現在のISO認証は、1990年代に、組織のISO事務局を担当していた人からしたら、「文書化について、ずいぶんとストレスがなくなった」と感じるでしょう。

ISO9001やISO14001の2015年版が発行された際に、大きな変化点のひとつとして「文書化した情報」がありました。

要は、「ISO認証審査のための文書類の作成」は、極力、最小限にしましょうというものです。

 

「文書化した情報の審査」については、ISO9001:2015年版の「ISO 9001 改訂セミナ-」で、JABが次のような見解を出しています。

 

(以下、ISO 9001 改訂セミナーにおけるJABの説明を引用)

『文書化した情報の審査』

〈質問〉

事業プロセスとの統合ということが求められている。

これを受け、組織は「ISO 用」の文書類を維持・保持することをやめ、業務上もともと作られていた文書体系を見直し、ISO9001 に適合するようにした。業務上使われている文書類であるため、ISO 9001 で必要とされるものに加え、ISO 9001 適合を実証するために必ずしも必要でない部分も多く含まれている。

また、認証対象外の業務に関する部分も含まれることもあるかもしれない。

このような場合、審査ではどのように考えるべきか。

<回答>

業務上の文書体系とは別に、「ISO 用」の文書類を維持・保持することは、ISO 9001 適用

と実務との乖離を招き、事業プロセスとの統合という観点から、好ましいことではない。

審査においては、業務上の文書類の中にISO 9001 適合を実証する部分が埋め込まれていることを検証していくことになる。

いわゆるISO 文書という形で作られている場合に比べ、審査員には力量が求められることになるだろう。

どのような形、範囲で文書化が行われていても、ISO 9001 で必要とされている範囲が適切

に文書化されており、QMS の有効な運用につながっている場合は、問題ではない。

(引用ここまで)

 

このJABの規格解説の説明を受けて、多くの認証機関は、「組織は、規格要求事項について適合していることを認証機関に示す実証責任がある」としつつも、実態としては、ISO審査員が、認証審査を通じて、組織が構築した文書類や聞き取り情報から、規格要求事項の適合性を検証する方式に変化しました。

つまり、1990年代の認証審査と比較すると、組織の文書体系を、わざわざ、規格要求事項に沿って、構築する必要性はなくなり、もともとの社内文書類から、要求事項を捉えて、不足する部分を埋めていくスタイルに組織は変りました。

そのため、いわゆる「ISO認証審査のためだけの文書類」が、ほぼなくなったのです。

 

少し話は逸れますが、「ISO認証審査のための記録」として、「マネジメントレビュー記録」があります。

要は、「定期的に、経営者は、マネジメントシステムをレビューしなさい」という要求事項です。

このマネジメントレビューも、今では、「経営幹部会議」や「全体会議」、「管理職会議」、「月間社内検討会」といった「もともと社内に存在した会議体」に置き換えるケースが増えました。

 

ただ、これらの会議体を「マネジメントレビュー」とした際に、「弱いなぁ」と思うのが「経営資源の見直し」や「マネジメントシステムの有効性」という観点についての経営者のレビュー内容の有効性です。

 

おそらく、これらの会議体は、社内情報の「速報性」や「進捗管理」、「状況報告」といった点が主眼です。

つまり、社内で問題点を情報共有し、経営者のタイムリーな判断や指示をするために会議があります。

したがって、半年や1年というスパンで、振り返ったときに、「あの時の指示は、あとで振り返ると適切ではなかった」とか「俯瞰して社内を捉えると、数年後の経営資源(人、設備、システム等)に不足が生じる懸念がある、といった視点がどうしても弱くなる傾向があります。

 

既存の社内システムをISO要求事項に置き換える際に、「規格の意図が不足しがちな点は何か」という視点でQMSを構築・運用することが大事だと思います。

(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ830号より)
 

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