年金の保険方式は本当は世代間扶養ではない 日経の年金制度改革案について
今日の日経新聞に、日経独自の年金制度改革案が掲載されていました。
年金を、保険方式から税方式にあらため、財源を消費税に求めるというものです。
そもそも、保険方式と税方式の違いはなんでしょうか。
保険方式は保険料を徴収し、税方式は税金として徴収する、というのが形式的な違いです。
しかし、その実質的な違いは、保険方式は積立で、税方式は積立でない、というところにあると思います。
税方式は、今、年金給付に必要な費用を、そのつど税金で徴収します。したがって、破たんがありません。
保険方式は、集めた保険料を積み立てておき、保険料を支払った人たちが高齢になったときに、積み立てた保険料から給付します。貯金に似ていますが、死んでしまえば年金はもらえませんから、長生きすれば支払った保険料よりもたくさんの年金給付を受け取ることができます。こうして、少ない負担で、多い給付を実現するわけです。
さて、従来の年金は、保険方式であったはずです。
保険方式のメリットは、人口の変動に影響を受けないということにあります。自分たちの世代が支払った保険料を、同じ世代で生き残った人たちが年金として受け取るわけです。人口が増えても、減っても、人口ピラミッドの影響を受けることなく、安定して年金を受け取ることができるのです。
税方式は、人口の変動に影響を受けます。高齢者が増えれば、その時点で、それだけ多額の費用が必要になり、すなわち徴収する税金が増えるということになります。若年者が多く高齢者が少ない場合には税負担は少ないのですが、若年者が少なく高齢者が増えれば税負担が増えます。今のような少子化に向かう時代には、負担が多くなってしまいます。
したがって、保険方式のほうが制度設計としては優れているはずです。
そして、保険方式は、本来、同じ世代で支えあう制度のはずです。若年者が高齢者を支える制度ではないはずです。世代間で扶養する制度ではないはずなのです。
しかし、保険方式であったはずの従来の年金制度において、「年金は若年者が高齢者を支える制度」だという人がありました。
また、「少子高齢化がすすんだために年金が破たんした」という人がありました。
これはどういうことなのでしょうか。
年金が破たんしたのは、本当は、少子高齢化がすすんだためではありません。
本当は積み立てておかなければならない保険料を、使ってしまったから破たんしたのです。
保険方式で、積み立てずに使ってしまえば、将来、破たんすることは明らかでした。
年金制度を開始したときは、保険料を払う人ばかりで、受け取る人はいませんから(本来は保険料を払った人だけが年金を受け取ることができるはずです)、当然、保険料がどんどんたまっていきます。
それは、20年後、40年後の給付に使うはずのお金なのです。
しかし、それを使ってしまったのです。施設をつくったり、あるいは、保険料を払っていない人にも年金を支給したり、あるいは、支払った保険料に比べて著しく高額の年金を支給したからです。
そのため、積み立てが足りなくなり、今、徴収した保険料を、今の年金給付にまわさざるをえなくなります。これはよく「自転車操業」といわれるものです。また、詐欺事件にもみられます。高額の利息を約束して、お金を集め、実際には運用せずに、新しく加入した人の出資金から、古い人への利息を支払うわけです。
こうした「自転車操業」は、入金が少なくなれば破たんします。
年金では、現役世代が減ること、すなわち少子高齢化が、入金の減につながります。
そして、今、実際に破たんしつつあるのです。
実際に積立金が足りない以上は、もはや保険方式は成り立ちません。
本当は、保険方式のほうが優れているのです。
しかし、積立金を使ってしまい、実際に積立金が足りないという現状においては、税方式にしたほうがよい、ということなのです。
積立金を使ってしまった現状において保険方式を維持すれば、自転車操業を続けることになり、20歳から60歳の現役世代が負担し、それを65歳以上の高齢者で分配することになります。さらに少子高齢化がすすめば、さらに現役世代の負担が増えます。
税方式をとっても、それが所得税なら同じことです。20歳から60歳の現役世代が税金を負担し、それを65歳以上の高齢者で分配することになります。
しかし、税方式をとり、それが消費税なら、変わってきます。消費税は、高齢者も負担することになります。全国民が負担し、高齢者で分配することになります。現役世代の負担が若干減ります。また、人口の変動の影響も受けにくくなります。
そこで、消費税を財源とする税方式がよい、というのは、一定の合理性があると思います。
ただ、本来の保険方式の意義や、なぜ破たんしたのか、といったことは、しっかりと考えておくべきでしょう。
さて、日経の年金制度の改革案によれば、経過措置として、現行の年金制度も当面存続し、現在(制度改定時)に60歳以上の人はすべて旧年金制度から支給を受け、20歳以下の人はすべて新年金制度の適用を受け、20歳から60歳までの人は、その年齢に応じて新旧年金制度から支給を受けます。
たとえば、40歳の人は、20歳から40歳までは旧年金制度、40歳から60歳までは新年金制度ですから、半分ずつ新旧の年金制度から支給を受けます。50歳の人は、30年分は旧制度、10年分は新制度、つまり4分の3は旧制度、4分の1は新制度から支給を受けます。旧制度において年金保険料を払っていなかった人はその分の給付を受けられないので、公平性は保たれる、という主張です。
しかし、現在60歳で、保険料をずっと支払ってこなかった人はどうでしょうか。この人は、年金給付の財源となる消費税を負担しなければなりません。しかし、年金給付はいっさい受けられません。明らかに不公平です。
また、現在60歳で、保険料をずっと支払ってきた人はどうでしょうか。この人は、保険料を満額負担したはずです。本来、それで年金給付を受けられると思っていたはずです。しかし、さらに年金給付の財源となる消費税を負担しなければならないのです。この人は、感情的に、それを受け入れられるでしょうか。
いずれにしても、日経の案は、現在ちょうど60歳の人が不利になると思われます。
徹底的に公平さを追求しようとするならば、現在の年金制度は、本当の意味で破たんさせるのがよいと思います。年金の積立の残額を、これまで保険料を支払ってきた人たちで、その支払額(とすでに受け取った年金額)から計算して、現金で分配してしまうのです。すなわち、破産です。そのうえで、税方式にいっせいに移管すれば、公平性は保てます。ただ、積立残額が少ないからこそ問題になっているわけで、分配される金額は、思いのほか少ない、ということになるでしょうし、分配にはコストもかかります。また、判断にあたっては、ただ客観的に公平であればよいというものでもないと思います。
どれかが絶対的に正しいというわけではなく、こうした検討を十分にしたうえで、最後は、判断をするしかないと思うのです。
もう一点、注意しておくべきことがあります。
わが国の年金制度は、老齢年だけではなく、障害年金などもあります。
傷病についての社会保険には健康保険などの医療保険制度もありますが、医療費を支給する健康保険に対し、障害年金は生活費を給付しますので、同じ生活費給付である老齢年金とあわせて同じ制度にしたのだろうと思います。
障害年金は、人口構成の影響を受けませんので、老齢年金とは違う検討が必要になります。
年金を大きく改革するのであれば、老齢年金だけではなく、障害年金や遺族年金をどうするのか、ということも、考えておく必要があります。