公約は絶対に守らなければならないのか? | 第6の権力 logic starの逆説

公約は絶対に守らなければならないのか?

tadurabeさんのブログ「人生いろいろ」で、橋下大阪府知事と報道2001の黒岩キャスターとの議論について書かれていたので、少し、公約というものについて書いてみたいと思います。


橋下大阪府知事は、当選後、公約を修正したわけですが、これに対して、黒岩キャスターが「投票してくれた府民に対する裏切りだ」「起債は止めると言ったのに、起債をする事に方針を変更したのは、許せない行為だ」と非難したようです。(わたしは番組を見ていないので、tadurabeさんのブログ「人生いろいろ」をみて、他のサイトなども参照して、想像で書いています)


さて、当選後に公約を修正したり、撤回することは、本当に許されないのでしょうか。公約は絶対に守らなければならないのでしょうか。


政治家は、いったい誰を代表するのか、誰の利益のために政治をおこなうのでしょうか。


それが自分に投票してくれた人のためであるとすれば、公約は絶対だといえるかもしれません。公約を守らなければ、投票してくれた人に対する裏切りといえるでしょう。しかし、この考え方だと、自分に投票してくれなかった市民や国民は、どうなってもよい、ということになりかねません。

また、未成年者など、はじめから選挙権がない人もいます。自分に投票してくれた人のためだけに行動すればよいとすれば、未成年者など、選挙権のない人の利益は、はじめから守られないということになるおそれがあるのではないでしょうか。


自分に投票してくれた人のためだけではなく、市民全員、県民全員、国民全員のために政治をおこなうとすれば、公約を修正することも許されるのではないでしょうか。もちろん、公約は、市民全員、県民全員、国民全員にとって、もっともよいと思われるものを示すべきです。しかし、選挙で、全得票を1人がとるということはありません。たとえば、知事選挙で、対立候補と紙一重の差で当選したという場合、対立候補に投票した人を尊重し、対立候補の主張を取り入れるかたちで、自分の公約を少し修正する、ということは、一概に悪いことだと決めつけることではないと思います。

国会議員、地方議会議員については、もっとわかりやすいことです。自分が当選しても、同じ考え方の人が議会で少数派だった場合に、公約だからといって自分の主張をいっさい曲げずにいては、多数決で負けるだけであり、なんら政策の実現はできません。それよりは、少しでも自分の公約に近いものになるよう多数派の意見の修正を求め、自分の公約とは違っていても、より近いものに賛成していくというほうが、意味があるのではないでしょうか。場合によっては、ある公約はあきらめるかわりに、別の公約の実現に協力してもらうというこかたちで、多数派と妥協することも必要かもしれません。

他方、当選して、議会で多数派になった場合には、多数派だからといって少数派の意見を無視して公約実現に邁進するというのが、ただしいありかたなのでしょうか?会議の基本的ルールは、少数意見の尊重です。少数意見を尊重する必要がないのであれば、いきなり多数決をとってしまったほうが効率がよいのです。議論をかわすのは、少数意見を尊重し、場合によっては、多数意見が少数意見にあゆみよるためなのではないでしょうか。多数派になっても、少数派(に投票した人)の意見を聞いて、ときには少数派の意見を取り入れ、公約を修正するということも、必ずしも悪いことではないのではないでしょうか。

また、投票は、投票する人の考え方については、必ずしも市民全員・県民全員・国民全員にとってなにがよいのかではなく、投票した人自身にとってなにがよいのか、ということから決断されることもあると思います。そうであるならば、自分に投票しなかった人の意見や、自分とは違う考え方の意見もよく聞いて、修正し、妥協することは、絶対に否定されることではないと思います。

実際に投票するさいには、すべての公約をよいと思って投票するわけではないと思います。よいところもあるが、そうでないところもあり、トータルで考えて、この人の目指す方向がおおむねよいのではないか、というのが、普通の判断ではないでしょうか。

したがって、目指すおおむねの方向まで変更しては問題だと思いますが、個々の公約をすべて守らなければならないということでもないのではないかと思うのです。


日本国憲法第43条は、なぜわざわざ国会議員について「全国民を代表する」という規定を置いているのでしょうか。

未成年者という選挙権なき国民がいる以上、全国民で選挙をして選ぶ、という意味ではないことは明らかです。

東京都の選挙区から選ばれた議員が東京都民のことだけを考えてはいけないし、北海道の選挙区から選ばれた議員が北海道民のことだけを考えてはいけないし、労働組合の支持を受けて当選した議員が労働組合のことだけを考えてはいけないし、経営者の支持を受けて当選した議員が経営者のことだけを考えてはいけないのであり、全国民を代表するのだ、ということを定めているのではないでしょうか。


一見、明白に妥当だと思われることも、裏を返せば、必ずしもそうではないのだ、ということを、常に念頭に置いておきたいと思います。

あえて、公約は守らなければならない、という一見明白に妥当なことについて、書いてみました。