組織の仕事の仕組み(マネジメントシステム)が国際規格に適合し、有効に機能しているかを第三者が審査し、世間に公表するISOマネジメントシステム認証制度がある。
このISOマネジメントシステムについて、最近、個人的に気になっている点を備忘録代わりに、何回かに分けて少しまとめておきたい。
今回のテーマは、「遠隔審査(リモート審査)について」について。
ISO審査に関係したことがある方ならご存知の通り、新型コロナウイルス感染症の拡大により、2020年4月16日に、ISO & IAF のAuditing Practices Group (APG) が遠隔審査についてのガイダンス文書を発行しています。
ただ、遠隔審査の方法論は、コロナ禍以前からあり、すでにISO 19011: 2011年版にも掲載され、ISO 19011:2018年版では附属書A1でその手法が述べられていました。
しかし、私の主観かもしれませんが、コロナ禍以前は、殆どの認証機関が、遠隔審査の利用は消極的だったように思います。
おそらく、根底には、品質管理の原則である「3現主義(現場、現物、現実)」や「5現主義(3現主義に原理、原則を追加したもの)」が認証機関にはあり、「リモート審査では、実態が見えない」という意識があったのだと思います。
《5現主義のおさらい》
・現場:現場に足を運び, 現場の状況を確認する
・現物:現物を触れる・見るなどして確認する
・現実:実際に起きた事実を正しく知る
・原理:事象やそれについての認識を成り立たせる根本となる仕組み
・原則:多くの場合に当てはまる基本的な規則や法則
つまり、
「現場に足を運び、現物を目や耳などの五感で確かめて、現実の状況を理解することがマネジメント審査の本質であり、勝手な推察や憶測を排除し、事実の誤認を防ぐ」
と(建前で)考えていたんだと思います。
また、被監査組織や市場などの立場で捉えれば、
◆決して安くない認証費用なのに、リモート審査では、価値が下がる
という意識もあったと思います。
しかし、コロナ禍で、被監査組織からむしろ「訪問しないで審査して欲しい」と要望されれば、認証機関も遠隔審査を進めないはずがありません(笑)
実際、リモート審査は、
・訪問による新型コロナウィルスの感染リスクがない
・緊急事態宣言等外出自粛に伴う審査日程を変更する必要がない
・審査員と被監査組織側関係者の交通費、宿泊費等を削減できる
といったメリットがあります。
認証機関によっては、組織に請求する交通費、宿泊費は定額制となっています。
しかし、審査を委託した契約審査員に対する交通費等は、実費で支払っているので、ケースによっては「認証機関が交通費、宿泊費の若干の持ち出し費用が発生」すると思いますが、リモート審査なら、その心配もありません。
リモート審査で考慮が必要なのは、
・Web会議システムの音声が聞き取りにくいケースがある
・Web会議システムの書類の画面共有は、意外と見にくい(複数画面が見られない)
・事前準備として、電子媒体の文書、記録を共有サーバーにアップしておく必要がある
・サイトツアーや製造工程確認時のWebカメラの画像、音声が乱れやすい
・・・
といった点です。
実際に、リモート審査を数多く実施したことがある知人にお聞きすると、
「目の前に相手がいるときと違って、たたみかける質問がしにくい」
「確認が表面的になる恐れがある」
「組織から用意された資料やスタッフ以外の確認がしにくい」
といったデメリットはあるようですが、「思っていたほど支障はない」ようです。
また、(組織にもよるが)「事前に資料を共有サーバーにアップロードしてもらえるので、現地でその場で確認するよりじっくりチェックできる」という知人もいて、むしろ、ケースによっては、審査自体が深く確認できる場合もありそうです。
ただ、「認定審査」のリモート審査は、なかなか難しいようです。
これまでの話しは、「組織と認証機関」のリモート審査ですが、認定審査では、認証機関の審査が適切に実施されているか否かを監視する活動なので、少し事情は違うようです。
ケースとしては、
◆認証機関、認定機関ともにリモート審査
◆認証機関は現地訪問、認定機関はリモート審査
がありますが、問題は、後者のケースです。
前者の場合は、例えば、Web会議システムで、組織の回答が聞き取れないなど、不具合が生じれば、認証機関も状況は同じです。
しかし、後者の場合は、認証審査が円滑に進行しているので、認定側が「音声が聞こえません」、「認証機関が確認している文書が見えません」と審査中にいえば、審査を中断させてしまうので、トラブルを伝えにくい側面があります。
まだ、本格的なリモート審査が始まってから、1年弱。
認証機関も、認定機関も手探りの状態だと思いますので、前向きな思考で、この問題について、注目していきたいと思います。
(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ739号より)
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