Logical Skill の深い話

Logical Skill の深い話

Logical Skill 特に、Logical Writing について深い話を紹介します。基本的なことは著書(たとえば、「論理が伝わる世界標準の書く技術」講談社)で説明しています。ここでは、著書には書かなかった、より深い話を紹介します。

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 私は、「どうすればできるようになりますか?」と聞かれたとき、「経験だよ」と答えるのは、指導者の敗北と考えています。なぜなら、経験で身につくなら、指導者は不要だからです。経験で身につけるには時間がかかりすぎるから、その近道を教えてあげるのが指導者だと思っています。

 たとえば、「どうすれば英語が読み書きができますか?」と聞かれて、「経験だよ」と答えるなら、英語の先生は不要です。確かに膨大な経験を踏めば、英語の読み書きはできます。ネイティブはそうやって習得したのですから。しかし、そんな時間は無駄だから、習得の近道として、文法を指導したりするのです。

 「経験だよ」と答えてよいのは、ルールを身につけるときです。たとえば、「三人称単数が主語の場合、一般動詞にはsを付ける」というルールを身につけようとすれば、このルールを意識して文をたくさん書くしかありません。意識して書き続けると、ルールを無視した文は書けなくなります。書くと気持ちが悪くなるのです。

 逆に言えば、経験でしか身につかないと思っていたことを、「こうすればできる」と指導できる人がよい指導者です。「この日本語を英語にするとこうなる」ことをステップ・バイ・ステップで説明できるのがよい指導者です。正解だけを示して、なぜその正解が頭に浮かぶかは経験次第というなら、指導者失格です。

 ちなみに、「文章が上手になるには?」と聞かれて、「たくさん書くこと」と答える教育者は非常に多いです。

 ライティングのルールはシンプルだ。しかし、実際適用するのは難しい。たとえば、「1パラグラフは1トピック」というルールを適用した場合、「AだけどB」は1パラグラフか?

 実は、私がこの問題に対して、明確な答えを導いたのは、つい数年前だ。それまでは、その場に応じて適当に対応していた。つまり、1パラグラフで書くこともあったし、2つのパラグラフで書くこともあった。この問題を問題ととらえていなかったのだ。なぜなら、ライティングを論じた本にも載っていないから。

 私が導いた解答は、「3つのケースが考えられる」だ。
ケース1:Aは自明でBだけ論証する
ケース2:AとBを個別に論証する
ケース3:AとBを同時に論証する
ちなみに、「Bは自明でAだけ論証する」はあり得ない。なぜなら、「Aだけど B」はBが言いたいことだからだ。中心であるBを論証せず、おまけのAを論証 することはない。

ケース1:
 「Aは自明でBだけ論証する」なら、「AだけどB」は1パラグラフだ。たとえ ば、「X社は有名ではあるが、業績は芳しくない」で考えてみよう。X社が有名 であることが自明なら、いかに有名かを説明するまでもない。業績が芳しくない ことだけをデータなどで論証すればよい。だから1パラグラフで説明できる。

ケース2:
 「AとBを個別に論証する」なら、「AだけどB」は2パラグラフだ。たとえ ば、「X社は高い技術を有するが、業績は芳しくない」で考えてみよう。X社が 高い技術を有していることは、詳しく説明しないと読み手が納得しないだろう。 いかに優れた技術を持っているかを具体例やデータで説明する。この説明には1 パラグラフ必要だ。もちろん、業績が芳しくないこともデータなどで説明しない といけないので、別に1パラグラフ必要になる。

ケース3:
 「AとBを同時に論証する」ら、「AだけどB」は1パラグラだ。たとえば、「X社は多少の例外はあるが、業績は芳しくない」で考えてみよう。このケース、例外も業績低下傾向も、1つのグラフで説明できる。同じグラフを使って、2パラグラフで説明する必要性を感じない。1パラグラフで説明できる。

 こういう細かな話は、本には載せない。なぜなら、もっと説明しなければならな い大事なことが多いから。しかし、実際に文章を書こうとすと、「Aだけど B」は1パラグラフで書いていいのか迷ってしまうのだ。ルールはシンプルで も、適用は難しい。

 ビジネス文章にとって、大事なこととは何でしょう? それは、いかに読ませないかです。正確に言えば、必要な情報は漏らさず確実に読ませ、不要な情報は読ませないことです。

 ビジネス文章は、全部を読んで、必要な情報を見つけ出すのではありません。そんなことをしていたら、生産性が下がって仕方ありません。忍耐強く読み込む、などというのはもってのほかです。

 ビジネス文章は、自分にとって必要な情報だけ効率よく入手できなければなりません。必要な情報は、読み手ごとに異なります。たとえば、管理職と担当者では必要な情報が変わります。読み手が誰であっても、その読み手にとって必要な情報がどこにあるかが一目で分かり、その必要な情報だけを読むのです。

 「一読で理解できることが必要」とよく言いますが、それは読み進む箇所を決めてからの話です。まずは、「自分はここを読み進む必要があるのか」の判断ができることが大事です。無駄な情報が、一読で理解できても意味はありません。