宮田遊太は甘いものが好き。
甘いものなら全部好き。
ケーキやチョコ、アイスにキャラメルコーン。甘いものは全て大好物。
買い物へ出掛けると必ずお菓子などの甘いものを買う。
遊太にとっては甘くて美味しいスイーツは日常には欠かせない無くてはならない娯楽の食べ物。
特に限定スイーツには目がない。
文字通り「限定」。一年に一度しかないイベントで決められた季節とそこでしか食べられない絶対に見逃してはいけない年に一度のパラダイス。
日本各地や海外へ行かないと買えないスイーツは、ネットで調べ予約し購入する。
テレビで紹介されたスイーツさえあれば、休みの日を取って食べに行くか買いに行く。
全国のいや、世界の甘党ハンターなら絶対に極上のスイーツを手に入れる為、どんな手段を使ってでも手に入れようとするに違いない(あくまで遊太個人が思っていること)。
でも、甘党ハンターにとって要注意しなければならないのは値段だ。
豪華で高ければ高いほど値段が張っていたら、貧乏甘党ハンターは泣く泣く諦めるしかない最も辛い決断を持たなければならないのだ。
遊太も食べてみたいスイーツはいくつもあったが、そのスイーツの値段が高くて諦めるか悩みに悩んでしまう。
こちらの財布もできれば余裕を保ちたい。今後の生活に支障をきたさないようにしなくちゃいけない。
欲しい物があるからあまりお金を使いたくない。生活費がカツカツになったら次の給料日まで持ちこたえられるのだろうか。
そう自問自答を繰り返しながら買うか買わないかの選択に迷いながら少しずつ時間が過ぎ去って行く経験もいくつかある。
甘党だからこそ、珍しいスイーツ、まだ食べた事ないスイーツ、季節だけしか味わえないスイーツがあると「食べてみたい!」という衝動が起きる。
もちろん、遊太がやっているツイッターにもスイーツ関連情報のアカウントをフォローしている。
毎日、甘党匹敵の最新スイーツ情報が届いていないかチェックしているぐらいだ。
しかもしかも、特別な日や頑張った自分へのご褒美に甘いものを食べるといつもより倍美味しく感じられるのだ。
きっと、そう感じるのは遊太だけではないはず。
そうそう。遊太はスイーツはもちろんお菓子も好きだ。
しょっぱいお菓子が好きならば甘いお菓子も大好き。辛いお菓子は少々苦手だが妙に挑戦心が沸く時がある。
この前なんか新商品として売っていたハバネロ級の激辛スナックを見つけ抵抗を抱いていたが、興味と挑戦心が勝ってしまい購入した。
そして、家で実際食べてみたらあまりの辛さに口から火炎放射を出してしまい舌と喉が火傷したかのようにヒリヒリと痛かった。一口食べた後、捨てようと思っていたがもったいない精神による拒否反応が起きて体が一時的に動かなかったのだ。
捨てるなんてとんでもない。そう体が言っていているかのように遊太の意志に逆らった。
そして、ちょっとしか食べてないのに捨てるのはもったいないなと脳内に浮かび遊太は意を決してスナックを鷲掴みし口の中へ入れた。
その後、遊太の身に何が起きたのかご想像がつくでしょう。
あの激辛スナックを買ったのが失敗だったと後々後悔し、もう激辛スナックなんて二度と挑戦しないと誓った。
まぁ、そんなこんなで激辛のお菓子に目が通ったらなるべく避けるのが遊太個人の流儀である。
いや、これはたぶん流儀ではないか。
今日は仕事から帰って来た遊太は駅に着いたら改札口を出てショッピングセンターのすぐ隣にある階段を下りる。
階段を下ると目の前に若葉のマークが付いたスーパーマーケットへ足を運んだ。
ここは、食品だけでなく日用品も兼ね備えている広いスーパーマーケットなのだ。買い物する時にけっこう通っている。
ここに来た理由は、今日の仕事で頑張った自分へのご褒美を買いに寄ったのだ。
そして今朝、冷蔵庫の中身を見たら食料がだいぶ少なくなっていたのでご褒美を買うついでに家の食料を補充しに来たのだ。
遊太は入り口の自動ドアを潜り目の前に設置されていた消毒液を手につけ馴染ませた。
手に取った買い物カゴをカートの上に乗せてレッツラゴー。
青果コーナーに野菜コーナー、精肉コーナーに魚コーナーなどスーパーマーケットに売られている食品を見て回りながらこれ買おうと思ったら手に取ってカゴに入れる。もちろん、明日や明後日の朝夜の献立を考えつつ食品をドサッドサッとカゴの中に入れる。
明日は在宅勤務だし夜は野菜炒めをラーメンに乗せて食べよー。で、グラノーラ買って朝食べよっかな。
とかいろいろ想像しながら明日明後日の飯の献立を考える。明後日のその後の日は、思いつきで冷蔵庫にある物をちゃちゃっと作る。
遊太の食べたい物、飲みたい物を次々とカゴに入れる。
食品は積み重なりカゴからギリギリはみ出しそうになっていた。
そして、いよいよ遊太はアイスコーナーへ足を運ぶ。
冷凍ケースと冷凍庫の中にはいろんな種類のアイスが並んでいる。
冷え冷えに冷凍されているたくさんのアイスのパッケージはとてもカラフルでバラエティが充実していてすごく賑やか。
今日はアイスの気分だった遊太は少しだけどれにしようか迷うもこれにしようと手を伸ばした。
手に取ったのは「パルム」というチョコレートアイスバー。
そして、普段のおやつとしていちごショートケーキ味の「爽」と「ジャンボコーン」もカゴに入れた。
アイスが好きとはいえ、さすがに三個食べるのは無理なので今日は家に帰ったらパルムを食べることにしている。
一通り、自分へのご褒美と自宅の冷蔵庫に補充する食料たちを揃えたらレジへ向かう。
夜の8時を過ぎていても買い物をする人はたくさんいる。
遊太はちゃんと列を乱さぬよう後ろから並んで少しずつ前へ進んでいく。
順番ずつ並び前の人が会計をし終えると遊太の番がきた。
カートから降ろした買い物カゴが店員さんの側に着く。
店員さんは一つ一つずつ丁寧に商品と有料レジ袋に付いているバーコードをレジで読み取りながら新しいカゴに入れてくれる。
レジをやっている人は女性で60代後半ぐらいのおばあさんだ。
おばあさんは頭に紺色の帽子を被り青ワイシャツを着てグレーのエプロンを付けている。
紐付き眼鏡を掛けている真面目そうなおばあさん店員は黙々と食品のバーコードを読み取っている。
遊太はここしか使えないスーパーマーケットのポイントカードを財布から引っ張り出した。
ポイントカードも若葉マークが付いていて鮮やかな色をしている。
見せるとおばさん店員はバーコードリーダーを持ってポイントカードの裏にかざした。
カードの裏にはバーコードが付いている。すると、レジからピッと音が鳴った。
ポイントが付与した合図だ。
遊太がポイントカードを財布にしまうとおばあさん店員は食品バーコードの読み取り作業を再開した。
全ての食品を新しいカゴに移し終えるとレジのモニターに遊太が買い物カゴに入れた商品の総合金額が表示出た。
遊太は買い物カゴをレジから精算機の台に移した。
精算機はレジモニターに表示出た総合金額の数字が出ている。
金額は7000円を超えていた。ガラガラになった冷蔵庫をいっぱいにするには当然の金額。
精算機に現金払いのボタンを選び財布を開けた遊太は一万円札を出した。出した一万円を精算機に入れ出てきたお釣りを受け取りおばさん店員が移し入れてくれた購入カゴをカートに乗せ買ったものを袋に詰める為、人が集まっているテーブルへ移動した。
うまく食品をレジ袋に詰め終えた遊太が出てきた。パンパンに入ったレジ袋2つを持つ姿がよく見える。
たくさん買ったものだからかなり重い。でも、家に着くまで辛抱だ。
遊太の家はここから15分ぐらいはかかる。そんなに遠くはないのですぐ帰れるのでパンパンに入った袋を持ちながら我が家へ帰宅する。
自宅に着いた遊太は台所近くにたくさん買い物した荷物を置いた。自分の部屋へ戻りバッグを下ろした後、手洗いをしてレジ袋の中を漁りながらスーパーマーケットで買った食品を冷蔵庫に入れる。
食材を冷蔵庫にしまう作業が終わると一旦、部屋に戻り今日着ていた服を脱ぎパジャマと新しいパンツを持って風呂場へ向かう。
風呂場で温かいシャワーを浴びパジャマに着替えたら待ちに待ったご褒美タイムに突入する。
ご褒美のパルムは冷蔵庫に入っている。冷蔵庫を開けこれから食すパルムの袋を手に取った後、リビングのソファへ飛び乗った。
ソファのクッションが飛び乗った衝撃を吸収し遊太のお尻を優しく支えた。遊太はアイスコーナーで買ったパルムの袋を強く開け中身にある本体を引っ張り出す。
木の棒が刺さり上から下までチョコレート一色にコーティングされたアイスが姿を現した。その姿は、ほんのそこらの普通のアイスとは違いリッチ感がある。
大人が満足できそうな贅沢オーラがすごく伝わる。今日頑張ったご褒美に最も相応しいデザートだ。
満面な笑みを浮かべながら豪華なアイスをパクリ。ビターな香りとチョコレートの味が口の中に広がって大人な風味を感じた。
アイスクリームとチョコが一体感となって味わい深く生チョコのようにしっとりとした噛み応えがある。
うんめぇ~~~~~~!
贅沢な味が口の中に広がっていて遊太はとても幸せそうな顔を表に出した。まるで、高級アイスを食べているかのような感覚でほどよい苦味と冷たくて滑らかな甘さが遊太の舌を楽しませてくれる。
仕事で疲れた時にちょうどいい癒しのおやつ。夜に食べる風呂上りのパルムは至極な幸せ時間。堪らなくって仕方がない!
一口目を食べ終わると再び口を開けて二口目をパクリ。
はぁ~~~~~ウメェ~~~~~!
ため息が出てしまうぐらいの美味。こんな素晴らしい贅沢なアイスを開発してくれた森永なんとかさんに感謝感激パルム最高!!
これが、遊太の幸せ時間。至極の美味であるパルムを食べている今こそ裕福感を満たす最高な一時。
アイスが美味い時代に生まれてきてよかったと大袈裟に感動する遊太であった。
こうしてゆっくり味わいながらリッチで贅沢さを楽しませてくれるパルムを舌鼓する。
すると、この贅沢な時間にメッセージの着信音が鳴った。
スマホを片手にせっかくの幸せ時間を邪魔された愚かなLINEメッセージを見た。着たのは、遊太が働いている仕事場の社長だ。その社長は遊太より年下でいつも派手な服装を着ている。楽観的というか生意気なところがあるけど職を失った遊太に手を差し伸べてくれた恩があるので彼に感謝しなければならない。
メッセージの内容は仕事関係だ。明後日、とある映画の取材に行ってほしいとのこと。そして、まだ作成途中の記事による催促。
遊太は内容を読んで早速、了解スタンプを添えて返信メッセージを送信した。
社長に送ったスタンプは、「承知しました」と言う文字を添え可愛く敬礼するドラえもん。
すると、すぐさま既読が付き社長から「よろしく」スタンプが着た。
俺の至福の時間を邪魔しやがって。このヤロー。と遊太は心の声で呟いた。決して悪口ではない。少し遊び半分に呟いたまでだ。生意気で派手好きな社長だが不思議と憎めない。年下でありながら遊太にとってその社長は嫌いでなければそんなに好きでもない。好きと嫌いの真ん中あたりだ。あの性格は、昔と変わらない。
メッセージを返し社長のことを振り返っていたらもう既にアイスが無くなってしまった。残っているのはアイスに刺さっていた棒だけ。遊太は棒をガジガジと嚙み始めた。なぜなのか分からないけど時折り、妙に棒をガジガジしたくなる時があるのだ。
ガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジ
ガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジ
上顎と下顎の歯で噛んで噛んで齧りまくっていると最初は硬かった棒がだいぶ柔らかくなった。
小さい頃からそうだ。時々、木の棒を齧りたくなる時があるのだ。何の味もしないただの木の棒をどうしてこんなにも噛みたくなるのか未だに謎である。
謎のガジガジタイムが終わると遊太はソファから立ち上がりフニャフニャになった棒と開けた空っぽの袋を台所にあるゴミ袋に入れた。
至福のおやつタイムが終わった遊太は洗面所へ赴き歯ブラシの上にミント味の歯磨き粉を乗せる。鏡に映る自分の姿を見ながらシャコシャコと歯を磨き溜めたコップの水を口に含みペッと出す。
そして、リビングの電気を消し自分の部屋へ戻った遊太はベッドの上に乗ってスマホ画面に流れるYouTube動画を観る。
好きなアニメの面白いシーンや好きなアーティストのMVなどいろいろなジャンル動画を視聴する。
しばらくYouTubeを観てキリのいいところでスマホを机に置き充電器をさして電灯の明かりを消し布団に潜った。
フカフカの布団に身を包まれながらも遊太は気持ち良さそうに眠る。
遊太の幸せな時間は、これからも続く──