最高裁 国籍法違憲判決について | 第6の権力 logic starの逆説

最高裁 国籍法違憲判決について

少し時間がたってしまったが、6月4日に、国籍法の規定について、最高裁で違憲判決がありました。

ほとんどの報道が全面支持あるいは極めて好意的なスタンスで記事を書いていますので、本ブログの趣旨から、違う立場で、少しコメントしておきたいと思います。最高裁の違憲立法判決は、これまで7件しかなく、これが8件目であり、そうした点でも非常に重要です。


国籍法によれば、未婚の日本人父と外国人母との間で生まれた子については、父の認知だけでは日本国籍を取得できず、父母の婚姻(結婚)が日本国籍取得の要件とされていました。この父母の結婚は、当人に関係がないことで、夫婦の間に生まれた子(嫡出子)と、夫婦関係にない男女間で生まれた子(婚外子・非嫡出子)との間に、差別をするものです。最高裁判決は、この点について、憲法14条、法の下の平等に反し、違憲としたわけです。

この結論についてこのブログで異議を述べるつもりはありませんが、判決の理由づけには、いくつか問題があると考えます。そのうち、3点、以下で指摘しておきたいと思います。


判決全文が、最高裁判所のホームページにすでに掲載されています。長くなりますが、できるだけ要点をしぼって最後に引用しておきますので、気になる方はご覧ください。


(1)国籍法が定められた当時は理由があったとしていること


問題点の一つは、判決が、国籍法の非嫡出子差別の規定は、定められた当時には相当の理由があったが、現在は合理的な理由のない差別だとしている点です。

ということは、以前は合憲だった法律が、憲法も法律も変わっていないにもかかわらず、社会状況が変わると違憲になるということになります。しかし、社会状況がどう変わったかということは、憲法にも法律にも書いてありませんので、それは、憲法や法律に根拠を持たない、裁判官の個人的な判断になります。裁判官の個人的な判断で、合憲であった法律が、急に違憲になるというのは、どう考えてもおかしなことです。

この点、この判決の報道についても、「時代読んだ画期的判決」といった社説も書かれていましたが、判決は法律と事実に基づいてなされるべきであり、裁判官が勝手に時代を読んで判決するなどというとんでもないことがあってよいはずがない、というのが私の意見です。

社会状況や「人情」を法制度に反映させるのは、政治=立法の仕事です。裁判所や行政の仕事では決してないということを確認しておく必要があります。


判決は、「我が国における社会的、経済的環境等の変化」「国際化の進展」「諸外国においては、非嫡出子に対する差別的取扱いを解消する方向」といったことを理由にあげていますが、裁判官をはじめとする法律化は、社会政策・経済政策・国際政治の専門家ではありませんし、外国法制について裁判において充分検討する機会があったわけでもありません。


そもそも、国籍法の規定で父母の結婚を日本国籍取得の要件としていたことについては、父母の結婚は当人に関係がなく、夫婦の間に生まれた子(嫡出子)と、夫婦関係にない男女間で生まれた子(婚外子・非嫡出子)との間に、差別をするものだったということは、制定当時から変わりません。社会状況がどのように変化しようと、制定当時から明らかな差別であったのです。

したがって、あえて社会状況の変化だとか、制定当時には相当の理由があったとか判決で書く必要はなく、たんに、非嫡出子に対する不合理な差別であると書けばそれで十分であり、そのほうが明解であったと考えます。


本判決について「子どもの利益を第一に考えた」といった評価もありましたが、判決理由をみる限り、その評価には賛成できません。子どもの立場は、法制定時も現在も変わりません。子どもの利益を第一に考えれば、社会状況がどうあろうと、最初から違憲だという結論になるでしょう。裁判官が、子どもの利益と社会状況を比較しつつフィーリングで決めた判決というのが正しい評価ではないでしょうか。



(2)違憲の根拠条文として憲法14条をあげていること


次に、違憲の根拠条文として、憲法14条、すなわち「法の下の平等」をもってきているところに問題があります。「法の下の平等」は、その言葉どおり、「法の下」で、法律の適用において、平等でなければならないということにあり、法律自体に不平等がある場合に適用すべき条文ではないことは明らかです。(判例と学説において、法律の不平等についても、憲法14条の「法の下の平等」が適用できるというのが、通説的見解になっているのは承知のうえですが、それが法解釈として誤っていることは明らかですので、あえて書きました。)また、判決は、「両性の平等」にも言及していますが、嫡出子に対する非嫡出子に対する差別は、両性の平等とは違う問題だということも明らかでしょう。

判決は、国籍取得が基本的人権の問題だとわざわざ述べているのですから、基本的人権の規定、あるいは、立法における個人尊重(両親の結婚ではなく本人の血統を尊重)の規定などを根拠条文とすべきであったと考えます。

また、憲法第10条「日本国民たる要件は、法律でこれを定める」の意味するところをきちんと解釈しておく必要があったと思います。すなわち、「法律で自由に定めてよい」ということではなく、「法律ではない政令や規則で定めてはいけない」ということを意味するにすぎない、といったように、解釈を示す必要があったと思います。それがなかったことが最高裁裁判官の中にも反対意見が出ることにつながったと思います。




(3)立法の裁量について


本判決は、「立法の合理的な裁量」や「立法府に与えられた裁量権」といった言葉を使ってますが、憲法や法律にどこを見ても、立法府の裁量権については書かれていません。立法府は、憲法に違反しない限り、自由に立法できるわけです。すると、立法の合理的な裁量の範囲内というのは要するに合憲ということであり、立法府に与えられた裁量権を考慮してもなお合理性を欠くというのはたんに違憲ということにすぎません。このような、合理的だとか、裁量といった抽象的で条文にない言葉を使うのではなく、憲法の条文によって、説明をすべきであったと考えます。(そうすれば、前は合憲だったが、今は違憲だというようなおかしな説明になるはずはなかったともいえます。)



判決の引用

「国籍法・・・の規定が設けられた当時の社会通念や社会的状況の下においては,日本国民である父と日本国民でない母との間の子について,父母が法律上の婚姻をしたことをもって日本国民である父との家族生活を通じた我が国との密接な結び付きの存在を示すものとみることには相応の理由があったものとみられ,当時の諸外国における前記のような国籍法制の傾向にかんがみても,同項の規定が認知に加えて準正を日本国籍取得の要件としたことには,上記の立法目的との間に一定の合理的関連性があったものということができる。

しかしながら,その後,我が国における社会的,経済的環境等の変化・・・に加えて,近年,我が国の国際化の進展に伴い国際的交流が増大することにより,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生する子が増加しているところ・・・その子と我が国との結び付きの強弱を両親が法律上の婚姻をしているか否かをもって直ちに測ることはできない。・・・また,諸外国においては,非嫡出子に対する法的な差別的取扱いを解消する方向
にあることがうかがわれ,我が国が批准した市民的及び政治的権利に関する国際規約及び児童の権利に関する条約にも,児童が出生によっていかなる差別も受けないとする趣旨の規定が存する。さらに・・・多くの国におい
て・・・父子関係の成立が認められた場合にはそれだけで自国籍の取得を認める旨の法改正が行われている。
・・・日本国籍の取得が・・・我が国において基本的人権の保障等を受ける上で重大な意味を持つものであることにかんがみれば・・・差別的取扱いによって子の被る不利益は看過し難いものというべきであり,このような差別的取扱いについては,前記の立法目的との間に合理的関連性を見いだし難いといわざるを得ない。とりわけ,日本国民である父から胎児認知された子と出生後に認知された子との間においては,日本国民である父との家族生活を通じた我が国社会との結び付きの程度に一般的な差異が存するとは考え難く,日本国籍の取得に関して上記の区別を設けることの合理性を我が国社会との結び付きの程度という観点から説明することは困難である。また,父母両系血統主義を採用する国籍法の下で,日本国民である母の非嫡出子が出生により日本国籍を取得するにもかかわらず,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子が届出による日本国籍の取得すら認められないことには,両性の平等という観点からみてその基本的立場に沿わないところがあるというべきである。・・・上記・・・事情を併せ考慮するならば,国籍法が,同じく日本国民との間に法律上の親子関係を生じた子であるにもかかわらず,上記のような非嫡出子についてのみ,父母の婚姻という,子にはどうすることもできない父母の身分行為が行われない限り,生来的にも届出によっても日本国籍の取得を認めないとしている点は,今日においては,立法府に与えられた裁量権を考慮しても,我が国との密接な結び付きを有する者に限り日本国籍を付与するという立法目的との合理的関連性の認められる範囲を著しく超える手段を採用しているものというほかなく,その結果,不合理な差別を生じさせているものといわざるを得ない。・・・ 以上によれば,本件区別については,これを生じさせた立法目的自体に合理的な根拠は認められるものの,立法目的との間における合理的関連性は,我が国の内外における社会的環境の変化等によって失われており・・・本件区別は,遅くとも上告人らが法務大臣あてに国籍取得届を提出した当時には,立法府に与えられた裁量権を考慮してもなおその立法目的との間において合理的関連性を欠くものとなっていたと解される。したがって,上記時点において,本件区別は合理的な理由のない差別となっていたといわざるを得ず,国籍法・・・の規定が本件区別を生じさせていることは,憲法14条1項に違反するものであったというべきである。」