コンテンポラリー・ダンスの振付家として、挑戦的な作品を発表し続けている苫野美亜が、第8回目となるプロデュース公演を2022年12月29日(木)に横浜ランドマークで開催する。会場内にいわゆる客席を設けず、周游型に観客は好きな場所で作品を鑑賞する実験的な試み。ストリーミング配信、アーカイブ配信も予定されており、映像作品としても期待できる公演だ。
テーマは「Mid/Point(ミッドポイント)」。この世に存在する、相反するものの中心点を感知し、様々な問題の解決策を探る、という試み。このテーマを深く掘り下げるため、苫野は哲学的な思想を伏線として張り巡らせ、観る者を深い思考の世界へと誘う。
企画にはアドバイザーとして苫野の実兄で哲学者の苫野一徳を据え、ダンスと哲学の関係性を探る。(取材と執筆:四柳育子)
上演される作品は3作品。若い世代20-30歳のダンサーが踊る「Inner(A)」、30-40代のダンサーが踊る「HYORI」、熟練の70代が踊る「白鳥の歌」。それぞれの作品について、苫野美亜の作品制作への想い、苫野一徳からみる哲学的な見方を紹介したい。
Inner(A)
出演/横山翼、片山夏波、REMAH
苫野美亜:相反する二つの事が同時に起こる時、人はどのように感じるでしょうか。
創作に取り取り掛かっていたその時期、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発しました。これは私にとって非常に衝撃的な出来事でした。そこには対立構造と二極化が見え隠れしていると感じました。地球の反対側で戦争が起こっているというのに、私は日本でダンス創作をしている……。人は当事者にも、傍観者にもなれる。同じ事象を主観的か、客観的か、捉え方や状況によって、人は感じ方が大きく違います。
作品では性別や、表現方法の違いをいかに調和させること出来るかに焦点を当てました。
苫野一徳:哲学ではAとBが対立するときに、どちらが正しいかという決着は付けません。反発するAとBの双方が納得する、もっと良い解決方法を見つける。そのためにはAとBの根本的な欲望を深く探り、遡る必要があります。互いの深い欲望を満たす方法を探ると、どちらも合意出来る解決方法「C」を見出せる可能性が高い。これは哲学では基本的な考え方です。
異なるものが互いに歩み寄り、更に解決方法を見出すためにはコミュニケーションが欠かせない。作品の中に両者の対話、本当のコミュニケーションが見えるか、注目して下さい。
HYORI
出演/松岡大、高瀬瑶子、坂本弘道
美亜:ここに離れられない二人がいます。なぜ離れられのないか。二人のダンサーの衣装の一部分が繋がっているので、物理的に離れられないのです。制限がある中で、自由な表現はどのように生まれでしょうか。
ダンス・スタイルに焦点を当てると、重力からの解放に重きを置くバレエと、重力を味方に動く舞踏。様式美と精神美。バレエと舞踏は両者とも身体の動きを言葉にして伝えるという方法を使いながら、表現が異なって見えます。この二つを一つとした時にどのような化学反応が生まれるか。刹那的な動き、その場でしか生まれ得ない空間表現を見て下さい。
一徳:人は一人では生きられない。誰かと「共同体」で生きて、繋がりを求めるものです。しかし人が集うと、そこには諍いが生まれることが多いのではないでしょうか。共に生きたいと安定を求めながら、同時に不自由(不安定)が生まれるという矛盾。
大きな目線で見ると、人類の歴史は何千年も対立や争いごと、戦争を繰り返してきました。誰かと共に生きることを望みながら、離れたいとも思う。制限の中にあるからこそ、自由を見出すとは、何とも皮肉な事でしょう。
白鳥の歌
出演:尾本安代(谷桃子バレエ団シニアプリンシパル)
美亜:若さか老いか、肉体か精神か。この作品で、上演する他の二作品で提案した問いの答えを探ります。ダンサーは精神的に一番充実している70代にありますが、一般的な考え方として、この時期は若い頃と比べると肉体表現に制限があるでしょう。理想と現実の間に、割り切れない想いがあるかもしれない。相反する考えを持ちながら、それを超越するダンサーの精神性に注目してください。
一徳:生と死の中心点というのはもしかすると「送っていくこと」にあるのかもしれません。哲学は思想というバトンを次世代に渡し、これまで続いて来ました。その目的はより良い社会を作ることにあります。
人の営みをみると、対立はあるものです。その対立が出発点。でも対立しても合意は可能という考え方を知ると、反発しあっても「ミッドポイント」を見出せる。そのような経験を重ねることによってより良い社会、人生を構築することが出来るのでしょう。
(インタビュー:2022年12月2日)
苫野美亜(とまのみあ)
4歳よりクラシックバレエを始め、山本禮子バレエ団を経て、中村恩恵主宰「Dance Sanga」で活躍。2014年より主催公演Dance Performance LIVEの企画制作プロデュースを務める。2014年横浜市テアトルフォンテ・アズビル・アワード受賞。2020年週刊オン・ステージ新聞ベスト振付家に選出。現在、フリーの舞踊家・振付家として全国で振付作品の上演、ワークショップを開催している。
苫野一徳(とまの・いっとく)
兵庫県芦屋市出身。哲学者、教育学者。早稲田大学大学院教育学研究科博士課程修了。熊本大学教育学部准教授。著書に「初めての哲学思考」(ちくまプリマー新書)、「別冊NHK100分de名著 読書の学校 苫野一徳 特別授業『社会契約論』」(NHK出版)などがある。
【公演概要】
公演名:苫野美亜プロデュースDance Performance LIVE #8
「mid/point」
日時:2022年12月29日(日)13:30開演(13:00開場)
17:00開場(17:00開演)
会場:横浜ランドマークホール
【チケットについて】
全席自由 前売り 4,000円(入場料3,400円+1ドリンク600円)
当日 4,500円(入場料3,900円+1ドリンク600円)
※演出の都合上、円遊型の観覧となります。
※未就学児のお子様のご入場はご遠慮いただいております。
【チケットのお取り扱い】
Confetti(カンフェティ)
https://www.confetti-web.com/detail.php?tid=69101&
電話:0120-240-540
【アーカイブス配信】
視聴券:2,000円(税込)
配信期間:2022年12月30日 (金)~2023年1月6日 (金)
視聴方法:Confetti(カンフェティ)にて動画配信チケットをご購入できます。
https://www.confetti-web.com/detail.php?tid=69298&
【公式サイト】
https://miatomano.com/nextevent
【問い合わせ】
Dance Performance LIVE制作委員会
電話:090-2524-0580
メール:miatomano@yahoo.co.jp