都内の大学病院に勤務する38歳の医局員・住田友吉が、名古屋のホテルで他殺死体となって発見された。手首を切られ、3リットルもの大量出血によって脱血死したのだった。刑事の大塚らの捜査で、住田が匿名で医学界の腐敗を暴く記事を雑誌に寄稿していたことが明らかになる。そして2ヶ月後、第二の殺人が――。
目撃証言相次ぐ「赤い髪の女」とは一体何者か。震撼の医療ミステリー。
本文より
四十近い男の熟睡している表情である。が、その顔色は蒼白だった。寝息も聞えず、毛布も微動だにしなかった。
年かさの係は、これまでの経験でこうした場合の心得を知っていた。彼はメイドが様子が変だと知らせたときにポケットに小さな鏡を入れてきていた。口を開けた男の鼻先に近づけると鏡は曇らず、男の鼻孔と上唇とを明澄に映したままだった。
「死んでいる」
と係は鏡をポケットにおさめて、いまいましそうに云った。……(本書23ページ)
本書「解説」より
犯人像がつかみにくいことは謎を深め、この作品を一段と魅力的なものにしているが、さらに動機の面でも、被害者がさまざまな問題を抱えた医学界の人間であることからさまざまな疑わしい人物を浮かび上がらせることにも成功している。(略)
『喪失の儀礼』の犯罪動機も、その根源をたどって行くと、最終的にはやはり医学界の荒廃につながるわけで、その背後に社会的なものが横たわっているのである。
