労働者派遣法の改正について
1月8日の朝日新聞朝刊に、労働者派遣法の改正案の提出についての記事がありました。
(1)登録型派遣の禁止、(2)専門的な業務以外の製造業派遣の禁止、(3)未払い賃金についての派遣先の連帯責任、(4)派遣先が違法行為をした場合に派遣先に直接雇用を通告できる制度、のおおむね4点の内容の法案が提出されるようです。
しかし、あまり、冷静に、客観的に考えられた内容ではないのではないか、と懸念されます。
いわゆる派遣切りが問題となるのは、まさしく(1)登録型派遣の問題です。
もともと派遣業が想定していたのは、常用で社員を派遣会社が雇用していて職業訓練をしておき、依頼があったときに、即戦力となる派遣社員を派遣するというものであったと思います。
登録型で、仕事があるときだけ雇用するというのは、当初の想定とは異なります。
派遣という問題を離れたとき、仕事があるときだけ出勤させ給料を支払い、仕事がないときは給料は払わない、ということが認められるかどうか、といえば、認められません。
しかし、一般には、半年、1年といった期間を区切った雇用は認められます。
派遣切り、と悪いイメージでいわれますが、契約期間が満了して雇い止めがあったというのが正しい表現です。
わが国では、期間の定めがない雇用関係を「正社員」といい、これに対して、期間を定めて雇用される「契約社員」があります。
派遣切りは、派遣会社に「契約社員」として雇用された人の、雇い止めの問題です。
すなわち、「派遣」自体が問題というよりも、「契約社員」の問題とみるべきなのです。
そう考えると、(2)製造業派遣の禁止は、あまり意味がないことがわかると思います。
製造業派遣が禁止された場合には、製造業の契約社員に移行するだけです。
また、製造業のみ常用派遣を禁止する理由がとりたててあるとは思えません。
(3)未払い賃金についての派遣先の連帯責任は、どうしてこのような議論がでてきたのか理解できません。
派遣は、派遣先と、派遣元の責任を明確に分けることによって、「中間搾取」といわれる不都合を回避し、かつ、ニーズにあったところに人材を確保する有意義な制度にしようということではなかったかと思います。
(4)も含めて派遣先の責任強化は、労働者派遣の基本的な考え方に反するものです。
簡単にいえば、未払い賃金について派遣先に責任を求めると、派遣先は、派遣社員への賃金を直接支払いしたいと思うようになるということです。
それができないとしても、派遣元が社員に賃金を支払ってからしか、派遣先は派遣元に対する派遣契約にもとづいた派遣料の支払いをしようとしないでしょう。
そうすると、派遣元の資金繰りが厳しくなるだけということになります。
いずれにしても、問題の中核が、「契約社員」の雇い止めにあるということが認識されれば、正社員はまず解雇されず、契約社員だけが雇い止めが認められるということを論ずべきだということがわかります。
そして、正社員を解雇することができないからこそ、業務の繁閑に対応するため、また、将来の業績悪化に備えて、雇い止めをできる契約社員を雇用しなければならないのです。
このブログではたびたび書いていますが、正社員を解雇しやすくするというのが、もっとも合理的な解決なのですが、そうすると、また別の問題が生じるということになります。
派遣先企業や、派遣元企業を「悪者」とみて部分的な規制するのではなく、日本全体の雇用制度がどうあるべきかということを考えるべきではないでしょうか。