だった。『来世って信じる?』先に答えるのは私だった。


「私は信じてる、前世があって、今があって。そして来世がある。夢物語になっちゃうんだけど、いつか本当に心から好きな人が出来て、その人と来世でも結ばれたら素敵だと思う。あと、何か事情があって一緒になれなかった人が次の世で一緒になれるとか。だから私、来世とか前世とか、生まれ変わりって信じてるかなぁ。本当、笑っちゃうよね。」



どんな夢見物語だ私。

馬鹿じゃないの、そんな来世で一緒に、だなんて有り得ないじゃない、

話し終わってから自分の言ったことが恥ずかしいと思った。

彼が笑っているものだと思い彼の顔が見られなかった。彼は一息置いて話し始める。


「そっか、うん。すごくすごく似たようなこと俺も思っているよ。来世って絶対あると思う。」


そういった彼は目に暗い影を落としていた気がした。

その気を確かめられずお開きとなった。次、何時来るかわからない着信を私は待つ。もしかしたらお花見当日まで電話すらしてくれないかもしれない。それでも私にはただただ待つしか出来なかった。


時間は刻々と過ぎていく。講義にバイト、どれをとっても頭の隅に彼がいて集中できない。バイト先の先輩には休めば、とも言われてしまう始末だ。


「はぁ、しっかりしろゆめ。」


お花見の三日前ベッドの上で枕を抱きしめそんなことをつぶやく。

着信がなるたびに彼かと思ってしまう。


「気分転換に、雑誌でも読むか。」


大学の帰りに買った雑誌を読むことにする。

流行の服をぱらぱらと見てそのあと占いをみる。大抵の読者がそんなものだろう。占い、この雑誌は誕生月占いだった。私は蠍座。順位は十二位中なんと十二位。


滅多にないでしょ、と心の中で愚痴をこぼした。(いやでも、肝心なのは中身だよね。)


そう思い占いの内容に目を通す。目に留まったのは全体運、そして恋愛運。



全体…運気は全体的に良くない。今月はよく迷う月であり、自分に迫られた選択を選び間違えると取り返しのつかないことになるかもしれない。自分がそう信じたら突き進むべし。


恋愛…今までの経験には無いことが起きる可能性大。初めて異性に惹かれる、なんてことも。また運命的な一生の出会いをする可能性もアリ。



(運命的な出会いをする、可能性…)はっと彼の、はるさんの姿が思い浮かんでしまった。

(もしかしたら私、彼のこと好きになりかけてる?好き?好きって、何?ん?分からない、沙耶香、沙耶香に相談するしかない。)


次の日、講義のあと私は半ば強引に沙耶香を喫茶店へ連れ込む。そして私は沙耶香に全てを話した。


次の日、大学で私はいつものように講義を受けた。

沙耶香が用事があるらしく一緒に帰れないとのことだったから私は大学の近くの喫茶店によった。

お気に入りの喫茶店だ、ここの珈琲は何処の珈琲よりも美味しい。この珈琲を飲みながら本を小一時間よんで店を出た。もう二月も下旬だというのに夜は冷える。

時刻は七時。帰ろうと駅へと歩き出す。家に着くとやはり彼のことが頭に浮かんだ。

彼から着信も無く、自分から彼の携帯を鳴らすことも無く一週間が過ぎ月日は三月へ差し掛かっていた。あの日、彼と連絡先を交換してから一週間と二日、休日家のベッドの上でごろごろと雑誌を呼んでいるときに不意に携帯が鳴った。


「野崎はる」


そう表示されていた。おそるおそる通話ボタンをおしみみにあてがう。

先に声を発したのは彼だった。


「こんにちは、元気だった?」


何お母さんみたいなこと言ってるんだろうと笑いながら、なんか親みたいだね、と返すと焦っているような声がした。


「そうそう、用件なんだけど。もう三月でしょ?

 来月の頭に、新宿御苑にお花見いかない?みんなといっても面白くないから

 ゆめさんと行きたいんだけど。」


そういわれて、おもわずドキッとしてしまった。はるさんが、私と二人で?頭の中はもうグチャグチャだったと思う。取り敢えず、行きたい、とだけ返事をする。


「良かった。それで、その前にほら逢って話したいよね。明日とか、時間ある?」


明日は講義が入っていたが、私は何故か暇だと答えてしまった。彼は「じゃあ明日、新宿駅前に2時で」とだけ言って電話を切ってしまった。


私の頭には明日の新宿のことと、お花見のことしか頭になくなった。何を着ていくかとか何時に起きるだで私の頭はフルに動いていた。そして次の日早すぎる時間に起き薄く上品な程度に化粧をし淡いライムグリーンの服を着る。そして一時半にし新宿駅についた。

待ち合わせは東口のアルタ前。周りにはデートの待ち合わせをするカップルやスーツ姿で煙草をすっている人などがたくさんいる。その中にひっそりと私もいた。


一時四十五分ごろ彼が私に声を欠けてくれた。早いね、と言われてなんとも答えられなかった。が、長い沈黙にならないように彼が綺麗な微笑みを浮かべながら話かけてくれた。私達はまずアルタから程近いところにある喫茶店に入った。向いの席に座る。



「ねぇ、はるさん。桜が似合うと思う。」



席に座ってから一発目に私から出た言葉がこれだ。

彼は切れ長で大きな目を瞬きさせて驚いたような顔をしている。私自身何故こんな突拍子も無いことを言ったのかわからなかった。無邪気な笑顔で彼はしばらく笑っていた。


「ゆめさんはやっぱり面白い、ありがとう。でも何処が似てるって思ったの?」



笑いながらそうきかれて、この人になら正直に答えても変な子だって思われないかなと思い思うこと全て私の口は話し出した。



「はるさん、そこか儚くて。あ、別に私ロマンチストじゃあないの。

 だけどなんか、なんていうの。はるさんって桜みたいに儚く綺麗で、

 縁起でもないかもしれないけれど、直ぐ散ってしまう気がして。」



ところどころ、噛みながらしっかり伝わるように彼に伝える。

散ってしまいそうな、いなくなってしまいそうなそんな気がして、いつもこんな馬鹿げた話をすると笑ってくれる彼が今回ばかりは複雑な顔をしていた。


そこには綺麗な微笑みも、私を怪訝するような表情もなにもなくただただ考え事をしているようにも見えた。しばらく沈黙が続く。


彼は刹那悲しそうな、いや、寂しそうな顔をしてから口を開く。



「あ、あのっ」



頭で考える間に言葉が先に出ていた。

あの、といってみたはいいものの特になにか用件があったわけではない。

不思議そうに彼が私を見ていた。彼はくすっと笑って、


「君、面白いね。ゆめさんだっけ。俺のこと、はる。その方が馴染みやすいでしょ?あと敬語もなし、同じ年なんだし遠慮はしないで、多分六人もいる女の子の中でなんていうの?波長みたいな。それがあうのゆめさんだ毛だと思うよ、他の子、とっても普通の子でしょ?ゆめさん不思議な人だから。」


あぁ、また不思議ときたか。

私はいつだって変わり者扱いだ、

無意識に傷ついた顔でもしたのだろうか彼は焦ったように違う違う。といった。


「俺が言っているのはね、不思議って分かりにくいっていうか、知りたくなるって言うか。そんな意味」


よくわからないでいると、また微笑んでまるで大学の教授のように話始めた


「普通の子って、分かりやすいよね。綺麗な景色をみて綺麗だっていったり。美味しい物を食べて美味しい。っていったり、でもさそれじゃあつまらないと思うんだ。ゆめさん、これをみてどう思う?」


そういって彼は携帯から一枚の画像を見せてくれた。夜の月に照らされた桜だった。

綺麗だけどそこか寂しそうでどこか儚いような気がした。わたしは


「寂しい」


と答えた。なんで寂しいと答えたのかは分からない。でもそう思った。そしたら一瞬驚いたようなでも何処か嬉しそうな顔をして彼はさっきより深い笑みを見せた。


「ほら、不思議。桜を見て寂しい、って不思議。でもね俺も最初、寂しいって思ったんだ。ね、もっと不思議でしょ?」


疑問系で投げかけてはいるものの不思議だ、と私も思っていることを前提に話していた。

彼は合コンの席なんかより全然楽しそうで、無邪気にわらっていた。綺麗な人なのに可愛いところもあるのか、と私は妙に緊張してしまった。


そのあとも私達は中には戻らず結局お開きになるまで外で話し込んでしまった。連絡先を交換するさい彼の考案で番号だけを交換した。なんでもメールは好きじゃないらしい。

用があるなら電話で直接言えばいいじゃない、と言っていた。家に帰る途中沙耶香に何度も謝られた、が別にいいわよといった。このとき私の頭の中は彼でいっぱいだった。

家に帰り寝る準備を済ませ次の日の準備をしベッドに入る。ベッドに入ってもなお彼のことが頭から離れない。あんなに綺麗で不思議で儚げに笑う人は初めてだった。

なにより、桜の画像を見せられた時彼と桜が重なって見えた。それは何故だかは分からないが桜がよく似合う気がした。


この夜から切なくて悲しくて儚い物語りは幕を開けた。

私は今も空を見ています。

あなたが大好きだった空です。


あなたが、行ってしまった空です。

今でもあなたの夢を見ます。


日本女子大学二年、私はいつものように講義が終わった教室で一緒にかえる沙耶香を待っていた。

沙耶香とは高校で同じクラスで偶然大学も同じになり地元が近いという理由でお互い用事がないと一緒

に帰ったり喫茶店に寄って話をしたりしていた。


「ゆめ、待った?」


ううん、待ってない。と返事をし席を立つ。

同じ大学だといっても学部学科が違ければ終わる時間も勿論違うし、講義を受ける場所だって違う。

私は日本史が好きだったし、そういう勉強がしたかったから文学部だし、沙耶香は取り敢えず入れる学部に入ったとか言う理由で別々。それにお互い多少の遅れは気にしない性分だ。私が、帰ろうか。と切り出そうと思ったとき沙耶香が申し訳なさそうな顔で手を合わせて私に何か言いたげな顔をしている。なんだろうと思っていると言いにくそうに口を開いた。


「あ、あのさ。ゆめ、今日合コンなんだけど急に一人減っちゃってさー。ゆめ可愛いしさー、ね?」


これか、申し訳なさそうな理由は、私は元からそこまで男というものに興味はないし合コンとかその手のものは苦手。それに私は男子ウケしそうな性分じゃあない。

よく『不思議だね』とか『ゆめみたいな性格の子初めてあった』とか。変わり者扱いされてきたし、それなら私がいったって邪魔なだけでしょうが。

だが沙耶香はしぶとく「お願い」を言い続けた。

いい加減諦めた私は仕方なく合コンの参加を受けた。場所は思っていたよりも静かで綺麗めなレストランカフェなはずだが、沙耶香の親戚がやっているらしく騒いでも起られない為声のトーンに遠慮はない。前に座っている男子は六人。私達も、六人。幹事らしき人が自己紹介をし始め流れで全員自己紹介をする。男子と女子交互におこない私は最後から二番目だった。


「えっと、今年二十歳です。折野ゆめです、趣味はー、うーん。空を見ること?とか好きです。あとは日本史について勉強したりとか、、」


勉強のことをいいだすと、沙耶香が「はいはい固いのはなしね。」と遮った。

本当のことを言っただけなのに、男子たちは可愛い、だとか。頭いいの?とか言う。。こういう弄る口調が嫌いだ、こっちは大真面目に空を見るのも歴史を勉強するのも好きなだけだし。やっぱり来なければよかったかな、と後悔しつつあると私の前に座った色が白く、格好良いというよりは綺麗な男子が口を開いた。


「野崎はる、同じく二十歳です。俺も空見たり散歩したりするのが好きです。」


落ち着いた雰囲気で同い年とは思えない。綺麗な顔で微笑みかけられて思わず鼓動が高鳴る。

そのあともわいわい盛り上がるようなゲームや何かについて楽しそうに話をするけれど私はあまり興味が無いので外の空気を吸ってくるといって外へ出た。

店の待合席のような椅子に腰掛ける。無意識に、溜息がこぼれる。

友達の誘いだからって来なければ良かったが誘いを中々断ることが出来ない。私が外へ出て5分たったかたたないかのとき、内側からドアが押された。野崎、はる。

そう名乗っていた綺麗な顔の男子。視線と視線がぶつかり「あっ」と声を洩らしてしまった。


「俺も、ああいった場は苦手で出てきちゃった。」


そういって子供のように微笑むと綺麗さが増す。

見惚れてなにもいえなくなる。「どうかした?」と聴かれて正気に戻った。私の隣に彼は座っていた。なんでも彼も数合わせに呼ばれたらしい。困ったように笑いながらどうして合コンなんかに来なければいけなくなったのかを話してくれた。何でもしばらく大学は休んでいたらしい。久々にきて友人に騒ごうと誘われ断りきれなかったそう。どっかの誰かさんと同じじゃない、私も彼に合コンなんかに参加した理由を話す。彼は


「さっきから、似た者同士だね」


といって笑う。やっぱりその笑みは綺麗だった。