昭和の頃の連れ込みが進化したバブル前のラブホは
何処かその内装を豪華に気取れば気取るほど
言いようのない無残と言うか荒涼な空気が満ちていた。
特に個人的には西新宿に在ったふざけたラブホテルの
巨大な魚類水槽が壁を飾る蒼いトーンの明かりの部屋が
人生の少ない経験中で、最も荒涼とした欲望の空間だった気がする。
此処なら・・ああ、新大久保の畳敷き六畳続き部屋・・
安っぽいブラウン管100円30分カラーテレビと
妙に芳香剤臭い糊のきき過ぎた浴衣入り乱れ箱付きで
ネオンの明かりが安っぽい窓障子から漏れる連れ込み。
・・あっちのほうが、いけないことしてない気に・・なるの・・
そう呟いてちょっと拗ねた小娘が淡々と脱皮し
ほんの布切れ一枚の姿を放擲したように晒しながら
何処か玩具でも弄るように恥ずかし気に摘み上げた
・・寝台枕元に試供品のように置かれた避妊具・・
5~6個連なった其れは機関銃弾実包のようにも見えて
ふと・・全部使い切る莫迦ぁ、居るのかな・・と
生々しくも阿呆臭い、餓鬼じみた感慨を抱き
自分は其の人工の海の底のような部屋で初めて笑った。
其のくらい殺伐で何処か荒涼とした空気の場所だった・・
愛の真似事に使うには余りに露悪に過ぎるような・・
蒼の冷たい、だが何処か生臭く背徳的な灯りの下
大きい影と小さすぎる影の二匹の魚が戯れる。
何も身籠らず何も生まぬ、ただ互いの存在を確かめる
其れだけのために不毛な時と力と情念を費(つい)やしで。
だが、其れだけで良かったのだろう・・其の二匹には。
過去の人造の水底から、セルロイドの珊瑚礁に寄せる
とても甘い偽りの潮騒が聴こえる夜が・・時に在る。
人は記憶と言う海に溺死する片輪のサカナ・・だ。