出世作『武田家滅亡』の姉妹篇ともいうべき戦国小説の傑作である。武家とは私怨で事を構えず、親兄弟の仇であろうとも、万民のためにそれが良いと思えば、過去を葬り、敵と手を組むことも辞さぬ存在にならねばならぬ――世に義を敷衍(ふえん)させるために、心ならずも行った殺生の数々を詫びるべく仏門に入れられていた西堂。それが念願叶って還俗(げんぞく)したのが、本書の主人公・三郎景虎であり、彼は前述の理想論を否応なく背負わされることになる。

それがどういう道を彼に歩ませたかといえば、北条家の主となったのも束の間、上杉に養子に出される。作者はその背後に、北条氏の描く版図、武田家を含む〈甲相越三和一統の計〉があったのでは、と説く。

そして、理想よりも弱肉強食の戦国の世で問われる生命の軽重を思うとき、人の生命は奪われるものではなく、受けとめるものであるという考えに至らざるを得ない。

だが世は乱世 柿崎一族の叛乱の際、景虎はいかに事を収めたのか。或いは、彼は息子に何を強いることになったか。

作者は万感の思いで戦国期におけるの終焉を描いている。