王様ゲーム | LOGICREATIVE

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矛盾があってこそ、人間は前に進める。二律背反を解決したとき、そこには新しい世界が広がっている。


『王様ゲーム』という本を読んだ。

誉田哲也先生の小説を買いに行ったとき、たまたまレジの前に置いてあったこの本を手に取ったのがきっかけである。

表紙には大きな髑髏のデザインが施されており、なんとなく印象が強い本だった。帯には、「超絶ホラー小説」「30万部突破」「映画化決定」などといった、商業的な悪臭を放つフレーズで惜しみもなく埋め尽くされている。普段、この手の本というのは、俺は買わない。しかも、ハードカバーだったので、普段だったら興味すら全く示さない。ハードカバーは高いので、余程のことがない限り購入しないのである。しかし、このときばかりはデザインが気にいったせいか、躊躇いもなく本をレジのお姉さんに手渡していた。


家に帰り、一緒に買った誉田先生の本よりも先にこの本の表紙を捲っていた。
内容は、学校の生徒が殺戮ゲームに巻き込まれるというものであり、『バトルロワイヤル』に酷似したものである。個人的にバトロワは好きだ。映画も観たし、小説も漫画も読んだ。それだけに、『王様ゲーム』のストーリーのコンセプトが見えると、自分の中の期待が高まっていくのがよく分かった。しかし、それに反し、読み進めるにつれて「あれ?あれれぇ?」という不安だけが募っていく。

「もしかして、この本つまらない・・・?」

泳ごうと思って入水してみたら、膝の高さ位までしか水位がない。まさに、そんな感じだった。
そう思っていたのも束の間、やがて本の三分の一を読み進めたぐらいにはそれは既に揺るぎない確信に変わっていた。表現が稚拙で、状況説明が欠乏している。ストーリーの構成も酷い。キャラクターの行動や心理に、ことごとく違和感を覚える。読んでいて、モヤモヤだけが蓄積されていく。

「あー、くそ。騙された。」

せっかく文庫本2~3冊分の値段で買った本である。努力して最後までは読んでみた。だが、途中で察してしまったとおりで、その後は何も覆されずに・・・終わってしまった。読み終えた瞬間、ブックオフへ行こうと思ったのはこれが初めてだったと思う。



しかし、「30万部」売り上げたというのはまた事実なのだろう。帯に嘘は書かない。不覚ではあるが、現にこうして衝動買いまでさせられたバカがいるのである。「30万部」といえば、小説では結構な好成績だと思う。ただ、アマゾンの評価を見た限りでは、俺の評価とそう乖離はない。レビューでは、ほぼ全員がボロクソに書いている。なのに、事実としてあるのは「30万部」を売り上げたということなのである。

これは、冷静に考えると、小説としては駄作でも、ビジネスとしては「成功」しているようにも思う。要するに、表紙デザインやストーリーコンセプトだけで勝手に消費者が想像を膨らまし、飛び付いてしまう、トラップみたいなものといえる。見方を変えれば、表紙とコンセプトだけに1200円払ったようなものなのだ。マーケティング的な観点からすると、これは大成功に他ならない。

この本に限らず、それは他の消費財においても、同類のモノをたまに見ることができる。恐らく、どんな人でも、自分が勝手に期待を膨らませたのに、実際はそこまで良いものでなく、「詐欺だ!」と製造者に対して憤慨した経験は一度はあると思う。まさに、そのような本なのである、この本は。

ビジネスとして、「儲ける」という観点からは、これは成功を収めたことになるだろう。作者は印税を得、出版したモバゲーも沢山のキャッシュを得、大変喜んでいるに違いない。しかし、肝心の消費者はむしろ損失の方が大きく、構図としては消費者が搾取された形になっているのである。

正直、このビジネスは何も生んでいない。何の付加価値もないと個人的には思う。しかし、企業はキャッシュフローを生んだため、理論式からいえば企業価値は高まることになる。経済的な付加価値は上昇しているのに、実際に使用する側には何の価値も残らない。こんなビジネスが、優良なビジネスといえるはずがない。俺から言わせてもらえば、自己中心的なオナニービジネスなのである。



少し最後は論調が荒くなったが、ビジネスをするなら、消費者や社会に価値を残せるようなものをしたい。そう強く思うのである。