夜10時を過ぎていました。
子どもはもう寝ています。
ダイニングテーブルには、
明日学校へ持っていくプリント。
椅子の背には、
畳もうと思って持ってきた洗濯物が
かかったままでした。
明日もパートだし、
今日はもう寝よう。
そう思って、スマホを伏せました。
少しすると、
テーブルの上でスマホが光りました。
いいねが一つ。
昨日、私がいいねをした人でした。
その人の投稿を開いて、
私もいいねを返しました。
ついでに、もう一人。
また一人。
気づけば30分くらい経っていました。
寝る前に、プロフィールを開きました。
フォロワーは、
1,037人。
始めた頃は17人だったのに。
1,000人を超えた数字を見て、
少し嬉しくなりました。
それから、
仕事の問い合わせを確認しました。
0件。
売上も、0円。
でも、その夜も私は、
「明日は何を投稿しよう」と
考えていました。
◆ 欲しかったのは、フォロワーじゃなかった
そもそも私が在宅ワークを
始めようと思ったのは、
子どものことがきっかけでした。
スーパーのレジで
パートをしていましたが、
子どもが小学生になると、
学校の予定とシフト表を
見比べることが増えました。
授業参観。
個人面談。
長期休み。
急な発熱。
ある日、子どもが
習い事のチラシを持って帰ってきました。
「これ、やってみたい」
私は「いいね」と言いながら、
チラシの下に書かれた
月謝を見ました。
できない金額ではない。
でも、何も考えずに
「いいよ」と言える金額でもない。
もう少し収入があったらな。
家で働けたら、
子どもの予定にも
合わせやすいかもしれない。
そんな気持ちから、
オンライン秘書という仕事を
知りました。
メール対応や資料作成、
スケジュール管理。
これなら私にも
できることがあるかもしれない。
そう思って勉強を始めました。
◆ でも、誰にも選んでもらえなかった
分からないことを調べて、
動画を見て、
できることを増やしました。
そして仕事に応募しました。
でも、返事が来ませんでした。
プロフィールを書くときも、
「実績」の欄で手が止まりました。
オンライン秘書としての実績は、
0件。
実績がないから、
選んでもらえないのかな。
でも、選んでもらえなければ
実績は増えません。
どうしたらいいんだろう。
それで、また調べました。
「まずは知ってもらいましょう」
「SNSで発信しましょう」
「交流を増やしましょう」
なるほど。
私はまだ、
知られていないから
仕事が来ないんだ。
そう思いました。
それなら、やることは
分かりやすかったんです。
投稿して、
いいねをして、
コメントを返す。
フォロワーを増やす。
少しずつ数字が増えると、
仕事にも近づいている気がしました。
◆ 仕事は返事をくれない。でもSNSは返してくれた
仕事に応募しても、
返事が来ない。
問い合わせも来ない。
でも、SNSを開くと
通知がありました。
「いいねしました」
「分かります」
「いつも見ています」
短い言葉でした。
それでも、嬉しかったんです。
家でご飯を作っても、
洗濯をしても、
子どもの持ち物を確認しても。
誰かから「いいね」が届くことは
ありません。
パートでレジを間違えずに打っても、
それはできて当たり前。
でもSNSでは、
私が何かを書くと
誰かが反応してくれました。
今日も誰かが、
私のことを見てくれた。
そんな気がしました。
だから、仕事が決まらなかった日も、
SNSだけは開きました。
むしろ、
仕事がうまくいかなかった日ほど、
通知が嬉しかったのかもしれません。
◆ 本当は、仕事に応募するほうが怖かったのかもしれない
今になって思うことがあります。
仕事に応募すると、
選んでもらえるかどうかが
はっきりします。
返事が来なければ、
またダメだったと思う。
でも、SNSでいいねをすると、
誰かが返してくれることがあります。
フォロワーも、
少しずつ増えていきます。
仕事が取れない日でも、
SNSなら何かが増える。
だから私は、
仕事を探すことよりも、
SNSを開く時間が
長くなっていたのかもしれません。
仕事では選ばれなかった私も、
SNSでは誰かに
見てもらえている気がしたから。
こんなことを言うと、
仕事をしたくなかったみたいに
聞こえるかもしれません。
でも、仕事は本当に欲しかったんです。
子どものために使えるお金も、
もう少し欲しかった。
ただ、仕事が決まらないまま
時間だけが過ぎていくのは、
苦しかった。
だからせめて、
フォロワーが増えていることを
確かめたかったのかもしれません。
◆ 1,000人を超えた夜
フォロワーが17人だった頃は、
まだ始めたばかりだからと
思えました。
少しずつ増えて、
ついに1,000人を超えました。
1,037人。
でも、仕事の問い合わせは0件。
売上も0円。
最初に思ったのは、
「まだ1,000人になったばかりだし」
でした。
もう少し増えたら、
変わるかもしれない。
2,000人になったら?
3,000人になったら?
そこまで考えて、
少し怖くなりました。
私は、いつまで
これを続けるんだろう。
毎晩スマホを開いて、
誰かにいいねを返して。
フォロワーが増えたら安心して、
減ったら不安になる。
それなのに、
仕事は決まらない。
売上が0円のままでも、
フォロワーさえ増えていれば、
私はまだ大丈夫だと思いたかった。
そんな自分がいたのかもしれません。
◆ いちばん見たくなかった数字
その夜、
子どもが持って帰ってきた
習い事のチラシを思い出しました。
「これ、やってみたい」
あのとき、
私は月謝を見て
少し考え込んでしまいました。
もう少し収入があったら。
そう思って始めたはずでした。
なのに今、
毎日確認しているのは
フォロワーの数字です。
1,037人。
その数字は増えました。
でも、子どもの習い事に
使えるお金は増えていません。
私は、仕事が欲しかった。
それなのに、
仕事が決まらないことを見るのが嫌で、
増えていく数字のほうを
見ていたのかもしれません。
本当に見たくなかったのは、
売上0円という数字より、
頑張っても仕事をもらえない
自分だったのかもしれません。
◆ それでも、SNSをやめられなかった
じゃあ、
フォロワーを増やすのをやめたら
何をすればいいんだろう。
投稿しないなら?
いいねを返さないなら?
どうやって仕事を見つけるんだろう。
それが分からないから、
結局またスマホを開いていました。
仕事が欲しい。
でも、仕事につながっているか
分からないことを
毎日続けている。
自分でも変だと思うのに、
やめるほうが怖かったんです。
◆ もっと頑張る前に、考えてみたこと
そんな頃、
少し違う考え方が書かれた
メルマガを読みました。
そこには、
もっと投稿しましょうとも、
もっとフォロワーを増やしましょうとも
書かれていませんでした。
私がずっと考えていたのは、
どうしたらフォロワーが増えるか。
でも、
本当に欲しかったのは
フォロワーではありません。
子どもの予定に合わせて働けること。
習い事のチラシを見たとき、
お金のことばかり考えずに
話を聞いてあげられること。
そのための収入でした。
フォロワーを増やすことと、
仕事をもらうこと。
私は、その二つを
いつの間にか同じように
考えていたのかもしれません。
もちろん、
SNSが仕事につながる人も
いると思います。
でも私の場合は、
1,037人になっても
仕事は0件でした。
それなら、
同じことをもっと頑張る前に、
違うところを考えてみても
いいのかもしれません。
メルマガを読んだ翌日に、
仕事が来たわけではありません。
売上も、まだ0円でした。
でも、
SNSの通知を確認する前に、
少し立ち止まって考えるように
なりました。
私は今、
仕事に近づくために動いているのかな。
それとも、
今日も誰かに見てもらえたと
安心したいだけなのかな。
その違いを、
前より意識するようになりました。
もし今、
頑張っているのに
欲しい結果だけが来なくて。
それでも、
毎日何かを続けていないと
不安になるなら。
私が立ち止まるきっかけになった
考え方を、ここに置いておきます。
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