レディ・アレクサンドラ・トルマーシュことトルマーシュ男爵夫人にあるご縁があってランチに招待されて、トルマーシュ家が代々住んできた「ヘルミンガム・ホール」へ。
(ロンドンから車で3〜3.5時間ほどで、ケンブリッジからは車で1時間程度位置)


イギリス貴族は、不思議なあだ名を持っていて、貴族間ではそのあだ名で呼び合う。

トルマーシュ男爵夫人のあだ名は、Xa (ザア)なので自らのことをザア・トルマーシュと呼ぶ。


ザア・トルマーシュは、ガーデニング界では超有名人で、チェルシー・フラワーショーではゴールド・メダリスト、自身の邸宅「ヘルミンガム・ホール」も2017年に「ガーデン・オブ・ザ・イヤー」を受賞。

そんな彼女のガーデンを彼女自身が案内してくれるということでとても楽しみにしていた。

ヘルミンガム・ホールの歴史は、1480年に遡り、現在の建物は1510年に建設された。外観は、1745年から1760年そして、1800年にはあの名建築家「ジョン・ナッシュ」が改築を手掛けた。

ジョン・ナッシュは、イギリスの建築史でも重要な人物の一人で、マーブルアーチ、バッキンガム宮殿、リージェントストリートやブライトンのロイヤルパビリオンなどを設計した。

そんなヘルミンガム・ホールは、ガーデンは一般公開されているが、内部は非公開。
内部の写真は、今回トルマーシュ家の要望で写真をアップできないのが残念だが、ご想像通りチューダー調から18世紀、19世紀と様々な様式が取り入れられた素敵な貴族の館らしいインテリアだった。


イギリスでは、お濠のある貴族の館、マナーハウスは珍しく、ヘルミンガム・ホールはその数少ないマナーハウスの一つで、何とも素晴らしい景観が広がっている。

このお屋敷は、ナショナル・ヘリテージ・リストのグレード1に指定されている。要はヘルミンガム・ホールは国宝クラスであり、イギリスではそういった邸宅や城は個人所有のものも多く、ヘルミンガム・ホールもその一例である。


ヘルミンガム・ホールはお濠に囲まれている為、もちろん橋が架かっており、2つある。
こちらの橋は、旧サーバンツ・クオーターつまり使用人のエリアにアクセスする為の橋。

現在トルマーシュ男爵夫妻は別宅に住居を移しており、子息のエドワードさん夫妻がこの邸宅に住んでいるのだが、このサーバンツクオーターに住んでいる。

エドワードさんの奥様は一般家庭(といってもお金持ち想定)出身なのでこの屋敷での生活は信じられないことが沢山あったという。ランチ中に色々お話しを聞いた。何故サーバンツクオーターに住んでいるのかも含めて後で話すこととしよう。


似た景色だが、こちらの橋が男爵家の人々やお客様が利用する橋。


内側から望む景色。
メインエントランスがあるコートヤードから門に続く一本道。

アーチの外側に橋が架かっており、屋敷が建てられた頃から現在に至るまで毎晩、この橋は上げられているそう。昔はもちろん手動だったわけだが、現在はボタン一つで上がる仕組み。

家のツアーは、時期トルマーシュ男爵であるご子息にしてもらった。

エリザベス女王肖像画、トルマーシュ家代々の人々の肖像画はじめ、チャールズ1世、オリヴァー・クロムウェル等のアート、美しいアンティーク家具の数々。まるで美術館に住んでいるようだ。

ツアーが終わった後は、トルマーシュ家の人々とランチ。

未だに燕尾服を着た執事やスタッフの方々が、昔ながらの貴族の食卓のスタイルでサーブしてくれる。

例えば、英国ドラマ「ダウントン・アビー」でもご覧になった方もいらっしゃるかと思うが、貴族の食卓では、レストランのように盛り付けられたディッシュが一人一人出てくるわけではない。

サーバーは例えば、今回サーブされたローストビーフならば、まずローストビーフだけがのった銀の大皿を片手で持ってテーブルに座っている家主と客人の右に立ち、一人ずつ好きなだけ自分が食べたい量をとっていく。

ローストビーフに続き、野菜、サラダ、ポテト、ソースと続いていく。


こちらが自分で取り分けたプレート。
ビーフはテンダーで、野菜も全て新鮮で美味しかった。

このお皿にのっている野菜やハーブは全てオーガニックでトルマーシュ男爵夫人がキッチンガーデンで育てたもの。

食事をしながら、エドワードさんの奥様と話が盛り上がる。

ヘルミンガム・ホールへ嫁いで、仕事を辞めたけど、この家に住むこと自体が「フルタイムの仕事」だという。

まずこの国宝クラスの屋敷の管理は並大抵のことではない。常に気を使って、修繕したりしなければならない(もちろん彼女が修繕するわけではないが)。ガーデンは一般公開されているので色々なプラン等を考えなければならない。
使用人もガーデナーも雇っているのでそれら人たちのことも考えなければならない。
ここに住むだけで様々な管理をしていかなければならない。それを考えれば、男爵夫妻がリタイアという意味で小さな家に引っ越し、事実上子息であり、時期男爵にこの屋敷引き渡したのも理解ができる。

そんなエドワード夫人が驚きのエピソードを楽しく話してくれた。この家にきてビックリしたこととは、


1) 男爵夫妻は、20名は座れるであろうダイニングテーブルの端と端に座って食事をしていた。

一般人にしてみれば、ある種のコントである。

しかしながら、これが数百年トルマーシュ家で続いていれば普通の話である。

エドワード夫人は、小さなダイニングルームを作って丸テーブルで家族団らんで食事をすることを提案。今ではそうやって家族で食事をするようになったという。


2) 価値のある絵画や家具の保存状態をよくする為、多くの部屋にヒーターがない

激寒らしい。冬はジャケットの上から、毛皮を着ないと寒くて過ごせないという。
もうジョークの域。

けれども所有者として文化遺産は守っていかなければならないという。自分の家なのに自由にできないという不自由。

その為、エドワードさんと奥様のアイデアでサーバンツクオーターをモダンなエリアにして住むことを考え出したという。男爵家が数百年もの間住んできたエリアは価値がありすぎて、改装等は不可だが、サーバンツクオーターは比較的自由に改装したり、ヒーターを入れたりと普通の生活ができる。

彼らのリビングは、昔のキッチンを改装。その辺りの2階の部屋を夫妻の寝室、子供たちのベッドルームとしてモダンに改装。
普通に住めるようになったという。

ランチの後は、テラスでティータイム。
男爵夫人がティータイムに参加し、ここからガーデンツアースタート!


建物をでて、メインの橋を渡って右に出ると
パーテーレガーデンがある。

このガーデンも昔からあるものではなく、ザア・トルマーシュがデザインしたもの。
彼女曰くこの景色がちょうど、お客様のお部屋から見える景色だから素晴らしいガーデンにしたいと思ったという。


こちらが反対側のパーテーレ。
イングリッシュガーデンというよりは幾何学的。


そのパーテーレガーデンの先には、イングリッシュガーデンが広がる。屋敷がどう見えるかもきちんと考えられていて本当に素敵だ。

季節ごとのお花が植えられていて、いつきても何かしらのお花が咲いているという。


お花や、植物のアーチがあってどこにいてもフォトジェニック。


ガーデン・オブ・ザ・イヤーのプレート。
アンティークな良い感じのジョーロが置いてあって可愛らしい。


このイングリッシュガーデンは、壁に囲まれていて、入り口が何箇所かある。
素敵な感じに蔦が壁にあって好きな感じ。


イングリッシュガーデンの壁の外にもお堀がある。水に映るヘルミンガムホールもまたいい。


イングリッシュガーデンはよくボーボー系とも言われるけど、それが田舎のような情景を彷彿とさせ、素敵なのだと思う。

草がボーボー生えているにもかかわらず、
木はしっかりとトリミングされていて、かつ芝生のエリアには雑草が見当たらない。

この橋渡って一本道でパーテーレまで行けるのもしっかりと計算されている。


こちらはそのイングリッシュガーデンの反対側。サーバンツクオーターに行く橋のある側。

ザアさん曰く、このエリアには何もなかったという。驚いたのが、その当時交友のあった「ローズマリー・ヴェレイ」にアドバイスを貰ったという。

ローズマリー・ヴェレイは、世界でも有名なガーデナーだった。ニューヨークのボタニカルガーデンをはじめ、チャールズ皇太子やエルトン・ジョンの邸宅の庭も手掛けている。

彼女のコッツウォルズのマナーハウス「バーンズリー・ハウス」にはお気に入りで何度も訪れていたのでちょっとこの話は感動だった。

バーンズリーハウスは、ローズマリー・ヴェレイが亡くなってから、ホテルとなっているが彼女のデザインしたガーデンはいまでも残っている。



ガーデンからみた景色。
ラベンダーとちょっとしたパーテーレにボーボー系の雑草があるというなんとも素敵な空間。
お堀だけれど、川岸に雑草が生えているというような情景を連想させる。

ヘルミンガム・ホールは、まぎれもない貴族の館。ザアさんの思い入れのあるガーデンは本当に素敵だ。彼女は、次の世代のことを考えて既にガーデンに変更を加えて行っている。

エドワード夫妻では、野菜の管理が難しかったりするのでその面積を減らしてもっと簡単にガーデニングできるスタイルに変えたりと。

そこにはガーデン対する情熱と息子夫婦に対する愛や思いやりを感じた。トルマーシュ男爵夫人は気さくでとても良い方。それが彼女のガーデンに現れていて、これこそ彼女のガーデンが人々を魅了しているのかもしれない。